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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第2章【日常の安定と広がる噂】

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第8話「商人と取引と誤解」

翌朝。

いつものように目を覚ます。

鳥の声。

窓から差し込む朝日。

「今日も、普通の一日だな」

そう思った。

でも、違った。


朝食を終えて畑に出ると、村長が待っていた。

その隣に、商人グラド。

「おはようございます、アキト殿!」

グラドは大げさに帽子を取った。

「昨日はゆっくりお話できませんでしたので、改めて!」

「あ、おはようございます」

村長が言った。

「アキト、グラド殿と取引の話をしたい」

「取引?」

「ああ。この村の野菜を、王都で売りたいそうだ」

「王都……」

「はい!」

グラドは目を輝かせた。

「これほど素晴らしい野菜、王都の貴族たちが放っておくはずがない!」

「そんな大げさな……」

「大げさではありませんぞ!」

グラドは畑を指さした。

「この人参をご覧ください!色艶、大きさ、申し分ない!」

「普通の人参ですけど」

「普通?いやいや!」

グラドは人参を一本抜いた。

「こんなに甘い香り!葉も生き生きしてる!」

確かに、立派な人参だ。

でも、俺にとっては普通だ。

「私、三十年商人をやってますが」

グラドは真剣な顔をした。

「こんな野菜、初めて見ました」

「……そうですか」

「ええ。これは奇跡です」

またそれか。

「奇跡じゃないですよ」

「いいえ、奇跡です!」

グラドは人参を掲げた。

「あなた様が、この野菜に祝福を与えているのです!」

「与えてません」

「謙遜なさらずとも!」

村長が苦笑した。

「グラド殿、アキトはそういう性格なんだ」

「ほほう」

グラドは俺を見た。

「本当に謙虚な方だ」

「謙虚とかじゃなくて……」

「素晴らしい!」

グラドは俺の手を握った。

「こんな方が、この村におられるとは!」

「あの……」

「ぜひ、取引させてください!」


結局、村長の家で話し合うことになった。

テーブルに、俺と村長とグラド。

ユイもお茶を淹れに来てくれた。

「失礼します」

「おお、これは!」

グラドは立ち上がった。

「美しいお嬢さんだ!」

「あ、ありがとうございます」

ユイは少し困惑してる。

「この方は?」

「ユイさんです。村で料理を作ってます」

「料理を!」

グラドは目を輝かせた。

「では、この野菜を使った料理を!」

「はい」

「ぜひ、食べさせていただきたい!」

「え、今からですか?」

「できれば!」

ユイは俺を見た。

俺は頷いた。

「……分かりました」

ユイは厨房に向かった。


しばらくして、料理が運ばれてきた。

野菜のサラダ。

人参のグラッセ。

玉ねぎのスープ。

シンプルだけど、色鮮やかだ。

「おお……」

グラドは感動してる。

「美しい」

「どうぞ、召し上がってください」

ユイが言った。

グラドはフォークを取った。

まず、サラダを一口。

「……!」

固まる。

「どうかしましたか?」

「これは……」

グラドはゆっくり噛む。

飲み込む。

「美味い」

「ありがとうございます」

「いや、美味いなんてものじゃない!」

グラドは立ち上がった。

「こんなに瑞々しく、甘く、そして深い味わい!」

「そんなに……」

「野菜の味が、こんなにも濃い!」

グラドは次々と料理を口に運ぶ。

人参のグラッセ。

「甘い!でも、砂糖の甘さじゃない!野菜本来の甘さだ!」

スープ。

「玉ねぎの旨味が染み出てる!体の芯から温まる!」

グラドは涙を流していた。

「素晴らしい……本当に素晴らしい……」

「大げさですよ」

「大げさではない!」

グラドは俺を見た。

「これは、間違いなく祝福された野菜だ」

「だから、祝福なんて……」

「いいえ!」

グラドは力強く言った。

「普通の野菜では、こんな味は出ない!」


食事が終わって、取引の話に戻った。

「村長殿」

グラドは真剣な顔をした。

「この野菜を、王都で売らせてください」

「どれくらい必要だ?」

「まずは、月に一度。荷馬車一台分」

「一台分……」

村長は考え込んだ。

「村で使う分を残して、それくらいなら出せるだろう」

「ありがとうございます!」

「値段はどうする?」

「通常の野菜の三倍で買い取ります」

「三倍!?」

村長は驚いた。

「それは高すぎないか?」

「いいえ!むしろ安いくらいです!」

グラドは言った。

「この品質なら、王都では十倍の値段で売れます」

「十倍……」

「ええ。貴族たちは、美味しいものには金を惜しみません」

