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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第6章【Ⅵ:満たされた世界】

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第29話「小さな変化、大きな幸せ」

朝日が小屋の窓から差し込んで、目が覚めた。いつもと同じ朝だ。


鳥のさえずりが聞こえて、風が心地よく頬を撫でる。ベッドから起き上がって、窓を開ける。空は澄んでいて、雲がゆっくりと流れている。今日も、いい天気だ。


顔を洗って、外に出る。村は静かに目覚め始めている。遠くから、誰かが井戸水を汲む音が聞こえる。鶏の鳴き声も聞こえる。


こういう朝が、一番好きだ。何も特別なことはない。ただ、穏やかで、静かで、温かい。畑に向かいながら、深呼吸をした。空気が美味しい。草の匂いと、土の匂いがする。


畑に着いて、作業を始める。昨日蒔いた種が、もう小さな芽を出している。成長が早い。水をやりながら、一つ一つの芽を見ていく。元気に育っている。これなら、数週間後には収穫できるだろう。


作業をしていると、足元に小さな虫がいることに気づいた。害虫ではなく、ただの虫だ。じっと見ていると、虫はゆっくりと歩いていって、どこかへ消えた。畑には、他の害虫はいない。いつの間にか、自然にいなくなっている。不思議だけど、まあいいか。


「おはようございます、アキトさん」


後ろから声がした。振り返ると、ユイが笑顔で立っている。手には籠を持っていて、中にはパンと果物が入っている。


「おはよう。どうしたの?」

「朝ごはん、一緒にどうかなと思って」


ユイは籠を差し出した。


「ありがとう。じゃあ、ここで食べようか」


二人で畑の端に座った。ユイがパンを取り出して、半分に割って渡してくれる。温かいパンだ。焼きたてみたいだ。


一口食べると、柔らかくて、ほんのり甘い。ユイのパンは、いつも優しい味がする。


「美味しい」


と言うと、ユイは嬉しそうに微笑んだ。


「今朝、焼いたんです。アキトさんが喜んでくれると思って」

「うん、すごく美味しいよ」


果物も食べる。みずみずしくて、甘い。朝の果物は、特別に美味しい気がする。二人で並んで食べながら、空を見上げた。雲が、ゆっくりと形を変えていく。


「アキトさん、今日は何するんですか?」

「そうだな。畑仕事して、昼寝して、温泉入るかな」

「相変わらずですね」


ユイは笑った。


「でも、それがアキトさんらしいです」

「そうかな」

「はい。アキトさんは、いつも変わらない。それが、私たちにとって一番大切なことなんです」


ユイの言葉に、少し驚いた。俺は、何も特別なことをしていない。ただ、いつも通りに過ごしているだけだ。でも、それが大切なのか。


「ユイは、最近どう?料理教室は」

「楽しいです。みんな、すごく熱心に学んでくれて」


ユイは目を輝かせた。


「この前、教えたスープをみんなが家で作ってくれたんです。『美味しかった』って言ってくれて、すごく嬉しかったです」

「それはよかったな」

「はい。でも、一番嬉しいのは、やっぱりアキトさんと食べる時間です」


ユイは少し照れたように笑った。


「この時間が、私の一番の幸せです」


その言葉が、胸に響いた。ユイにとって、この何気ない時間が大切なんだ。俺にとっても、そうだ。


朝食を終えて、ユイは隣の村に向かった。今日も、料理教室があるらしい。見送ってから、また畑仕事に戻る。土を耕して、雑草を抜いて、水をやる。シンプルな作業だけど、気持ちがいい。手を動かしていると、心が落ち着く。何も考えなくていい。ただ、土と向き合うだけ。


昼前、作業を終えて小屋に戻った。手を洗って、少し休憩する。


喉が渇いたから、水を飲む。冷たくて、美味しい。この村の水は、本当に美味しい。いつ飲んでも、体に染み渡る感じがする。水を飲んでいると、ドアをノックする音がした。

「師匠、いるか?」


リズの声だ。ドアを開けると、彼女が立っている。汗をかいていて、少し息が上がっている。


「どうした?走ってきたのか」

「ああ。ちょっと、修行をつけてほしくて」


リズは真剣な顔をしている。


「修行?」

「うん。最近、講師の仕事で色々教えてるんだけど、もっと強くならないとって思って」


リズは剣を見せた。


「師匠と、手合わせしてくれないか」

「いいけど、俺は強くないぞ」

「いや、師匠は強い。それに、師匠と戦うと、色々気づくことがあるんだ」


リズの目は、真剣だ。断れない雰囲気だった。


「分かった。じゃあ、ちょっとだけな」

「ありがとう、師匠!」


二人で村の外れにある空き地に向かった。そこは広くて、木が適度に生えていて、修行するにはちょうどいい場所だ。リズが剣を構える。俺は、近くに落ちていた木の枝を拾った。


