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鋼鉄の鼓動、星霊の火:オーバーホール・レジェンド  作者: ダッチショック


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第三話:欠陥品の記憶

レグ・ルクスのコックピットに漂う、微かなオゾンの匂い。 敵を退けた静寂の中で、湊は隣に座るリュミエの横顔を見た。


彼女は自身の機械化された右腕を痛むように抱え、虚空を見つめている。


湊の網膜に投影されたインターフェースが、彼女の右腕から発せられる微弱なエラー信号を検知した。


「リュミエ、その腕を見せろ。出力のフィードバックで、神経接続リンクが焼き切れる寸前だ」


「……構わないで。私は、こうなるために作られたのだから」


彼女の脳裏に、冷酷な記憶が蘇る。


ガルマ帝国の深部、冷たい石造りの実験室。


そこには、自分と同じような姿をした少女たちが、シリアルナンバーを振られて並んでいた。


「……第十四号、接続失敗。破棄しろ」


魔導科学者の無機質な声とともに、幼い少女が「ゴミ」として処理される光景。


リュミエは、古代のレグ・ルクスを動かすためだけに、無理やり魔導回路を移植された人造兵器だった。


感情を殺し、出力を絞り出すための「部品」。


「失敗作」の烙印を押され、解体される直前に彼女は逃げ出した。 あのレグ・ルクスを奪い、自分を兵器としてではなく、一人の人間として扱ってくれる場所を探して。


「帝国にとって、私たちはただの予備パーツに過ぎない……。この腕も、いつか限界が来れば壊れて捨てられるだけ」


自嘲気味に笑うリュミエの言葉を、湊は鼻で笑って切り捨てた。


「くだらない。機械を使い潰すのは、無能な使い手の言い訳だ」


湊はリュミエの右腕を取り、その接合部にある古いボルトを緩めた。


驚いて身を引こうとする彼女を、力強く、だが壊れ物を扱うように優しく制する。


「いいか。どんなに優れた部品も、適切なメンテナンスがなきゃゴミになる。帝国は『組み付け』が絶望的に下手なだけだ」


湊は自身の胸に宿る核融合エネルギーを指先に集中させた。


原子の火は、破壊ではなく「溶着」と「浄化」の熱となって、彼女の右腕に流れ込む。


帝国が無理やり癒着させた歪な魔導回路を一度焼き切り、湊の知識に基づいた最適な「バイパス」を再構築していく。


「……あ、熱い……。でも、痛くない。むしろ、自分の身体に戻っていくみたい……」


「当たり前だ。俺が今、お前の神経系を完璧に『調律』した。これで二度と、出力負けで腕が動かなくなることはない」


湊の処置が終わったとき、リュミエの機械腕は、それまでとは比較にならないほど滑らかに、彼女の意思に追従するようになっていた。


「湊……。あなたは、私まで『直して』くれるの?」


「俺はエンジニアだ。目の前にある最高傑作パーツが壊れたままなのが、我慢できないだけだ」


湊は操縦桿を握り直し、レグ・ルクスをさらに加速させた。


「リュミエ。帝国が捨てたのがお前なら、帝国はこの世で最も価値のある資産を失ったことになる。……後悔させてやろう。俺たちの国を作るには、お前の力が必要だ」


リュミエの瞳に、初めて兵器としてではない、強い意志の光が宿った。 二人の向かう先には、厚い雲に閉ざされた古代の廃都が眠っている。


そこには、湊が「建国」のために必要とする、膨大な数の古代の残骸スクラップが眠っていた。

【後書き】


第三話をお読みいただきありがとうございます。


リュミエの凄惨な過去と、それすらも「整備士の視点」で救い上げる湊の対比を描きました。 帝国が彼女を「消耗品」と呼ぶのに対し、湊は「最高傑作パーツ」と呼びます。 人道的であると同時に、技術者として最高のものを追求する彼らしい向き合い方を意識しました。


次回は、いよいよ古代の廃都に降り立ち、眠れる軍勢を再起動させる「建国準備編」へと突入します。 帝国がかつて投げ捨てた「欠陥品」たちが、湊の手で最強の軍団へと変わる様子をお楽しみください。 引き続き、よろしくお願いいたします。

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