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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第4章【Ⅳ:感情と絆の芽生え】

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第17話「師匠なんて呼ばないでくれ」

リズが村に来て三日。彼女の回復は順調だった。


朝、小屋の前でリズと一緒に朝食を食べていると、ユイが様子を見に来た。籠に新しく焼いたパンを持っている。


「おはようございます、アキトさん。リズさん」

「おはよう」

「おう」


とリズは短く返事した。まだ少し人見知りしているみたいだけど、昨日よりは柔らかい表情だ。


ユイがパンを置いて、リズの顔を見た。


「顔色、良くなりましたね」

「ああ。おかげさまで」

「無理しないでくださいね」

「分かってる」


ユイは微笑んで、それから俺に言った。


「今日も巡礼者が増えそうです。村長が、アキトさんに挨拶してほしいって」

「また?」


と俺はため息をついた。


「昨日もしたのに」

「人気者ですね」


とユイは笑った。


「人気なんていらないんだけどな……」


リズが不思議そうな顔で俺を見ている。


「あんた、本当に有名人なのか?」

「らしいよ。よく分からないけど」

「変なの」


とリズは笑った。


「有名なのに、こんなところで朝飯食ってるなんて」

「普通に食べたいだけだよ」

「それが変なんだって」


リズは楽しそうだ。彼女の笑顔を見ると、こっちも嬉しくなる。元気になってきた証拠だ。


午前中、リズは村の周りを散歩していた。俺も付き添っている。まだ完全に回復したわけじゃないから、念のためだ。


畑を通りかかると、村人が作業している。リズはその様子をじっと見ていた。


「みんな、楽しそうだな」

「そう?」

「ああ。笑顔で働いてる」


リズは少し寂しそうな顔をした。


「俺が冒険者やってた頃は、いつも殺伐としてた」

「冒険者って、大変なの?」

「大変だよ。魔物と戦って、命がけで依頼をこなして」


とリズは腕の傷跡に触れた。


「いつ死んでもおかしくない」

「……そうなんだ」

「でも、それしかできなかった」


リズは空を見上げた。


「親もいないし、家もない。だから、強くならなきゃいけなかった」

「強く、か」

「ああ。弱いと、生きていけない。そう思ってた」


リズは俺を見た。


「でも、あんたを見てると、分からなくなる」

「何が?」

「強さって、何なのか」


リズは真剣な顔をしている。


「あんた、戦わないだろ?」

「うん。戦う理由がないから」

「でも、みんなあんたを尊敬してる。頼りにしてる」

「それは……」

「なんでだ?あんたは強くないのに」


リズの問いに、俺は少し考えた。強さ、か。確かに、俺は戦えない。魔法も使えない。ただの人間だ。


「強くなる必要なんて、ないんじゃない?」


と俺は言った。


「え?」

「生きてるだけで、十分だと思う」


リズは目を見開いた。


「強くなくても、誰かと一緒にいられる。美味しいもの食べて、気持ちよく寝られる。それだけで、幸せだよ」

「それだけで……」

「うん。焦る必要もない。ゆっくりでいい」


俺はリズの肩に手を置いた。


「リズさんは、もう十分頑張ってきたと思う。だから、少し休んでもいいんじゃない?」


リズは黙っていた。でも、目に涙が浮かんでいる。それを必死に堪えている。


「……ずるいな、あんた」

「え?」

「そんなこと言われたら……泣いちゃうだろ」


リズは手で目を拭った。


「俺、ずっと強くならなきゃって思ってた。弱い自分が許せなかった」

「……」

「でも、あんたは言うんだな。生きてるだけで十分だって」


リズは笑った。涙声だけど、笑顔だった。


「初めて言われたよ、そんなこと」

「そう?」

「ああ。みんな、もっと強くなれ、もっと頑張れって言うだけだった」


リズは俺を見た。


「あんた、優しいんだな」

「そんなことないよ」

「いや、優しい」


リズは深呼吸した。それから、真剣な顔で俺を見た。


「なあ、アキト」

「なに?」

「俺、あんたの弟子になりたい」

「え?」

「あんたの生き方を、学びたい」


リズは頭を下げた。


「お願いします。弟子にしてください」

「ちょっと待って」


と俺は慌てた。


「弟子って、俺は何も教えられないよ」

「教えてくれ。あんたみたいに、生きる方法を」

「いや、だから……」

「お願いします」


リズは譲らない。その目は、本気だ。俺は困った。弟子なんて、取ったことがない。というか、俺に教えられることなんてあるのか?


