第2話「腹が減ったから畑を作る」
村での生活が始まって三日目。
朝、村長が小屋にやってきた。
「アキト、畑仕事を手伝ってくれ」
「はい」
鍬を渡される。
重い。でも、持てないことはない。
村長について、畑に向かった。
村の畑は、村の東側に広がっていた。
でも、広いとは言えない。
家族ごとに小さな区画が割り当てられてる感じ。
土は乾いてる。
色も茶色っぽくて、栄養がなさそうだ。
「ここを耕してくれ」
村長が指さしたのは、端の方の区画。
雑草が生えてる。土も固そうだ。
「分かりました」
鍬を振り下ろす。
ガツン、と固い音。
土が硬い。
何度も何度も鍬を打ち込む。
汗が出る。
日差しが強い。
でも、不思議と嫌じゃない。
体を動かすのは、悪くない。
昼になった。
村長が水を持ってきてくれた。
「休め」
「ありがとうございます」
水を飲む。
美味い。冷たい。
村長は俺の作業を見て、頷いた。
「なかなかやるな」
「いえ、まだまだです」
「謙遜するな。お前は働き者だ」
村長は腰を下ろした。
俺も隣に座る。
畑を見渡す。
他の村人も作業してる。
鍬を振るう音。水を運ぶ音。
みんな、黙々と働いてる。
「この村、食べ物足りてるんですか?」
「ギリギリだな」
村長は苦笑した。
「土が痩せてる。雨も少ない。収穫量は年々減ってる」
「そうなんですか」
「ああ。だから、お前みたいな働き手は貴重だ」
村長は空を見上げた。
「昔はもっと豊かだったんだがな。この土地も、もっと緑が多かった」
「何があったんですか?」
「分からん。ただ、少しずつ枯れていった。魔力が薄れたのかもしれん」
魔力。
この世界には、魔法があるんだっけ。
「魔力って、土地にも影響するんですか?」
「ああ。土地に魔力が満ちてれば、植物も育つ。逆に枯れれば、土地も死ぬ」
「なるほど」
「まあ、仕方ない。ここで生きていくしかないからな」
村長は立ち上がった。
「さあ、午後も頑張ろう」
「はい」
夕方まで作業した。
区画の半分ほど、耕すことができた。
体中が痛い。
でも、達成感がある。
「今日はここまでだ」
村長が言った。
「よくやった。明日も頼むぞ」
「はい」
小屋に戻る。
井戸で水を浴びた。
冷たい。でも気持ちいい。
汗が流れる。
体が軽くなる。
小屋に戻って、村長が置いていってくれたパンを食べる。
今日のは少し大きい。チーズと干し肉も。
齧る。
硬い。でも、腹が満たされる。
「……もっと美味いもん、食いたいな」
ふと、思った。
パンも肉も悪くない。
でも、もっと野菜が欲しい。
果物も。
新鮮な、みずみずしいやつ。
「そういえば、畑で野菜作ってるのか?」
考える。
畑では穀物を育ててるみたいだった。
野菜は、あまり見なかった。
「……自分で作るか」
そう思った。
翌日。
村長に聞いてみた。
「野菜、育てたいんですけど」
「野菜?」
「はい。自分で食べたいので」
村長は少し驚いた顔をした。
「野菜か。育てるのは難しいぞ。この土地じゃ」
「でも、試してみたいです」
「ふむ」
村長は考え込んだ。
「まあ、いいだろう。種ならある。好きに使え」
「ありがとうございます」
村長は倉庫から、小さな袋をいくつか持ってきた。
「これは人参。これは玉ねぎ。こっちはキャベツだ」
「助かります」
「ただし、期待するなよ。この土地で野菜はほとんど育たん」
「大丈夫です。ダメ元でやってみます」
村長は笑った。
「お前、本当に変わってるな」
その日の午後。
俺は小屋の近くに、自分用の畑を作り始めた。
小さな区画。
でも、自分一人が食べる分には十分だ。
鍬で土を耕す。
雑草を抜く。
石を取り除く。
汗が滴る。
でも、楽しい。
自分のために作ってる。
それが、なんだか嬉しい。
夕方までに、なんとか畑らしくなった。
種を蒔く。
人参、玉ねぎ、キャベツ。
適当に並べて、土をかぶせる。
井戸から水を運んで、たっぷりかける。
「これでいいだろ」
手を叩いて、土を払う。
あとは育つのを待つだけ。
数週間かかるかもしれない。
でも、楽しみだ。
翌朝。
小屋を出て、畑を見に行った。
「……は?」
固まる。
畑が、緑だった。
昨日蒔いたばかりの種から、芽が出てる。
しかも、ただの芽じゃない。
すでに葉っぱが広がってる。
人参は、地面から葉っぱが伸びてる。
玉ねぎも、緑の茎が立ってる。
キャベツに至っては、もう玉になりかけてる。
「……嘘だろ」
一晩で。
これ、一晩で育ったのか?
