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女子力全開! 犯人を華麗にノックアウト

作者: れっど
掲載日:2026/05/17

スーパーの明るい照明の下で、私は5歳の娘・ユイの手をしっかり握っていた。

夕方の店内は家族連れで賑わい、買い物カートがゆっくりと通路を行き交っている。

私は夕飯の材料をカゴに入れながら、時々ユイの小さな手を確かめていた。

「ママ、お菓子取ってくるね!」

ユイが目をキラキラさせて上を向いた。

いつもの元気いっぱいの笑顔だ。

「いいよ、でもすぐ戻ってくるんだよ? 迷子にならないようにね」

「うん! 約束!」

ユイはピンクのスニーカーをぴょんぴょん鳴らしながら、棚の向こうへ駆け出していった。

私は牛乳パックを手に取りながら、笑顔で声をかけた。

「うん、気をつけてね」

……それが最後だった。

ほんの十秒ほど目を離しただけだった。

牛乳の賞味期限を確認して、カゴに戻した瞬間には、もうユイの姿はどこにもなかった。

「ユイ? ユイちゃん!」

声が少し上ずる。

私はカートをその場に置いて、近くの通路を走り始めた。

お菓子売り場、ジュースコーナー、玩具の近く、果物売り場……どこを探してもいない。

心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。

「ユイ! どこ!? ママだよー!」

店内放送で呼びかけてもらう。店員さんや警備員さんに必死で聞き回る。

「ピンクの服を着た、5歳の女の子です。髪はツインテールで……」

誰も見ていないと言う。

防犯カメラを確認してもらうが、ユイが映った直後に死角に入ったまま見失ったらしい。

時間が経つごとに恐怖が胸を締め付けた。

30分、45分……1時間。

喉はからからに渇き、スマホの電池は残りわずか。

足は棒のようになり、頭の中は最悪の想像ばかりがぐるぐる回っていた。

誘拐。

連れ去り。

事故。

……考えたくないことばかりが浮かんで、涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。

「もう警察に行こう……」

私は震える足で駐車場に向かった。

その時、古びた廃墟のようなビルの入り口に——

ユイが今朝履いていた、小さなピンクのスニーカーが片方だけ、ぽつんと落ちていた。

「……っ!」

心臓が凍りついた。

息が止まる。

拾い上げた靴は、まだ少し温かかった。

ユイの匂いがした。

怖かった。

警察を呼ぶべきか、このまま入るべきか。

でも、迷っている暇なんてなかった。

ユイがこの中にいるかもしれない。

今、この瞬間も泣いているかもしれない。

私はユイの靴を胸に抱きしめ、暗いビルの中に飛び込んだ。

崩れかけたコンクリートの階段は埃だらけで、蜘蛛の巣が張り、足元は不安定だった。

息を切らしながら必死に駆け上がり、暗闇を突き進む。

時々壁に手をつき、転びそうになりながらも上へ上へと進んだ。

すると、上の方から男の低い声が聞こえてきた。

「へへっ……お前みたいな可愛い子、外国に売り飛ばせばかなりいい値になるぞ。

大人しくしてろよ」

そして、泣き叫ぶ声。

「うわーん! ママー! ママぁぁぁ! 助けてー!」

ユイの声だ。間違いない。

私は最後の力を振り絞って、錆びた鉄のドアを**バンッ!!**と全力で蹴り開けた。

冷たい風が一気に吹き込んでくる。

「娘を離しなさい!!」

そこにいたのは、薄汚れたTシャツを着た男と、

手足をガムテープでぐるぐる巻きにされ、口に雑巾を突っ込まれたユイだった。

ユイの目は真っ赤に腫れ、私を見た瞬間、大きな涙が溢れ出した。

男は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに舌打ちした。

「ちっ……なんでここが分かったんだよ。

まあいい。お前が来たんなら、ついでに二人とも堪能してやるわ」

ぞっとするような、ねばつく笑み。

気持ち悪くて吐き気がした。背中が総毛立つ。

「娘を……今すぐ離しなさい。このクズ……!」

私の声は低く震えていた。

男は肩をすくめて笑う。

「だったら俺と決闘しろよ。

勝ったら娘を返してやる。

どうせ女が男に勝てるわけねえけどな!」

……決闘?