でも、リズの目を見ていると、断れなかった。必死な目だ。真剣な目だ。


「……分かった」

「本当か!」

「でも、俺は特別なことは教えられないよ。ただ、一緒に過ごすだけ」

「それでいい」


とリズは嬉しそうに笑った。


「一緒にいさせてくれ、師匠」

「師匠って呼ばないでくれ」

「なんで?」

「なんか恥ずかしい」

「でも、師匠は師匠だろ」


リズはニヤニヤしている。からかわれてる気がする。


「……好きにして」


俺は諦めた。リズは笑顔で頷いた。




その日の午後、セシルが小屋にやってきた。


「アキト様、お茶の時間です」


彼女は最近、毎日お茶を淹れに来てくれる。俺は小屋の前に座っていて、リズは隣にいる。


「ありがとう、セシルさん」


セシルがお茶を三人分用意する。リズは少し緊張している様子だ。セシルの神聖な雰囲気に、気圧されてるのかもしれない。


「リズさん、お体はいかがですか?」とセシルが聞いた。

「ああ、もうだいぶいい」

「それはよかったです」


セシルは微笑んだ。それから、俺に言った。


「アキト様、最近お忙しそうですね」

「そうでもないよ」

「いいえ。巡礼者の対応、村の手伝い、そしてリズさんの看病」


セシルは少し寂しそうな顔をした。


「私とお話しする時間も、減ってしまいました」


「ごめん。忙しくて」

「いいえ、謝らないでください」


とセシルは首を振った。


「私が、わがままを言っているだけです」

「わがままじゃないよ」


俺はセシルの手に触れた。


「セシルさんとの時間も、大切だから」


セシルは顔を赤くした。


「あ、ありがとうございます」


隣で、リズが不思議そうな顔をしている。


「あんたら、どういう関係なんだ?」

「え?」

「いや、なんか雰囲気が……」


リズは言葉を探している。セシルは慌てた顔をした。


「わ、私はアキト様を、その……尊敬しているだけです」

「尊敬ねえ」


とリズはニヤニヤしている。


「そういうことにしとくか」

「本当です!」


セシルは真っ赤になっている。俺は苦笑した。リズは意外と、こういうところを突くのが上手い。




夕方、ユイが夕食を持ってきた。


四人で小屋の前に座って、食事をする。今日のメニューは野菜のシチューとパンだ。いつものユイの味。美味い。


「ユイさんの料理、本当に美味しいな」


とリズが言った。


「ありがとうございます」

「毎日こんなの食べてるのか、師匠は」

「師匠って呼ばないでって言ったのに……」


リズは笑っている。ユイとセシルは、少し戸惑った顔をしている。


「弟子、ですか?」


とユイが聞いた。


「ああ。今日から師匠の弟子だ」

「アキトさんの……」


ユイは複雑そうな顔をした。セシルも、少し驚いている。


「あの、リズさん。弟子というのは……」


とセシルが言った。


「師匠の生き方を学ぶんだ。強くなくても、生きていける方法をな」


リズは真剣な顔だ。


「俺、ずっと強さを求めてきた。でも、師匠は違う。強くないのに、みんなから信頼されてる」

「それは……」

「だから、学びたいんだ。あの人がどうやって生きてるのか」


リズの言葉に、ユイとセシルは黙った。それから、ユイが言った。


「そうですか。じゃあ、よろしくお願いします」

「おう」


セシルも頷いた。


「私も、協力します」

「ありがとな」


リズは笑顔だ。三人とも、少しずつ距離が縮まってきた気がする。


俺はシチューを食べながら、その様子を見ていた。なんだか、家族みたいだ。賑やかで、温かい。


「みんなで食べると、美味いな」


とぼんやり言った。


三人が俺を見た。それから、笑顔になった。


「そうですね」


とユイが言った。


「はい」


とセシルが頷いた。


「だな」


とリズが笑った。




その夜、一人で星空を見ていた。


リズが弟子になった。弟子、か。俺に教えられることなんてあるのか、まだ分からない。でも、リズが学びたいと言ってくれた。それだけで、嬉しい。


ユイ、セシル、リズ。三人とも、俺の周りにいてくれる。賑やかになった。前は一人が好きだったのに、今は寂しいとすら思う。


「不思議だな」


呟く。人は変わるものだ。俺も、変わってきたのかもしれない。


窓の外から、三人の笑い声が聞こえてくる。ユイの家で、お茶を飲んでいるみたいだ。三人とも、仲良くなってきた。


「いい感じだな」


そう思いながら、ベッドに横になった。明日も、きっといい日になる。リズとの新しい日々が始まる。どんなことを学んでもらえばいいのか、まだ分からない。でも、一緒に過ごせば、何か見つかるだろう。


目を閉じる。心が温かい。三人がいてくれる。それだけで、幸せだ。


やがて、眠りが訪れた。静かで、深い眠り。




その頃、ユイの家では三人が話していた。


「リズさん、本当に弟子になったんですね」


とユイが言った。


「ああ。師匠の生き方、学びたいんだ」

「アキト様は、本当に不思議な方です」


とセシルが言った。


「強くないのに、みんなを惹きつける」

「だよな」


とリズは頷いた。


「俺も、最初は変人だと思った。でも、話してるうちに分かった」

「何がですか?」

「あの人、本当に優しいんだ」


リズはお茶を飲んだ。


「俺に、生きてるだけで十分だって言ってくれた。そんなこと、初めて言われた」


ユイとセシルは顔を見合わせた。


「アキトさんらしいですね」


とユイが微笑んだ。


「はい」


とセシルも頷いた。


三人は少し黙った。それから、ユイが言った。


「私たち、みんなアキトさんに救われてますね」

「そうだな」


とリズが言った。


「はい」


とセシルが頷いた。


三人は笑った。それぞれが、アキトへの想いを抱きながら。でも、それを口には出さない。ただ、一緒にいられることが幸せだった。


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