第八話:強制解体と再編
「……一分経過。交渉は決裂ですね」
セレスの声が、静まり返った謁見の間に冷たく響きました。
その瞬間、彼女の背後にあったホログラムが真っ赤に染まり、アラートが鳴り響きます。
「マスター、承認されました。全工程、強制執行に移行します」
王都の空が、三千の白銀の閃光によって埋め尽くされました。
帝国の誇る魔導障壁は、湊の計算通りコンマ三秒で中和され、ガラス細工のように砕け散りました。
「な、何をしている! 迎撃だ! 反逆者どもを一人残らず……」
皇帝の叫びは、轟音によってかき消されました。
正面の巨大な扉を突き破り、白銀の炎を纏ったレグ・ルクスが、玉座の目の前まで滑り込んできたのです。
「……うるさいな。現場の声が聞こえないだろうが」
コックピットから拡声された湊の声は、ひどく退屈そうでした。
湊はレグ・ルクスの巨大なマニピュレーターで、皇帝と王族たちが並ぶ壇上を、まるで邪魔な部品をどかすように掴み上げました。
「お前たちが愛したこの国は、今日限りで『廃版』だ」
「命までは取らない。……ただし、お前たちの居場所は、この地図にはもう無い」
湊の合図で、上空の輸送機が王族たちを収容し、そのまま国境の外……何も無い荒野へと放り出すべく発進しました。
それが、何世紀も続いた血脈の、あまりにも呆気ない終焉でした。
一方で、王都の外縁では、三千の少女たちが帝国軍の魔導兵器を次々と制圧していました。
彼女たちは敵を破壊するのではなく、特殊な干渉波で機体の「制御中枢」だけを焼き切り、強制停止させていきます。
「……抵抗はやめろ。お前たちの機体は、今この瞬間からマスター・ミナトの管理下にある」
リュミエの声が、全軍の通信網を制圧しました。
武器を捨て、呆然と立ち尽くす帝国兵たち。
湊はレグ・ルクスから降り立つと、広大な広場に集められた数万の軍勢を前に、宣言しました。
「これより、全ての軍備を『直属部隊』として再編する」
「お前たちの仕事は、誰かを傷つけることじゃない。この星の腐った回路を、俺と一緒に引き直すことだ」
「……文句がある奴は、俺のメンテナンス抜きで、その錆びついた機体と心中しろ」
湊の圧倒的な威圧感と、背後に控える三千の「完璧な少女兵器」たちの輝き。
帝国兵たちは、恐怖を通り越し、生まれて初めて目にする「本物の技術」の前に、ただひれ伏すしかありませんでした。
旧帝国の軍勢は、その日のうちに「新生技術帝国」の労働力として登録されました。
湊は、瓦礫の山となった王宮の跡地を見つめながら、手元のタブレットに新たな工程表を書き込みました。
「さて、掃除は終わった。……これからが、本当の『モノづくり』の時間だ」
【後書き】
第八話をお読みいただきありがとうございます。
交渉決裂から一気に王権を解体し、軍を吸収する湊の鮮やかな手腕を描きました。
王族を処刑するのではなく、何も無い屋外へ「国外追放」するという処置は、彼らにとって死よりも残酷な現実かもしれません。
そして、敵軍をそのまま自らの直属部隊へと変えてしまう湊の合理性。
これにより、湊は一気に大陸最大の勢力を手中に収めることとなりました。
次回は、再編された軍勢と共に、大陸全土のインフラを「核融合」で一新する、真の建国編をお届けします。
エンジニアによる世界改革の幕開けです。




