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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第5章【Ⅴ:静かな事件】

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第22話「商人の持ち込んだ騒動」

魔喰花の騒動から三日。村はようやく落ち着きを取り戻していた。朝、いつものように畑に水をやっていると、見覚えのある馬車が村の入口に停まった。派手な装飾の馬車。あれは、グラドのものだ。久しぶりだな、と思いながら作業を続けていると、グラドが大きな声で叫びながら駆けてきた。


「アキト殿!お久しぶりです!」

「ああ、グラドさん。元気そうだね」

「元気もなにも、大変なんですよ!」


グラドは息を切らしながら、俺の肩を掴んだ。その顔は興奮と焦りが混ざったような表情だ。


「王都から、貴族が来ます!」

「貴族?」

「はい!それも、かなりの地位の方が!」


グラドは手を振り回しながら説明した。「あなたの噂を聞いて、どうしても会いたいと。三日後に到着する予定です」


「三日後……」


俺はため息をついた。また面倒なことになった。貴族が来るということは、村も準備をしなきゃいけない。村長も大変だろう。そして何より、俺がまた注目される。めんどくさい。


「ねえ、グラドさん。断れない?」

「無理です!もう出発されてます!」


グラドは慌てた顔をした。「それに、断ったら失礼にあたります。相手は貴族ですから」


「……はぁ」


深いため息をついた。仕方ない。来るものは来る。受け入れるしかない。でも、できれば普通に接したい。特別扱いは勘弁してほしい。


グラドは村長のところに向かっていった。俺は畑仕事を続けながら、頭の中で考えた。貴族、か。どんな人なんだろう。傲慢な人じゃなければいいけど。そう思いながら、人参に水をやっていると、ユイが駆けてきた。


「アキトさん、大変です!貴族が来るって!」

「聞いた。グラドさんから」

「村中、大騒ぎです。みんな、準備に追われてます」


ユイは困った顔をしている。


「私も、料理の準備をしなきゃいけなくて」

「大変だね」

「はい。でも……」


ユイは俺を見た。


「アキトさん、大丈夫ですか?」

「何が?」

「その……また、色々言われるんじゃないかって」


ユイは心配そうだ。そういえば、前に巡礼者が増えた時も、ユイは気遣ってくれた。いつも、俺のことを考えてくれる。


「大丈夫だよ。慣れたから」

「でも……」

「ユイさんがいてくれるから、大丈夫」


俺は笑顔を作った。ユイは少し安心したような顔をして、頷いた。


「分かりました。でも、何かあったらすぐに言ってくださいね」

「うん、ありがとう」


ユイは村の方に戻っていった。俺は畑仕事を続ける。でも、心は落ち着かなかった。三日後、か。あっという間だな。


その日の午後、村長が小屋にやってきた。疲れた顔をしている。


「アキト、少しいいか」

「どうぞ」


村長は椅子に座って、深呼吸した。


「貴族の件だが、村としてもできる限りの準備をする」

「はい」

「ただ、一つ頼みがある」

「何ですか?」

「普通にしていてくれ」

「え?」


村長は真剣な顔をした。


「お前が無理に取り繕う必要はない。いつも通りでいい」

「……いいんですか?」

「ああ。お前はお前のままでいてくれ。それが一番だ」


村長は笑った。「お前が無理すると、かえって変なことになる」


「それは……そうかもしれませんね」


二人で笑った。村長は優しい人だ。いつも、俺のことを考えてくれる。


「分かりました。じゃあ、いつも通りにします」

「頼んだぞ」


村長は満足そうに頷いて、帰っていった。俺は一人、考えた。いつも通り、か。それが一番難しい気もするけど、まあやってみよう。


三日後の朝、貴族が到着した。立派な馬車が三台、村の入口に停まった。護衛の騎士も数人いる。馬車から降りてきたのは、三十代くらいの男性だった。金髪で、整った顔立ち。服装も立派だ。いかにも貴族という感じだ。


