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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第1章【欲求のままに生きる】

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第5話「ただ美味しく食べたいだけ」

村での生活が始まって三週間。

生活は安定してきた。

畑は豊かで、温泉もある。

静かな場所もできた。

悪くない。

でも、一つだけ不満がある。

「……飽きてきたな」

小屋の中で、硬いパンを齧りながら思う。

毎日、同じものばかり食べてる。

パン、干し肉、チーズ。

たまに野菜。

美味いけど、変化がない。

「もっと、味のあるもん食いたいな」

料理。

ちゃんと作った料理が食いたい。

スープとか、煮込み料理とか。

温かくて、香りがよくて、美味いやつ。

「自分で作るか?」

でも、料理なんてしたことない。

都会にいた頃は、コンビニか外食だった。

「……誰か、料理上手い人いないかな」

そう思った時、

ドアをノックする音がした。

「アキト様、いらっしゃいますか?」

女の声だ。

「はい」

扉を開ける。

そこに立っていたのは、若い女性だった。


茶色の髪を後ろで一つに束ねてる。

エプロンをつけてる。

顔は日焼けしてるけど、笑顔が明るい。

「初めまして!私、ユイといいます」

「あ、アキトです」

「存じ上げてます」

ユイは笑った。

「村の皆さんから、たくさんお話を聞いてます」

「そうですか……」

また、噂か。

めんどくさい。

「あの、今日は何か?」

「はい!実は、お礼を伝えたくて」

「お礼?」

「はい。アキト様のおかげで、村に野菜が育つようになりました」

ユイは目を輝かせた。

「私、村で料理を作ってるんです。でも、野菜が少なくて、いつも同じようなものばかりで」

「料理?」

「はい!村のみんなに、食事を作ってます」

「へえ」

料理。

ちょうど、料理の話をしてたところだ。

「それで、今日はアキト様にお礼の料理を作りたいんです」

「え?」

「よろしければ、召し上がってください」

ユイは大きな籠を持ち上げた。

中には、色々な食材が入ってる。

野菜、肉、香草。

「今から作ります!」

「あ、ちょっと……」

断る間もなく、ユイは小屋の中に入ってきた。


小屋の中は狭い。

でも、ユイは手際よく動き始めた。

「お借りしますね」

暖炉に火をつける。

鍋を出す。

野菜を切る。

トントントン、とリズミカルな音。

「料理、慣れてるんですね」

「はい!子どもの頃からずっと作ってますから」

ユイは笑顔で答える。

「村のみんなに美味しいものを食べてもらいたくて」

「いいですね」

「でも、最近まで野菜が少なくて……」

ユイは人参を切りながら言った。

「この人参も、アキト様が育ててくださったものです」

「あ、はい」

「本当に立派で、甘くて。こんな人参、初めてです」

嬉しそうだ。

目が輝いてる。

「玉ねぎも、キャベツも。全部美味しくて」

トントントン。

野菜が小さく切られていく。

「料理するのが、楽しくなりました」

「そうですか」

「はい!」

ユイは鍋に野菜を入れた。

水を注ぐ。

肉も入れる。

香草を加える。

「もう少しで完成です」

「楽しみです」

本当に楽しみだ。

ちゃんとした料理なんて、久しぶりだ。


鍋がグツグツと煮える。

いい匂いがする。

野菜の甘い香り。

肉の旨味。

香草の爽やかな香り。

「あー、いい匂い」

「ふふ、もうすぐですよ」

ユイはスープを味見した。

「うん、完璧」

器に注ぐ。

湯気が立ち上る。

「どうぞ、召し上がってください」

「ありがとうございます」

スプーンですくう。

一口飲む。

「……うまい」

本当に美味い。

野菜の甘みが染み出てる。

肉の旨味も。

香草の香りが鼻を抜ける。

「最高だ」

「本当ですか!?」

ユイは嬉しそうに笑った。

「よかった!」

「めちゃくちゃ美味いです」

もう一口。

また一口。

止まらない。

「野菜が美味しいから、スープも美味しくなるんです」

ユイは自分の器にも注いだ。

「アキト様のおかげです」

「いえ、ユイさんの腕ですよ」

「ふふ、ありがとうございます」

二人で、スープを飲む。

静かだ。

でも、心地いい静けさ。

「……幸せだな」

ぼんやり思う。

美味いもん食って、温かいスープ飲んで。

これ以上、何がいる?

