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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第2章【日常の安定と広がる噂】

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第7話「噂は風に乗って」

いつもの朝。

鳥の声で目が覚める。

窓を開けると、清々しい空気が流れ込む。

「今日もいい天気だな」

伸びをする。

畑に水をやって、温泉に入って、昼寝して。

いつものルーティンだ。

悪くない。

ドアをノックする音。

「アキトさん、朝ごはんです」

ユイの声だ。

「はい」

扉を開ける。

でも、ユイの後ろに人がいた。

見知らぬ顔。

三人ほど。

「え?」

「あの、この方たちは……」

ユイが困った顔をしてる。

「隣村から来たんです」

「隣村?」

一人の男が前に出た。

中年の農夫みたいな格好。

「初めまして。私、隣のミルトン村から来ました」

「あ、どうも」

「噂を聞いて、ぜひ一度見たいと思いまして」

「噂?」

「はい。この村が豊かになったと」

男は目を輝かせた。

「野菜が一晩で育つとか、温泉が湧いたとか」

「あー……」

「本当なんですか?」

「まあ、野菜は育ってますけど」

「見せていただけませんか!」

断れる雰囲気じゃない。

「……分かりました」


畑に案内した。

緑が広がってる。

人参、玉ねぎ、キャベツ。

どれも元気に育ってる。

「これは……」

男たちが固まった。

「すごい」

「こんなに立派な野菜……」

「土も、豊かそうだ」

一人が土を触った。

「柔らかい。水分もたっぷりだ」

「私たちの村とは、全然違う」

男たちは興奮してる。

「どうやって育てたんですか?」

「いや、普通に種蒔いて、水やって」

「それだけで?」

「それだけです」

「信じられない……」

男は俺を見た。

「あなたが、噂の……」

「いや、俺はただの……」

「謙遜なさらずとも」

男は深々と頭を下げた。

「教えてください。どうすれば、こんな野菜が育つのか」

「いや、だから普通に……」

「普通じゃないんです!」

男は真剣な顔をした。

「私たちの村も、土が痩せてる。雨も少ない」

「……」

「でも、ここは違う。緑が溢れてる」

男は畑を見渡した。

「何か、秘密があるはずです」

「秘密なんてないですよ」

「では、なぜ?」

「分かりません」

本当に分からない。

俺はただ、適当にやってるだけだ。

「……そうですか」

男は少し残念そうな顔をした。

でも、すぐに笑った。

「分かりました。では、せめて野菜を分けていただけませんか?」

「それは村長に聞いてください」

「村長さんに?」

「はい。俺じゃ勝手に決められないので」

「分かりました。ありがとうございます」

男たちは頭を下げて、村長のところに向かった。


小屋に戻る。

ユイが心配そうな顔をしてる。

「大丈夫でしたか?」

「まあ、なんとか」

「最近、こういう人が増えてるんです」

「そうなの?」

「はい」

ユイは頷いた。

「噂が広がってるみたいで」

「噂、か」

「『奇跡の村』って呼ばれてるらしいです」

「大げさだな」

「でも、事実ですから」

ユイは畑を見た。

「この豊かさ、普通じゃないです」

「……まあね」

「アキトさんは気にしてないみたいですけど」

「気にしても仕方ないし」

ユイは笑った。

「そういうところ、好きです」

「え?」

「いえ、なんでもないです」

ユイは少し照れた顔をした。

「朝ごはん、食べましょう」

「うん」


その日の午後。

村の広場が賑やかだった。

見学者が増えてる。

十人ほど。

みんな、畑や温泉を見て回ってる。

「すごい」

「本当に温泉が湧いてる」

「花畑まである」

村人が対応に追われてる。

村長も忙しそうだ。

「アキト」

村長が俺を呼んだ。

「なんですか?」

「お前、少し顔を出してくれないか」

「え?」

「見学者が、お前に会いたいと言ってる」

「めんどくさいな……」

「すまん。でも、村のためだ」

村長は頭を下げた。

「頼む」

断れない。

「……分かりました」


広場に行くと、見学者が集まってきた。

「あの方ですか!」

「噂の……」

「お会いできて光栄です!」

みんな、興奮してる。

めんどくさい。

「あの、俺は特に何も……」

「謙遜なさらずとも!」

「この村を救った方だと聞いてます!」

「いや、救ってないです」

「では、なぜこんなに豊かに?」

「分かりません」

「分からない?」

「はい」

みんな、困った顔をした。

「でも、何かしたんでしょう?」

「種蒔いて、水やっただけです」

「それだけで?」

「それだけです」

「……」

静かになった。