「おい、アキト!」
後ろから声がした。
振り返ると、村長が走ってきた。
息を切らしてる。
「お前、これ……」
「あの、俺も意味が分からないんですけど」
「一晩で育つなんて……」
村長は畑を見て、それから俺を見た。
「やはり、お前は……」
「違います。俺は何もしてないです」
「種を蒔いて、水をやっただけか?」
「はい」
「それだけで、こんなことになるか?」
村長は頭を抱えた。
「信じられん。だが、現実だ」
その日、また村中が騒ぎになった。
「奇跡だ!」
「野菜が一晩で育った!」
「あの方のおかげだ!」
村人が俺の畑に集まってくる。
キャベツを見て、驚いてる。
人参の葉っぱを触って、呟いてる。
「本物だ……」
「こんなに立派な野菜、見たことない」
「神様が、本当に遣わしてくれたんだ」
俺は小屋の中に逃げ込んだ。
窓から外を覗く。
村人がまだ集まってる。
めんどくさい。
ただ野菜を育てたかっただけなのに。
でも、腹は減る。
畑に戻って、キャベツを一つ収穫した。
村人が道を開ける。
「あ、収穫なさる……」
「すみません、ちょっと通ります」
キャベツを抱えて、小屋に戻る。
重い。でも、新鮮だ。
葉っぱが瑞々しい。
小屋の中で、キャベツを切った。
村長が貸してくれたナイフで、ざくざくと。
生で食べる。
シャクシャク、と音がする。
甘い。
水分たっぷりで、美味い。
こんなに美味いキャベツ、初めてかもしれない。
「……最高だな」
もう一切れ食べる。
うまい。
これが食いたかったんだ。
新鮮な野菜。
瑞々しくて、甘くて、美味いやつ。
満足した。
腹も満たされた。
「よし」
外を見る。
村人はまだ畑の周りにいる。
でも、もう気にしない。
俺は俺のペースで生きる。
美味いもん食って、気持ちよく寝る。
それだけだ。
その日の夕方。
村長が訪ねてきた。
「アキト」
「はい」
「村のみんなが、お前に感謝してる」
「いえ、俺は何も……」
「分かってる。お前は何もしてないと言うだろう」
村長は笑った。
「だが、結果は出てる。お前が来てから、村が変わり始めた」
「それは……」
「偶然かもしれん。奇跡かもしれん。理由は分からん」
村長は俺の肩に手を置いた。
「だが、お前がここにいてくれることが、村の希望になってる」
「重いですよ、それ」
「すまんな」
村長は苦笑した。
「無理に何かしてくれとは言わん。お前はお前のペースで生きてくれ」
「……ありがとうございます」
「ただ、一つだけ頼みがある」
「なんですか?」
「明日、畑の野菜を村のみんなに分けてやってくれんか」
「え?」
「お前一人じゃ、食いきれんだろう」
確かに。
キャベツだけでも十個以上ある。
人参も玉ねぎも、大量だ。
「……分かりました」
「ありがとう」
村長は去っていった。
翌日。
朝から村の広場で、野菜を配った。
村人が列を作ってる。
一人一人に、キャベツや人参を渡す。
「ありがとうございます!」
「神のご加護を!」
「あの、神じゃないんですけど……」
誰も聞いてない。
みんな、嬉しそうに野菜を受け取って帰っていく。
子どもたちは、人参を齧ってる。
「甘い!」
「美味しい!」
笑顔が溢れてる。
「……まあ、いいか」
喜んでくれてるなら、それでいい。
俺は何もしてないけど、結果的に良かったなら。
最後の一人に野菜を渡した時、村長が言った。
「アキト、本当にありがとう」
「いえ」
「これで、しばらくは食べ物に困らない」
村長は空を見上げた。
「久しぶりだ。こんなに希望を感じるのは」
その夜。
小屋に戻って、残った野菜でスープを作った。
人参と玉ねぎ、キャベツを煮込む。
塩を少し。
村長がくれた干し肉も入れる。
ぐつぐつと煮える音。
いい匂いがする。
スープを飲む。
温かい。
野菜の甘みが染み出てる。
肉の旨味も。
「……うまい」
一人で食べるスープ。
でも、幸せだ。
美味しく食べられる。
それだけで、十分だ。
外では、星が瞬いてる。
風が吹いて、木々が揺れる。
静かな夜。
俺は小屋の中で、スープを飲み干した。
「ごちそうさん」
満足した。
今日も、いい一日だった。
明日も、きっと。
村での生活は、少しずつ変わり始めていた。
畑は豊かになり、食卓は賑やかになった。
村人は笑顔を取り戻し、子どもたちは元気に走り回ってる。
でも、俺は変わらない。
ただ、美味しく食べて、気持ちよく寝る。
それだけだ。
これからも、きっと。
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