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鋼鉄の鼓動、星霊の火:オーバーホール・レジェンド  作者: ダッチショック


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第十話:否定と肯定、工程

湊は、セレナが差し出した聖典を一瞥すると、意外な言葉を口にしました。


「勘違いするなよ、セレナ。俺は信仰そのものを否定しているわけじゃない」


その言葉に、セレナは驚いたように顔を上げました。 合理主義の権化のようなこの男が、精神的な拠り所を認めるとは思っていなかったからです。


「……信仰も、ある種のマニュアル(指針)としては大事だ。人は、何のために動くのかという目的意識がなきゃ、ただの摩耗する部品になっちまうからな」


湊は、近くで作業をしていた少女兵士の一人に歩み寄り、彼女の肩を軽く叩きました。


「こいつらが俺を信じて動くのも、一種の信仰だろう。だが、俺が提供するのは『奇跡』じゃない。『信頼に足る結果』だ」


湊は空を指差しました。 そこには、核融合の光によって夜でも明るく照らされた、かつての貧民街が見えます。


「神に祈って、明日食えるかどうかわからない不安の中で生きるより……。このレバーを引けば、確実に火が灯り、飯が炊けるという『確信』。その確信の積み重ねが、強固な精神を作る」


セレナは、湊の言葉の真意を探るように、自身の胸元に下げた聖印に触れました。


「つまり、マスターにとっての信仰とは……心のメンテナンス、ということでしょうか?」


「おそらくな。心が錆びついてちゃ、どんなに身体を機械化して出力を上げても、いつか回路が焼き切れる。自分を支える柱を持つことは、エンジニアの視点で見ても正しい設計思想だ」


湊は少しだけ表情を和らげ、セレナの持つ聖典を指差しました。


「お前の神様が、もし『隣人を助けろ』と言っているなら、そいつを心に刻んでおけ。その意志があれば、お前が握るレンチは、誰かの絶望を直すための最強の工具になるはずだ」


セレナは、初めて湊に対して深く頭を下げました。 それは、征服者に対する服従ではなく、一人の導きマスターに対する敬意でした。


「……はい。私は、この国で『技術』と『心』の両立を学びます。祈りが届かない場所に、私の手で光を届けるために」


湊はフンと鼻を鳴らし、再び図面へと視線を戻しました。


「なら、まずはその聖服を脱いで作業着に着替えろ。祈りの言葉を唱える前に、ボルトの三級締めを三千回だ。手が覚えるまで、信仰心を技術に変換しろよ」


「……三千回、ですか?」


「そうだ。それが、この国での研鑽を積むって事だ」


聖女セレナの留学生活は、高潔な祈りから、油と汗にまみれた実学へと、その色を劇的に変えていきました。


【後書き】


第十話をお読みいただきありがとうございます。


湊が語る「信仰」の定義を描かせていただきました。 彼にとっての信仰とは、盲目的な崇拝ではなく、自分を正しく動かすための「精神の設計図」です。 どんなに優れた機械(技術)も、それを扱う人間(心)が壊れていては意味がないという、過労死を経験した彼ならではの哲学が垣間見える回となりました。


聖女セレナも、湊の言葉を受けて、単なる視察員から一人の「見習いエンジニア」へと一歩踏み出しました。 次回、彼女の初めてのメンテナンス作業と、そこに忍び寄る聖王国家の影を描きます。


このまま、物語の調律を続けてまいります。

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