村長が出迎えて、丁寧に挨拶している。俺は少し離れたところから見ていた。できれば目立ちたくない。でも、貴族の視線がこっちに向いた。


「あの方が、アキト殿ですか?」

「はい。アキトです」


村長が俺を紹介した。俺は仕方なく前に出て、頭を下げた。


「初めまして。アキトです」

「初めまして。私はエドワードと申します」


貴族、エドワードは丁寧に挨拶した。思ったより、感じがいい。傲慢な感じはしない。


「あなたの噂は、王都でも有名です」

「そうなんですか」

「ええ。奇跡を起こす聖人、と」


エドワードは俺をじっと見た。


「しかし、お会いしてみると……普通の方ですね」

「普通ですよ」

「いえ、それが素晴らしい」


エドワードは微笑んだ。


「普通でありながら、奇跡を起こす。それこそが真の聖人なのでしょう」


また、そのパターンか。何を言っても、結局そうなる。俺は諦めて、苦笑した。


「とにかく、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


エドワードは村を見回した。


「素晴らしい村ですね。緑が豊かで、人々も幸せそうだ」

「はい。いい村です」

「ぜひ、案内していただけますか?」

「分かりました」


俺はエドワードを村の中に案内した。畑、温泉、花畑。エドワードは一つ一つを丁寧に見て、感心していた。


「この畑、本当に一晩で育つのですか?」

「最初はそうでしたけど、今は普通です」

「普通……」


エドワードは人参を触った。


「しかし、この艶。この大きさ。普通ではありませんよ」

「そうですか」

「ええ。王都の市場でも、これほどの野菜は見たことがありません」


エドワードは俺を見た。


「あなたは、本当に何か特別なことをしているのでは?」

「してないです。種蒔いて、水やってるだけです」

「それだけで……」


エドワードは考え込んだ。それから、笑った。


「やはり、あなたは特別な方だ」


次に温泉に案内した。湯気が立ち上っていて、いい匂いがする。エドワードは温泉を見て、目を輝かせた。


「これが、噂の温泉……」

「はい。入りますか?」

「よろしいのですか?」

「もちろん」


エドワードは護衛に指示を出して、温泉に入った。俺も一緒に入る。湯が温かくて、気持ちいい。エドワードは目を閉じて、深呼吸した。


「……素晴らしい」

「そうでしょう」

「これほど気持ちのいい温泉、初めてです」


エドワードは満足そうに笑った。


「心が洗われるようだ」


しばらく、二人で黙って湯に浸かっていた。静かで、穏やかな時間。エドワードは、思ったより普通の人だった。話しやすい。


「アキト殿」

「はい」

「一つ、お聞きしてもよろしいですか」

「どうぞ」

「あなたは、なぜこの村にいるのですか?」


エドワードは真剣な顔をした。


「王都に来れば、もっと良い生活ができるでしょう。地位も、富も、すべて手に入ります」

「いらないです」

「いらない?」

「はい。ここで十分です」


俺は空を見上げた。


「美味しいもの食べて、気持ちよく寝られる。大切な人たちがいる。それだけで、幸せです」


エドワードは黙っていた。それから、小さく笑った。


「なるほど。だから、あなたは特別なのですね」

「特別じゃないですよ」

「いいえ、特別です」


エドワードは真剣な顔をした。


「普通の人は、もっと欲しがります。地位、富、名声。でも、あなたは違う」

「……」

「あなたは、本当に大切なものが何か、分かっている」


エドワードは湯から上がった。


「素晴らしい方だ。会えて良かった」


温泉を出て、村を歩いていると、ユイ、セシル、リズが待っていた。三人とも、少し緊張した顔をしている。


「アキト様」


とセシルが言った。


「師匠」


とリズが続けた。


「アキトさん」


とユイが微笑んだ。


エドワードは三人を見て、納得したような顔をした。


「この方たちが、あなたの大切な人たちですか」

「はい」

「素晴らしい」


エドワードは三人に丁寧に挨拶した。


「アキト殿をよろしくお願いします」


三人は戸惑った顔をしていたけど、頷いた。


昼過ぎ、俺はエドワードを森の昼寝場所に案内した。木々に囲まれた静かな場所。草がふかふかで、風が心地いい。


「ここが、あなたの昼寝場所ですか」

「はい。静かで、気持ちいいんです」

「確かに……」


エドワードは草の上に座った。


「素晴らしい場所ですね」

「でしょう」


俺も隣に座る。風が吹いて、葉っぱが揺れる。鳥が鳴いている。静かで、穏やかだ。


「一緒に昼寝しませんか?」

「え?」

「気持ちいいですよ」


エドワードは少し戸惑った。でも、すぐに笑った。


「分かりました」


二人で草の上に横になった。空が見える。青い空。白い雲。風が吹いて、心地いい。エドワードは目を閉じた。


「……素晴らしい」


小さく呟いた。俺も目を閉じる。静かだ。何も考えなくていい。ただ、ここにいるだけでいい。


しばらくして、エドワードの声が聞こえた。


「アキト殿、ありがとうございます」

「何が?」

「こんな時間をくださって」


エドワードは目を開けた。涙が流れている。


「私、ずっと忙しくて。休む時間もなくて」

「……」

「でも、ここに来て、あなたと過ごして。初めて、心から休めました」


エドワードは笑った。


「これが、幸せなんですね」

「そうですよ」


俺も笑った。エドワードは、いい人だ。疲れてたんだろう。少しでも休めたなら、良かった。


夕方、エドワードは村を出発した。名残惜しそうに、何度も振り返っている。


「また来てもいいですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます」


エドワードは深々と頭を下げた。それから、馬車に乗り込んで去っていった。村は、また静かになった。


その夜、四人で小屋の前に座っていた。星が綺麗だ。エドワードのことを思い出す。いい人だった。疲れてたけど、少し休めたみたいだ。


「今日は、大変でしたね」


とユイが言った。


「ああ。でも、いい人だった」


とリズが頷いた。


「はい。優しい方でした」


とセシルが微笑んだ。


「うん。また来てくれるといいな」


と俺は言った。


三人は笑った。それから、また星を見上げる。静かで、穏やかな時間。こういう時間が、一番好きだ。


「やっと、静かになったね」


と俺は呟いた。


「そうですね」


とユイが微笑んだ。


「また賑やかになりますよ、きっと」


とセシルが笑った。


「だろうな」


とリズが言った。


でも、それでもいい。賑やかでも、静かでも。みんながいてくれれば、それでいい。そう思いながら、俺は星を見続けた。


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