「それで、いいのか?」


とリズが聞く。


「うん、これで十分」

「......さすが、師匠だ」


リズは構えを整えた。


「じゃあ、行くぞ!」


リズが飛び込んでくる。速い。剣が、俺の頭上を狙ってくる。でも、なんとなく軌道が分かる。体を少し横にずらすだけで、避けられる。リズの剣が空を切った。


「くっ」


リズが体勢を立て直して、また攻撃してくる。横薙ぎの一撃。これも、軌道が見える。木の枝で受け流す。ガキン、と音がした。リズが驚いた顔をしている。


「師匠、今の......」

「ん?」

「枝で、受け流した......」

「ああ、なんとなく」


リズは呆れたような、感心したような顔をした。


それから何度か攻防を繰り返した。リズの攻撃は、どれも鋭い。でも、なぜか避けられる。


体が、勝手に動く感じだ。最後、リズが大きく振りかぶって、上段から斬りつけてきた。これは、避けられない。


だから、木の枝で受け止めた。パキン、と枝が折れる音がした。でも、リズの剣は、俺の頭の直前で止まっていた。


「はあ......はあ......」


リズは息を切らしている。


「師匠、やっぱりすごいな」

「そうか?」

「ああ。枝一本で、俺の攻撃を全部避けて、受け止めた」


リズは剣を鞘に収めた。


「もっと修行しないとな」

「リズは、もう十分強いよ」

「いや、まだまだだ」


リズは笑った。


「師匠のようになりたい」


その言葉に、俺は少し困った。俺は、別に強くない。ただ、なんとなく動いているだけだ。


「師匠、ありがとう。また、頼むな」

「うん、いつでも」


リズは満足そうに村に戻っていった。俺も、小屋に戻る。もう昼だ。昼寝の時間だ。ベッドに横になると、心地よい疲れが体を包んだ。目を閉じると、すぐに眠りに落ちていった。