この状況でそんな馬鹿げたことを言う男の顔を、私は本気で殴りたくなった。

でも、他に選択肢はない。

ユイを救うためには、どんなことでもしなければ。

私は静かに息を吸い、拳を握りしめて構えた。


男は最初から本気だった。

「くたばれ!」

低い踏み込みから放たれた右ストレートが、風を切って私の顔面に迫る。

咄嗟に後ろに下がったが、拳の風圧だけで頰が熱くなった。

続けて左のフック。

私はガードした腕に直撃を受け、ゴンッという鈍い音と共に体が吹っ飛んだ。

コンクリートの床に背中を打ちつける。

肺から空気が全て抜け、息ができない。

「ママー!! やめて! ママにやらないでぇぇ!!」

ユイの叫びが、屋上に木霊する。

男はニヤニヤしながら近づいてきて、私の髪を掴み上げた。

「ほら、もっと泣けよ。興奮するぜ」

そのまま顔面に拳をガツン、ガツンと二発。

唇が裂け、血が口の中に広がる。

さらに腹に容赦ない膝蹴り。

内臓が捩れるような激痛に、私は声を上げてうずくまった。

男の靴底が、私の脇腹を何度も蹴り上げる。

ドスッ、ドスッ、ドスッ。

骨が軋む音がする。痛みで視界がチカチカする。

(このままじゃ……ユイが……)

私は歯を食いしばり、這うようにして立ち上がった。

足が震える。左目が腫れて半分見えない。

それでも男の懐に飛び込み、必死に掌底を顎に叩き込んだ。

「ぐっ……!?」

男が初めて小さく呻いた。

私はそこからローキックを連打。

男の太ももを狙い、動きを鈍らせる。

しかし男はすぐに反撃。

大振りの右回し蹴りが私の肩を捉え、再び床に叩きつけられた。

「まだやるのかよ、このクソ女!」

男が飛びかかってくる。

私は転がるようにして逃げ、屋上のフェンス際に追い詰められた。

男の拳が雨のように降ってくる。

ガードする腕が痺れ、肩、胸、腹……全身が打撃の嵐に晒される。

痛い。

苦しい。

でも、ユイの泣き声が聞こえるたび、消えかけた意識が何度も蘇った。

その瞬間——

朝の占いが脳裏に蘇る。

『今日のラッキーカラーは赤。危機に陥った時、赤があなたを守り、力を与えるでしょう』

(今日のラッキーカラーは赤か……

赤は、ヒーローの色。正義の色。女子の色。そして、強い色——)

この色に賭けてみよう。

私はヨロヨロと立ち上がり、

着ていた薄手のジャケットを勢いよく脱ぎ捨てた。

鮮烈な真っ赤なカーディガンが、夕陽に照らされて燃えるように輝いた。

風に翻るその赤が、私の目に、胸に、拳に力を注ぎ込んでいく気がした。

「ふん、何だその派手な色は」

男は怒りながら、再び突進してきた。

私は低く腰を落とし、すべての力を右の拳に集中させた。

男の重い右フックを、ギリギリで体を沈めてかわす。

拳が私の髪を掠める。

その瞬間、私は男の懐に滑り込み、

左の肘打ちをみぞおちに叩き込んだ。

「ぐおっ!?」

男の体がくの字に折れる。

私は止まらない。

右の掌底で鼻を打ち上げ、

続けて左フックで頰を抉り、

さらに右のローキックで膝を砕くように蹴り上げる。

男の動きが明らかに鈍くなった。

(これが赤の力かもしれない……

もしかして勝てるかも。

赤が私の女子力を高めている……!)

「この……っ!

くそ女が、派手な色をしやがって!」

男の目に、初めて恐怖の色が浮かんだ。

女に負けるかもしれないという、屈辱と恐怖。

男が最後の力を振り絞って大振りのパンチを繰り出す。

私は一歩踏み込み、すべてを避けながら男の体に密着。

そして、腰の回転を最大限に使った——

あたしの女子力を食らいなさい!

全力右アッパーカット。

「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

拳が男の顎を完璧に捉えた。

ゴキッという嫌な音がして、

男の巨体が一瞬、空中に浮いた。

「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

男は派手に後ろに吹っ飛び、

屋上のコンクリートに頭から叩きつけられた。

体がビクビクと痙攣し、もう立ち上がる気力は残っていなかった。

私は荒い息を繰り返しながら、ゆっくりと拳を下ろした。

指の関節が腫れ上がり、血が滴っている。

全身が痛みで悲鳴を上げていたが、

心は不思議と晴れていた。

(これが女の、そして母の本気よ……!)