みんな、俺を見てる。

「何も、特別なことはしてないです。本当に」

「しかし、結果は出てる」

一人の男が言った。

「それは、あなたの力ではないのですか?」

「力なんてないです」

「では、なぜ?」

「偶然です」

「偶然が、ここまで続きますか?」

「……知りません」

本当に知らない。

俺はただ、普通に生きてるだけだ。

「あの……」

ユイが割って入った。

「アキトさんは、本当に何もしてないと思ってるんです」

「何もしてない?」

「はい。でも、結果が出てる。それが全てです」

ユイは笑った。

「理由は分かりません。でも、アキトさんがいるから、村が変わった」

「……なるほど」

見学者たちは頷いた。

「では、あなたは無自覚なのですね」

「無自覚?」

「自分の力に、気づいていない」

「いや、だから力なんて……」

「謙虚な方だ」

「本当に聖人なのかもしれない」

話が勝手に進んでる。

めんどくさい。

「あの、俺はもう……」

「待ってください!」

大きな声が響いた。

振り返ると、

見たことない男が立っていた。


派手な服を着てる。

赤と金の刺繍が入った上着。

羽根のついた帽子。

商人だ。

「初めまして!」

男は大げさに帽子を取った。

「私、グラドと申します。行商人です」

「あ、どうも」

「噂を聞いて、はるばるやってまいりました!」

グラドは目を輝かせた。

「奇跡の村、と!」

「奇跡なんて……」

「いやいや、謙遜なさらずとも!」

グラドは俺の肩を掴んだ。

「あなたが、その奇跡の主ですね!」

「いや、俺は……」

「素晴らしい!こんな謙虚な方は初めてだ!」

グラドは村長に向き直った。

「村長さん!ぜひ、この村の野菜を取り引きさせてください!」

「取引?」

「はい!こんな立派な野菜、他では見たことがない!」

グラドは畑を指さした。

「きっと、王都でも評判になりますぞ!」

「王都……」

村長は困った顔をした。

「まあ、話は聞きますが」

「ありがとうございます!」

グラドは嬉しそうに笑った。

「では、後ほどゆっくりと」


夕方になって、ようやく見学者たちは帰っていった。

疲れた。

人と話すのは、やっぱり疲れる。

小屋に戻る。

ユイが待っていた。

「お疲れさまでした」

「ああ、疲れた」

「大変でしたね」

「うん」

椅子に座る。

ユイがお茶を淹れてくれた。

「どうぞ」

「ありがとう」

温かいお茶を飲む。

ほっとする。

「……静かになるといいんだけどな」

「そうですね」

ユイは微笑んだ。

「でも、難しいかもしれません」

「なんで?」

「だって、アキトさんがいる限り、奇跡は続きますから」

「奇跡なんて起こしてないけど」

「分かってます」

ユイは笑った。

「でも、みんなはそう思ってる。それが現実です」

「……めんどくさいな」

「ふふ、アキトさんらしいです」

ユイはお茶を飲んだ。

「でも、大丈夫です」

「何が?」

「私が、アキトさんを守りますから」

「守る?」

「はい」

ユイは真剣な顔をした。

「アキトさんが静かに過ごせるように、私がサポートします」

「……ありがとう」

「いえ。当然です」

ユイは微笑んだ。

「だって、アキトさんは大切な人ですから」

「……」

何て返せばいいか分からない。

でも、嬉しい。

「ユイさんも、俺にとって大切だよ」

「本当ですか?」

「本当」

ユイは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、これからもよろしくお願いします」

「うん、よろしく」


その夜。

一人になって、窓の外を見る。

村は静かになった。

星が出てる。

「噂、か」

呟く。

広がってるらしい。

この村のこと。

俺のこと。

「めんどくさいな」

でも、仕方ない。

止められない。

「まあ、いいか」

村は豊かだ。

みんな幸せそうだ。

ユイもいる。

それで十分だ。

噂が広がろうが、

俺は俺のペースで生きる。

美味いもん食って、気持ちよく寝る。

それだけだ。

「明日も、いつも通りにしよう」

呟く。

目を閉じる。

すぐに、眠りが訪れた。


でも、世界は動き始めていた。

商人グラドは、村を後にしながら呟いた。

「素晴らしい。本当に素晴らしい」

彼は野菜の入った袋を抱えている。

村長が、サンプルとして分けてくれたものだ。

「こんな謙虚で、力のある方がいたとは」

グラドは星空を見上げた。

「王都で、この話をしなければ」

「奇跡の村と、その主のことを」

彼は馬車に乗り込んだ。

「きっと、大騒ぎになるぞ」

そう言って、笑った。

噂は、風に乗って広がっていく。

アキトの知らないところで。

静かに、確実に。


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