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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第5章【Ⅴ:静かな事件】

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第23話「降らない雨と祈り」

エドワードが去ってから一週間が経った頃、村に異変が起きていた。雨が降らない。この時期なら週に二度は降るはずの雨が、もう十日以上も降っていなかった。空は毎日快晴で、雲一つない。最初は良い天気だと思っていたけど、日が経つにつれて問題が見えてきた。


朝、畑に行くと土が乾いている。いつもなら適度に湿っているはずの土が、カラカラに乾いていた。人参の葉っぱも、少し元気がない。


このままでは、枯れてしまうかもしれない。俺は井戸から水を汲んで、畑に撒き始めた。一つ、また一つと、丁寧に水をやっていく。でも、畑は広い。全部に水をやるには、何往復もしなければならない。


「めんどくさいな……」と呟きながら、また井戸に水を汲みに行く。


腕が疲れてきた。腰も痛い。こんなに水やりが大変だとは思わなかった。普段は雨が降るから、こんなに苦労しない。雨って、ありがたいんだな、と改めて思った。


昼過ぎ、ユイが心配そうな顔でやってきた。手には空の桶を持っている。


「アキトさん、井戸の水が減ってきてるんです」

「え、本当?」

「はい。このまま雨が降らないと、水不足になるかもしれません」


ユイの言葉に、俺は不安になった。水不足。それは深刻だ。飲み水がなくなれば、村人は生きていけない。畑どころの話じゃない。


「村長には伝えた?」

「はい。村長も心配してました。節水するように、村人に伝えるそうです」

「そっか」


二人で井戸を覗き込む。確かに、水面が低くなっている気がする。普段より、二メートルくらい下だろうか。これは、まずい。


「雨、降ってくれないかな」とぼんやり呟いた。でも、空は相変わらず快晴だ。雲一つない。降りそうな気配もない。


その日の夕方、セシルが広場に村人を集めていた。何かと思って近づくと、彼女は祭壇のようなものを作っていた。花と果物が供えられている。


「セシルさん、これは?」


「祈りの儀式です」とセシルは真剣な顔で答えた。


「雨を降らせるための」

「雨を?」

「はい。神に祈れば、雨を降らせてくださるはずです」


セシルは村人たちに向かって言った。


「皆さん、一緒に祈りましょう。神に、雨を授けてくださるように」


村人たちは頷いて、セシルの周りに集まった。手を合わせて、祈り始める。セシルも目を閉じて、真剣に祈っている。その姿は、神聖で美しかった。


俺も手を合わせた。別に信仰心があるわけじゃないけど、みんなが祈ってるなら、俺も祈ろう。雨が降りますように。畑が枯れませんように。村のみんなが、困りませんように。


でも、空は変わらなかった。雲は現れない。風も吹かない。ただ、静かな夕焼けが広がっているだけだった。


祈りが終わって、村人たちは少し落胆した顔で散っていった。セシルも、肩を落としている。


「セシルさん、大丈夫?」

「……すみません。私の祈りが足りなかったのかもしれません」

「そんなことないよ」

「でも……」


セシルは涙ぐんでいた。彼女は本当に、心から祈っていたんだ。村のために、みんなのために。


「明日も、祈ります」とセシルは顔を上げた。


「きっと、神様は聞いてくださるはずです」

「うん。頑張ってね」


セシルは頷いて、教会の方に向かっていった。俺は空を見上げる。夕焼けが綺麗だ。でも、雨の気配はない。


翌日も、雨は降らなかった。畑の土はさらに乾き、野菜の元気がなくなっていく。俺は朝から晩まで水やりをしていた。腕が痛い。腰も痛い。でも、やらないわけにはいかない。野菜が枯れたら、村の食料が減る。それは避けたい。


昼、リズが手伝いに来てくれた。


「師匠、一人でやってたのか」

「ああ。まあ、仕方ないよ」

「俺も手伝う」


リズは桶を持って、水を汲み始めた。二人で作業すると、少し楽になる。でも、それでも大変だ。


「なあ、師匠」

「ん?」

「雨って、いつ降るんだろうな」

「分かんない。でも、そろそろ降ってほしいね」

「だよな」


リズは空を見上げた。


「この空、雨降りそうにないけどな」

「だね」


二人で苦笑した。でも、笑ってる場合じゃない。水やりを続ける。一つ、また一つ。


夕方、また祈りの儀式があった。今日はもっと多くの村人が集まっている。みんな、真剣な顔だ。セシルが先頭に立って、祈りを捧げる。俺も参加した。ユイもリズも、みんな手を合わせている。