「……参ったか」


ユイの元へ駆け寄り、ガムテープを必死に剥がした。

手足に食い込んだテープの跡が赤く残り、ユイの細い手首が痛々しかった。

口に詰められていた雑巾を抜き取ると、ユイは大きく息を吸い込み、すぐに私の胸に飛び込んできた。

「ママぁぁぁ……! 赤いママ、かっこよかった……! 本物のヒーローみたいだったよ!」

小さな体が激しく震えていた。泣きじゃくる声が、胸に染みて痛い。

私はユイを強く、強く抱きしめ、背中を何度も撫でた。

自分の体もまだ震えが止まらなかった。

「ごめんね……ママが目を離したから……本当にごめんね」

涙が溢れて止まらなかった。

「もう二度と離さないから。絶対に」

ユイが私の赤いカーディガンを小さな手で握りしめながら、

「うん……ママの赤、魔法だった……怖くなかったよ」と嗚咽混じりに言った。

私はユイを抱き上げ、ゆっくりと立ち上がった。

全身が痛みで悲鳴を上げていたが、娘の重みは心地よかった。

「女はいざという時、最強なんだよ。

ユイも、いつか分かる日が来るからね」

真っ赤なカーディガンが、優しい夕陽の中で静かに揺れていた。

私は娘の手を固く握り、廃ビルの屋上を後にした。

階段を下りる間も、ユイは私の首にしがみついたまま離れなかった。

外に出ると、遠くからサイレンの音が近づいてきた。

私がスーパーの駐車場で警察に連絡を入れていた通報が、ようやく繋がったらしい。

廃ビルの前にパトカーが数台到着し、制服の警察官たちが駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか!? 怪我は!?」

私はユイを抱いたまま、簡単に状況を説明した。

屋上に倒れている男のことを伝えると、警察官たちが一斉にビルへ突入していった。

数分後、男は手錠をかけられて連行された。

意識はあったが足取りはおぼつかず、私のアッパーカットを喰らった顎を押さえながら、

恨めしそうな目でこちらを睨んできた。

しかし私は、ユイを抱いたままその視線を真正面から受け止めた。

男はすぐにパトカーに押し込まれ、連れ去られていった。


その夜、病院でユイと一緒に検査を受け、軽い打撲と打撲傷の診断を受けた。

ユイはショックで少し高熱を出したが、翌朝には落ち着いた。

そして翌日のニュースは、大きく報じられた。


【速報】廃ビルで幼女誘拐事件 母親が犯人を単身制圧 「娘を守るために戦った」


「5歳の女の子がスーパーから誘拐され、廃ビルに監禁されるという事件が発生。

母親(32)が娘の靴を手がかりに現場に突入し、犯人の男(35)と素手で対決。

激しい格闘の末、男を倒して娘を無事救出しました。

警察は『一般市民がここまで犯人を制圧したケースは極めて稀』と驚きを隠せません……」

テレビでは私の赤いカーディガンを着た後ろ姿や、

倒れた男が連行される映像が流れ、

「母親の愛と勇気」「現代のスーパーマン(ウーマン)」「赤いカーディガンのヒーロー」といった見出しが躍った。

インタビューも少しだけ受けた。

「ただ、娘を守りたかっただけです。特別なことは何も……」

そう答えるのが精一杯だった。


数日後、私は少し恥ずかしさを感じながらも、

ユイと一緒に近所の公園を歩いていた。

「ママ、ニュースでいっぱい出てたね!

みんなママのこと『強いお母さん』って言ってるよ!」

ユイが嬉しそうに言うので、私は頰を赤らめた。

「ちょっと恥ずかしいよ……ママ、ただ必死だっただけなんだから。

あの赤い服、魔法みたいだったけど……」

でも、心のどこかで、

誇らしい気持ちが確かにあった。

娘を守れたこと。

いざという時に、自分の中にこんな力が眠っていたこと。

そして、ユイが「ママはヒーローだ」と言ってくれること。

私はユイの手を握り直し、空を見上げた。

真っ赤な夕焼けが、

あの日の屋上を思い出させた。

女はいざという時、本当に最強なんだ——

私はもう一度、心の中でそっと呟いた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

この話は「いざという時の母親の強さ」をテーマにした、痛快短編です。

普段は普通の母親である美咲が、娘を守るためだけに立ち上がり、赤いカーディガンを翻して女子力全開で逆転する——という、ちょっと夢のあるファンタジーです。

「女はいざという時、最強なんだよ」という言葉に、母の愛の強さを込めました。

少しでもスカッとしていたり、胸が熱くなったりしたら嬉しいです。

短い物語ですが、最後までお付き合いいただき本当に感謝します。

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