グラドは笑った。

「これは、間違いなく商機です」

村長は俺を見た。

「アキト、どう思う?」

「俺に聞かれても……」

「お前が育ててるんだから、お前の意見も聞きたい」

「……村が豊かになるなら、いいんじゃないですか」

「そうか」

村長は頷いた。

「では、グラド殿。取引させていただこう」

「ありがとうございます!」

グラドは深々と頭を下げた。

「必ずや、この野菜を王都に広めてみせます!」


その日の午後。

グラドは村の畑を見て回った。

俺も付き合わされた。

「素晴らしい……」

グラドは一つ一つの野菜を見て、感嘆してる。

「どれも完璧だ」

「普通ですよ」

「いいえ、普通ではありません」

グラドは人参を掘り出した。

「この形、この色。まるで芸術品だ」

「そんな……」

「アキト殿」

グラドは俺を見た。

「あなたは、本当に何も特別なことをしていないのですか?」

「してないです」

「種を蒔いて、水をやるだけ?」

「それだけです」

「肥料は?」

「村にあるものを使ってます」

「魔法は?」

「使えません」

「……」

グラドは首を傾げた。

「では、なぜこんなに……」

「分かりません」

本当に分からない。

俺はただ、普通にやってるだけだ。

「不思議だ」

グラドは呟いた。

「でも、それがまた素晴らしい」

「え?」

「あなたは、自分の力を理解していない」

グラドは笑った。

「無自覚の聖人だ」

「聖人じゃないです」

「いいえ、聖人です」

グラドは断言した。

「自分では気づいていない。でも、周りに幸せを与えている」

「……」

「それこそが、真の聖人の姿です」

グラドは空を見上げた。

「王都で、この話をしなければ」

「え?」

「あなたのことを、みんなに知らせなければ」

「ちょっと待ってください」

「大丈夫です。誇張はしません」

グラドは笑った。

「ありのままを伝えるだけです」

「ありのままって……」

「辺境の村に、謙虚な聖人がいる、と」

「だから聖人じゃ……」

「野菜に祝福を与え、村を豊かにし、それでも自分の功績だと思っていない、と」

「違います!」

「素晴らしい!」

グラドは俺の肩を叩いた。

「こんな方に出会えて、私は幸運です!」


夕方。

グラドは村を出発した。

荷馬車に、野菜を積んで。

「では、また来月!」

「気をつけて」

村長が手を振る。

グラドも手を振り返した。

「アキト殿!あなたの名は、必ずや王都に響き渡ります!」

「いや、それは……」

「ご期待ください!」

そう言って、グラドは去っていった。


小屋に戻る。

疲れた。

ユイが待っていた。

「お疲れさまでした」

「ああ、疲れた」

「グラドさん、すごい人でしたね」

「すごいというか……大げさというか」

「ふふ、でも悪い人じゃないですよ」

「そうだね」

確かに、悪い人じゃない。

ただ、

「話が大きくなりすぎる」

「そうですね」

ユイは笑った。

「でも、アキトさんのことを理解しようとしてましたよ」

「してた?」

「はい。本当に不思議がってました」

「……まあ、俺も不思議だけど」

なぜ野菜がこんなに育つのか。

なぜ村が豊かになったのか。

分からない。

でも、

「結果が出てるなら、いいか」

呟く。

ユイが頷いた。

「はい。それでいいと思います」


その夜。

一人になって、星を見る。

「王都、か」

グラドは、そこで野菜を売る。

そして、俺のことを話す。

「どうなるんだろうな」

分からない。

でも、きっと。

また、めんどくさいことになる。

「……まあ、いいか」

村は豊かだ。

村長も喜んでた。

ユイもいる。

それで十分だ。

噂がどう広がろうと、

俺は俺のペースで生きる。

美味いもん食って、気持ちよく寝る。

それだけだ。

「明日も、いつも通りにしよう」

呟く。

目を閉じる。

すぐに、眠りが訪れた。


その頃。

王都への道を進むグラドは、馬車の中で呟いていた。

「素晴らしい方だった」

野菜の袋を見る。

鮮度は落ちていない。

むしろ、採れたてのような瑞々しさだ。

「やはり、祝福されている」

グラドは笑った。

「王都の連中が、どんな顔をするか楽しみだ」

「辺境の奇跡」

「謙虚な聖人」

「無自覚の救世主」

「どう呼ばれるようになるか」

馬車は、夜道を進む。

星空の下を。

噂は、さらに広がっていく。

アキトの知らないところで。

確実に。


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http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

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