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エルソード  作者: 水前寺鯉太郎


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第2話

機密文書:コード『エルソード』武装解析データ 補足報告

近接兵装デリートソード:スーツと一体化した高周波ブレード。プラズマ粒子の放出により、既存のあらゆる装甲を文字通り「削除」する。

遠距離兵装ビームボウガン:右腰マウント型。エルフの射撃術を模した精密弾道制御。有効射程、現在も計測中。

動力源バッテリーパック:最大活動時間10分。変身解除中に自己充電し、次回電着時は常に出力100%を保証する。

禁忌《超重力制御システム》:封印中。制御失敗時の被害規模——試算不能。

備考:エルソードを物理的に破壊できないなら、「使う理由」を奪え。

第2話:侵略のプロパガンダ

 炎上するルナ・フェルナを、数キロ先の丘から見下ろす影があった。

 マケドニア帝国・極東方面軍司令官、グレアム大佐。五十代、白髪交じりの短髪、表情のない目。彼は大型モニターに映し出された地下室の映像を、一言も発せずに眺めていた。

 銀色の戦士が動くたびに、兵士が倒れる。三トンの拳。弾丸を弾く装甲。零点零三秒の電着。

 グレアムの部下が口を開いた。「大佐、追加の砲撃を——」

「必要ない」

 即答だった。

「物理攻撃が無効なことは、最初からわかっていた」

 グレアムはタブレットを手に取り、一つのファイルを開いた。そこには「EL-SWORD」の文字と、剣の幼少期と思しき写真が並んでいた。「あの村を狙ったのは、奴を『殺す』ためではない。奴を『目覚めさせる』ためだ。そして目覚めた以上——英雄にする前に、潰す」

 静かに、しかし確信を持って、大佐は命じた。

「フェイズBへ移行。ドローン、全機展開。中継を開始しろ」

   *

 早水剣は、村の入り口に立ち尽くしていた。

 バイザーの向こう、熱源探知が「零」を示し続けている。動くものは何もない。燃えているものだけが、ある。

 アルヴィスの手が、瓦礫の中で静止していた光景が、剣の目の奥に貼り付いていた。

 泣けない。スーツを纏っている間、感情は遠い部屋に閉じ込められたままだ。それでも何かが胸の底で煮えていて、それが何なのか剣にはまだわからなかった。怒りなのか。悲しみなのか。それとも、ただの恐怖なのか。

 父さん、と口の中で呟いた。声にならなかった。

 その時、上空に羽音が満ちた。

 一機ではない。十機でも百機でもない。数百のドローンが、静かに剣を取り囲むように展開し、レンズを一斉に向けた。剣が両耳に手をかざした瞬間——

『——こちら、マケドニア帝国広報局。現在、世界同時生中継を開始している』

 剣の動きが止まった。

 ドローン群から投射されたホログラムが、夜空に巨大なスクリーンを張った。そこに映っていたのは、今まさに剣が立っている、炎上するルナ・フェルナの空撮映像だった。そして流れるテロップ。

【緊急速報:正体不明の銀色アンドロイド、エルフの村を無差別襲撃——死者多数】

「……っ」

 剣の喉が、言葉を探した。

 違う。俺は。俺が殺したんじゃない。

 しかしスクリーンの中の映像は、剣が地下室で兵士を殴り倒す場面だけを、巧みに繋ぎ合わせていた。攻撃されたことも、村が先に燃やされたことも、アルヴィスが死んだことも——何も映っていない。ただ、銀色の「機械」が人間を殴り殺す映像だけが、世界中に流れ続けていた。

『聞こえるか、早水剣』

 ドローンのスピーカーが、低く囁くように言った。

『お前がどれだけ強くとも、我々の「情報」は殺せない。お前は今この瞬間、世界中の画面に「怪物」として映っている。子供たちが怯え、政府が非難し、人々がお前の抹殺を求める声明を出し始めている。物理的な破壊が効かぬなら——社会からお前を消してやろう』

 剣は動けなかった。

 殴れば、その映像がまた世界に流れる。逃げれば、逃げる「怪物」の映像が流れる。叫べば、叫ぶ「機械」が流れる。

 何をしても、プロパガンダの素材になる。

 その時、足元に違和感があった。

 最初は微かな揺れだった。次の瞬間、地面が泥のように溶け始め、三トンの重量を持つエルソードの足首を、ゆっくりと飲み込んでいった。

「何だ——!?」

『「高周波土壌液化システム」だ』

 グレアムの声が、直接スピーカーから届いた。

『ドローンが着地した際に、周囲の土壌へ振動素子を散布させた。お前がここに来ることは、最初からわかっていた。プロパガンダ放送はお前を立ち止まらせるための陽動に過ぎない。物理装甲など関係ない——重ければ重いほど、沈むのが早い』

 剣の膝まで、泥が達した。

 引き抜こうとすると、逆に吸い込まれる。エルソードの脚部スラスターが唸りを上げるが、液状化した地盤に推力を逃がされ、出力が空回りする。バイザーの隅に数字が点滅し始めた。

 【残存稼働時間:08:47】

 変身から既に一分以上が経過していた。十分間という制限が、ここで初めて剣の意識に重くのしかかった。時間が切れればスーツは解除される。泥の中に、スーツなしの人間が一人、残る。

「……くそ」

 剣は歯を食いしばった。

 泥が腰まで達する。スクリーンの中では、沈んでいくエルソードの映像が「撃退された怪物」として実況されている。

『物理破壊でもなく。情報封鎖でもなく。ただ、沈める』

 グレアムの声に、感情はなかった。

『お前がどれほど怒ろうと、誰かを守りたかろうと、英雄になろうとしようと——我々はその道を、お前が動く前に塞ぐ。それがマケドニア帝国の戦い方だ』

 胸まで、泥が来た。

 バイザーの数字が点滅する。【残存稼働時間:06:12】

 剣は、泥の中で動かなかった。

 動けなかったのではない。考えていた。

 殴ることも。走ることも。叫ぶことも。今の自分にできることは、何も映像の外には出られない。

 だが——映像を、逆に使うことは?

 剣の視線が、頭上のドローン群に向いた。数百のレンズ。世界中に繋がったカメラ。今この瞬間、世界中の人間が、エルソードを見ている。

 怪物として。しかし——見ている。

 何かが、頭の中で動き始めた。

 泥が、肩口まで達していた。【残存稼働時間:05:30】

 剣は、沈みながら、考え続けた。

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