目が覚めたのは、午後遅くだった。


窓から差し込む光が、少し傾いている。いい昼寝だった。体が軽い。


外に出ると、温泉の方から湯気が上がっているのが見えた。


温泉に入ろう。そう思って、向かう途中、セシルに会った。彼女は洗濯物を抱えている。


「アキト様、こんにちは」

「こんにちは。洗濯?」

「はい。今日は天気がいいので」


セシルは微笑んだ。


「アキト様も、洗濯物はありますか?」

「ああ、あるけど......」

「でしたら、一緒に洗いましょう」

「いいの?」

「もちろんです。私、アキト様の洗濯をするのが好きなんです」


セシルの申し出に、甘えることにした。小屋に戻って、洗濯物を持ってくる。


二人で川に向かった。川の水は冷たくて、透明だ。


セシルが洗濯板を取り出して、丁寧に洗い始める。俺も、隣で洗う。セシルの手つきは、とても丁寧だ。一枚一枚、大切に洗っている。


「セシルは、洗濯が好きなの?」

「はい。水に触れていると、心が落ち着くんです」


セシルは微笑んだ。


「それに、誰かのために何かをするのが、好きなんです」

「そうか」

「ええ。特に、アキト様のためなら、何でもしたいです」


セシルの言葉に、少し照れくさくなった。彼女は、本当に優しい。洗濯を終えて、二人で干す。風が吹いて、洗濯物が揺れる。太陽の光を浴びて、白い布が輝いている。


「綺麗ですね」


とセシルが言った。


「うん」


二人で、しばらく洗濯物を見ていた。何気ない光景だけど、すごく穏やかだ。こういう時間が、幸せなんだと思う。


「アキト様、最近どうですか?」

「どうって?」

「訪問者も減って、静かになりましたね」

「うん、静かになった。これくらいが、ちょうどいい」

「そうですね。アキト様には、静かに過ごしていただきたいです」


セシルは優しく微笑んだ。


「私も、この村で、アキト様のおそばで過ごせて幸せです」

「俺も、セシルがいてくれて嬉しいよ」


セシルは少し驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑った。「ありがとうございます」


洗濯物を干し終えて、温泉に向かった。今日は貸し切りだ。ゆっくりと湯船に浸かる。


温かくて、体がほぐれていく。最高だ。目を閉じて、何も考えない。ただ、温泉の温かさを感じるだけ。時間が、ゆっくりと流れていく。


温泉から上がって、小屋に戻る頃には、夕方になっていた。空が、オレンジ色に染まっている。綺麗だ。小屋の前に座って、空を見上げる。鳥が、帰っていく。一日が、終わろうとしている。


「アキトさん!」


ユイの声がした。振り返ると、三人が揃って歩いてくる。ユイとリズとセシル。みんな、笑顔だ。


「今日も、お疲れ様でした」


とユイが言った。


「夕飯、一緒にどうですか?」

「うん、食べよう」


四人で、ユイの家に向かった。ユイが料理を作ってくれる。今日のメニューは、シチューとパン、それにサラダ。シチューは野菜がたっぷり入っていて、温かくて、優しい味がする。


「美味しい」


と俺は言った。


「ありがとうございます」


とユイが微笑んだ。


「今日、隣の村で作ったレシピなんです。みんな、すごく喜んでくれました」

「それはよかったな」

「はい。でも、やっぱりアキトさんに食べてもらうのが、一番嬉しいです」


ユイの笑顔は、温かい。リズも、シチューを美味しそうに食べている。


「このシチュー、うまいな」

「ありがとう、リズさん」

「ユイの料理は、いつも最高だ」


リズは満足そうだ。


セシルも、静かに食べている。


彼女は、時々俺を見て微笑む。その微笑みが、すごく穏やかで、安心する。食事をしながら、今日あったことを話した。畑のこと、修行のこと、洗濯のこと。


何気ない話だけど、楽しい。みんなが笑っている。この時間が、一番好きだ。


食事を終えて、外に出た。星が出始めている。四人で並んで、空を見上げる。


「今日も、いい一日でしたね」


とユイが言った。


「うん」

「師匠、また修行つけてくれよ」


とリズが言った。

「いつでも」

「アキト様、明日も洗濯、お願いしてもいいですか?」


とセシルが聞いた。


「もちろん」


三人は、嬉しそうに笑った。


「ねえ、アキトさん」


とユイが言った。


「何?」

「この村で、みんなと一緒に過ごせて、本当に幸せです」

「俺も」

「私も」


とセシルが言った。


「俺もだ」


とリズが続けた。四人で、また空を見上げた。星が、一つ、また一つと増えていく。静かで、穏やかな夜。こんな夜が、ずっと続けばいい。


「明日も、いい日になるといいな」


と俺は呟いた。


「なりますよ、きっと」


とユイが微笑んだ。


「なるさ」


とリズが笑った。


「神のご加護がありますから」


とセシルが言った。三人の言葉が、心に響いた。そうだ、明日もきっといい日になる。今日みたいに、穏やかで、温かい日に。


しばらく星を見てから、それぞれ家に帰った。俺も、小屋に戻る。


ベッドに横になると、今日一日のことを思い返した。


朝、ユイとパンを食べたこと。


昼、リズと手合わせしたこと。


午後、セシルと洗濯をしたこと。


夕方、みんなで食事をしたこと。


どれも、特別なことじゃない。でも、どれも大切な時間だった。


「こういう日々が、一番幸せなんだな」


窓の外から、風が吹き込んでくる。冷たくて、心地いい。


目を閉じる。今日も、いい一日だった。明日も、きっといい日になる。そう信じながら、眠りに落ちていった。


遠くから、虫の音が聞こえる。


静かで、穏やかな音。この音を聞きながら、眠る夜が好きだ。


村は、静かに眠りにつく。明日も、また朝が来る。いつもと同じ朝が。それが、一番の幸せだ。


変わらない日常。小さな幸せの積み重ね。


それが、この村の、そして俺の宝物だ。


これからも、ずっと続いていきますように。そう願いながら、深い眠りに落ちていった。星が、静かに輝いている。村を、優しく見守るように。


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