「アキト様」

「はい?」

「また、作りに来てもいいですか?」

ユイは少し照れた顔で言った。

「新しい野菜が手に入ったら、色々試したいんです」

「もちろんです」

「本当ですか!」

ユイは嬉しそうに笑った。

「じゃあ、また来ますね」

「楽しみにしてます」

本当に楽しみだ。


その日から、ユイは時々小屋に来るようになった。

野菜を使って、色々な料理を作ってくれる。

スープ、シチュー、サラダ、パイ。

どれも美味い。

「今日はキャベツのスープです」

「おお、美味そう」

「人参のグラッセも作りました」

「ありがとうございます」

一緒に食べる。

ユイは料理の話をする。

「この野菜、本当に美味しいんです」

「そうですか」

「はい。味が濃くて、甘くて」

目を輝かせて話す。

楽しそうだ。

「アキト様は、どうやって育ててるんですか?」

「いや、普通に種蒔いて、水やってるだけで」

「それだけで、こんなに美味しくなるんですか?」

「分かりません」

本当に分からない。

俺はただ、適当にやってるだけだ。

「不思議ですね」

ユイは笑った。

「でも、嬉しいです」

「俺も嬉しいです。美味しい料理が食べられるから」

「ふふ、じゃあ、お互い様ですね」

そう言って、ユイは笑った。


ある日の夕方。

ユイが小屋に来た時、雨が降ってきた。

「あら……」

「雨宿りしてってください」

「すみません」

ユイは小屋の中に入った。

雨が強くなる。

屋根を叩く音。

「すぐにやむといいんですけど」

「大丈夫ですよ。ゆっくりしてってください」

「ありがとうございます」

ユイは窓の外を見た。

雨が降ってる。

村の畑も、濡れてる。

「恵みの雨ですね」

「そうですね」

「この村、最近まで雨が少なかったんです」

ユイは言った。

「でも、アキト様が来てから、雨も増えました」

「それも偶然ですよ」

「そうでしょうか」

ユイは俺を見た。

「私は、偶然じゃないと思います」

「え?」

「アキト様がいるから、村が変わった」

ユイは微笑んだ。

「花が咲いて、野菜が育って、水が湧いて」

「それは……」

「理由は分かりません。でも、結果は出てます」

ユイは俺の手を見た。

「この手が、村を救ってくれた」

「大げさですよ」

「大げさじゃないです」

ユイは真剣な顔をした。

「私たち、本当に困ってたんです。食べ物も少なくて、水も少なくて」

「……」

「でも、今は違います」

ユイは笑った。

「みんな笑顔になりました。子どもたちも、元気に走り回ってます」

「それは……よかったです」

「はい。だから、ありがとうございます」

ユイは頭を下げた。

「本当に、ありがとうございます」

「いえ、俺は何も……」

「いいんです」

ユイは顔を上げた。

「アキト様は、自分では何もしてないと思ってるかもしれません」

「はい」

「でも、結果が出てる。それが全てです」

ユイは窓の外を見た。

雨が、少しずつ弱くなってる。

「私、思うんです」

「何をですか?」

「幸せって、案外シンプルなんじゃないかって」

ユイは俺を見た。

「美味しいものを食べて、温かい場所で寝て、大切な人と笑い合う」

「……」

「それだけで、十分なんじゃないかって」

ユイは微笑んだ。

「アキト様といると、そう思えるんです」

「どうしてですか?」

「だって」

ユイは少し照れた顔をした。

「アキト様、いつも幸せそうだから」

「え?」

「美味しそうにご飯食べて、気持ちよさそうに寝て」

ユイは笑った。

「それを見てると、私も幸せになるんです」

「……そうですか」

「はい」

雨が止んだ。

空が明るくなってる。

「あ、やみましたね」

ユイは立ち上がった。

「そろそろ戻ります」

「気をつけて」

「はい。また来ますね」

「待ってます」

ユイは扉を開けて、外に出た。

振り返って、笑顔で手を振る。

「また明日!」

「はい」

ユイは去っていった。


その夜。

小屋の中で、一人になる。

ユイの言葉を思い出す。

「幸せって、案外シンプル」

そうかもしれない。

美味しく食べて、気持ちよく寝る。

それだけで、十分だ。

でも、

「一緒に食べると、もっと美味いな」

ぼんやり思う。

ユイと食べるスープは、一人で食べるより美味い気がする。

なぜだろう。

分からない。

でも、

「悪くないな」

呟く。

誰かと一緒にいる時間。

それも、悪くない。

窓の外を見る。

雨上がりの空。

星が見え始めてる。

「明日も、来るかな」

そう思って、少し笑った。


翌日。

ユイが小屋に来た。

「今日は野菜のパイを作りました!」

「おお、美味そう」

「一緒に食べましょう」

「はい」

二人で、パイを食べる。

サクサクした生地。

中には、野菜がたっぷり。

甘くて、美味い。

「最高ですね」

「ふふ、ありがとうございます」

ユイは嬉しそうに笑った。

「アキト様と一緒に食べると、美味しいです」

「俺もです」

二人で笑った。

外では、村人が畑仕事をしてる。

子どもたちが走り回ってる。

賑やかだ。

でも、小屋の中は静かで、温かい。

「……幸せだな」

呟く。

ユイも頷いた。

「はい。幸せです」


村は変わり続けていた。

豊かで、賑やかで、温かい村。

そして、俺の生活も変わり始めていた。

一人じゃない時間。

誰かと一緒に食べる時間。

それが、少しずつ増えていく。

悪くない。

むしろ、

「いいかもな」

そう思えるようになった。

美味しく食べて、気持ちよく寝る。

そして、誰かと笑い合う。

それが、幸せなんだ。

きっと。


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