「神よ、どうか雨を降らせてください」


セシルの声が響く。


「この村に、恵みの雨を」


みんなが、それに続く。「恵みの雨を」


祈りが終わっても、空は変わらなかった。村人たちは、さらに落胆している。このままでは、本当にまずい。水不足だけじゃない。みんなの心も、疲れてきている。


その夜、一人で小屋の前に座っていた。星が綺麗だ。でも、雨の方がいい。星なんて、いつでも見られる。今は、雨が必要だ。


「雨、降らないかな」


ぼんやり呟いた。本当に、降ってほしい。畑のためにも、村のためにも。みんなのためにも。


その瞬間、風が吹いた。冷たい風だ。それから、空気が変わった気がする。湿った空気。まさか、と思って空を見上げると、雲が現れていた。黒い雲。厚い雲。そして、


ポツリ。


顔に、水滴が当たった。雨だ。


ポツリ、ポツリ。


雨が降り始めた。最初はゆっくり。それから、だんだん強くなる。ザアアアと、雨の音が聞こえる。


「降った……」


呆然と立ち上がる。雨だ。本当に、雨が降った。


村の方から、歓声が聞こえてきた。みんな、外に出て喜んでいる。


「雨だ!」

「降った!」

「神様が、聞いてくださった!」


ユイが駆けてきた。雨に濡れながら、笑顔で。


「アキトさん、雨です!雨が降りました!」

「うん、降ったね」


セシルとリズも来た。二人とも、嬉しそうな顔をしている。


「奇跡です」とセシルが言った。


「神が、私たちの祈りを聞いてくださったんです」

「師匠が、さっき何か言わなかったか?」


とリズが聞いた。


「え?」

「雨、降らないかなって」

「……言ったかも」


リズは呆れた顔をした。


「やっぱりな。師匠が言った瞬間、降り始めた」

「偶然だよ」

「偶然が、こんなに続くかよ」


リズは笑った。セシルも、ユイも笑っている。四人で、雨の中に立っている。冷たいけど、気持ちいい。久しぶりの雨だ。


「畑、大丈夫かな」


と俺は言った。


「見に行きましょう」とユイが言った。


四人で畑に向かった。雨に濡れながら、走る。畑に着くと、野菜たちが雨を受けている。生き生きとしている。元気を取り戻している。


「よかった」


俺は安堵のため息をついた。これで、野菜は枯れない。村の食料も大丈夫だ。


「アキト様」


セシルが言った。


「ん?」

「やはり、あなたは神に愛されています」

「そんなことないよ」

「いいえ」


セシルは真剣な顔をした。


「あなたが願った瞬間、雨が降った。これは奇跡です」

「偶然だって」

「偶然ではありません」


セシルは微笑んだ。


「でも、いいんです。あなたがそう思ってるなら」


ユイとリズも笑っている。三人とも、濡れた髪を気にせず、笑顔だ。


「帰ろうか」


と俺は言った。


「このままだと、風邪引くよ」

「そうですね」


とユイが頷いた。


四人で村に戻る。雨はまだ降り続いている。でも、もう心配はない。畑は潤う。井戸も満たされる。村は、また元に戻る。


小屋に戻って、タオルで体を拭いた。それから、温泉に行くことにした。雨の中の温泉も、たまにはいい。


温泉に着くと、すでに何人かの村人が入っていた。みんな、嬉しそうに話している。


「雨が降ってよかったな」

「ああ、本当に」

「これで、畑も安心だ」


俺も湯に浸かる。温かい。雨に濡れた体が、じんわりと温まる。気持ちいい。


しばらくして、リズも入ってきた。男性用の浴場だから、気兼ねなく話せる。


「師匠、やっぱりすげえな」

「何が?」

「雨、降らせるなんて」

「降らせてないって」

「でも、師匠が願った瞬間に降った」


リズは笑った。


「やっぱり、師匠は特別だ」

「特別じゃないよ」

「まあ、いいけどな」


リズは湯に沈んだ。


「とにかく、雨が降ってよかった」

「うん、本当に」


二人で、しばらく黙って湯に浸かっていた。外では、雨が降り続いている。その音が、心地いい。


湯から上がって、小屋に戻る頃には、雨は小降りになっていた。ユイが夕食を持ってきてくれた。


「今日は、雨の日特製スープです」

「雨の日特製?」

「はい。温かくて、体が温まります」


四人で、小屋の中で食事をする。雨の音を聞きながら。スープは美味しくて、体が温まる。パンも、柔らかくて美味い。


「雨の日も、いいもんだね」


と俺は言った。


「そうですね」


とユイが微笑んだ。


「はい」


とセシルが頷いた。


「だな」


とリズが笑った。


四人で、ゆっくり食事を楽しんだ。外では雨が降り続けている。でも、ここは温かい。みんながいてくれる。それだけで、幸せだ。


食事が終わって、三人は帰っていった。俺は一人、窓の外を見る。雨が、しとしとと降っている。静かな雨だ。


「降ってよかった」


呟く。畑も潤った。村も安心した。みんなも喜んでいる。それが、何より嬉しい。


ベッドに横になる。雨の音が、子守唄みたいだ。心地いい。目を閉じる。


「雨の日も、悪くないな」


そう思いながら、眠りについた。


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