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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第3章【Ⅲ:誤解の拡大】

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第15話「聖地となった村」

調査が始まって一週間が経った頃、村に大きな知らせが届いた。

朝、村長の家に呼ばれた。ルシウスとセシル、そして村の主要な人たちが集まっている。


何か重要な話があるらしい。俺は椅子に座って、話を聞く準備をした。ユイも隣にいる。


「皆さん」とルシウスが立ち上がった。「教会本部から、正式な通達が届きました」


ルシウスは羊皮紙を広げた。金色の封蝋が施されている。正式な文書だ。


「リーヴ村は、神の加護を受けた聖地として、正式に認定されました」


村長は目を見開いた。


「聖地……」

「はい。この村で起きている数々の奇跡は、神の意志によるものと判断されました」


ルシウスは俺を見た。


「そして、アキト殿。あなたは、神に選ばれし者として記録されます」

「いや、だから俺は……」

「謙虚なお方だ」


とルシウスは微笑んだ。


「それもまた、聖人の証です」


もう何も言わない。何を言っても無駄だから。俺はため息をついた。


「これより、この村には巡礼者が訪れるでしょう」


とルシウスは続けた。


「教会は、村の保護と支援を約束します」

「ありがとうございます」


と村長が深々と頭を下げた。


「村を代表して、感謝いたします」


会議はそれで終わった。村人たちは喜んでいる。村が聖地として認められた。これで、村はさらに豊かになるだろう。でも、俺には複雑な気持ちだった。




その日の午後、村の入口に看板が立てられた。


「聖地リーヴ村」


大きな文字で書かれている。教会のマークも刻まれていた。村人たちが集まって、看板を見ている。子どもたちは、はしゃいでいる。


「すごいな、聖地だって」

「アキトさんのおかげだ」

「俺たちの村が、聖地に……」


みんな、嬉しそうだ。俺は少し離れたところから、その様子を見ていた。セシルが隣に来た。


「アキト様」

「セシルさん」

「どう思われますか?村が聖地になったこと」

「……よく分かりません」


本当だ。よく分からない。俺はただ、普通に生きてただけだ。なのに、村が聖地になった。


「皆さん、喜んでおられます」

「そうですね」

「それは、アキト様のおかげです」


セシルは俺を見た。その目は、以前とは違っていた。崇拝するような目じゃなく、もっと柔らかい目だ。


「でも、私は思うのです」

「何をですか?」

「あなた様は、本当に神に選ばれた方なのか、それとも……」


セシルは言葉を探している。「ただ、優しい人なのか」


「優しくなんてないですよ」

「いいえ」


とセシルは首を振った。


「あなた様は優しいです。洗濯を教えてくれて、一緒にお茶を飲んで、子どもと遊んでくれて」


セシルは少し顔を赤くした。


「そういう、普通のことをしてくれる。それが、嬉しいのです」

「……そうですか」

「はい」


セシルは微笑んだ。


「私、最初はあなた様を神の化身だと思っていました」

「今は違うんですか?」

「……分かりません」


とセシルは空を見上げた。


「でも、あなた様といると、心が温かくなります。これが信仰なのか、それとも……」


セシルは言葉を止めた。それ以上は言わない。俺も、何も聞かなかった。




夕方、巡礼者が村に到着した。


最初のグループは五人ほど。旅装束を着て、杖を持っている。みんな、疲れた顔をしているけど、目は輝いていた。


「ここが、聖地リーヴ村……」

「本当に、緑が豊かだ」

「奇跡の村だ」


巡礼者たちは村を見回して、感動している。村長が出迎えて、案内している。畑を見て、温泉を見て、花畑を見て。そのたびに、驚きの声が上がる。


「素晴らしい……」

「神の加護が、確かにある」


俺は小屋の前で、その様子を眺めていた。ユイが隣に来た。


「始まりましたね」

「うん」

「これから、もっと増えるでしょうね」

「そうだろうね」


ユイは俺を見た。「アキトさん、大丈夫ですか?」


「何が?」

「その……色々、変わりますよね。村が聖地になって、人が増えて」

「まあ、仕方ないかな」


俺は肩をすくめた。「村のためだし」


「でも、アキトさんの静かな時間が……」

「大丈夫だよ」


と俺は笑った。


「森の昼寝場所があるし」

「そうですけど……」


ユイは心配そうな顔をしている。俺は彼女の頭に手を置いた。


「ユイさんがいてくれれば、大丈夫」

「え?」

「ユイさんといる時間が、一番落ち着くから」


ユイは顔を赤くした。


「もう、何言ってるんですか」

「本当のことだよ」

「……ありがとうございます」


ユイは嬉しそうに笑った。その笑顔を見ると、こっちも嬉しくなる。村がどう変わろうと、ユイがいてくれれば大丈夫だ。そう思えた。




その夜、村長の家で歓迎会が開かれた。


巡礼者たちを迎えて、村人総出で食事会だ。長いテーブルに料理が並べられている。野菜のスープ、焼き肉、サラダ、パン。どれも村で採れた食材だ。


「美味しい!」

「こんなに美味しい野菜、初めて食べた」


巡礼者たちは感動している。村人たちも嬉しそうだ。賑やかで、温かい雰囲気だ。


俺は隅の方で、静かに食事をしていた。できるだけ目立たないようにしている。でも、巡礼者の一人が気づいた。


「あの方が……」

「噂の……」

「アキト様……」


巡礼者たちがこっちを見ている。俺は内心、ため息をついた。また、こうなる。


「お会いできて光栄です!」


巡礼者の一人が駆け寄ってきた。中年の男性だ。


「私、王都から三日かけて参りました」

「そうですか。お疲れさまです」

「あなた様のお話を聞いて、どうしても会いたくて」

「いや、俺は特に……」

「謙虚なお方だ」


と男性は感動した顔をした。


「噂通りだ」


他の巡礼者も集まってくる。質問攻めだ。疲れる。でも、断るわけにもいかない。俺は笑顔を作って、できるだけ丁寧に答えた。


しばらくして、セシルが助けに入ってくれた。


「皆さん、アキト様もお疲れです。少し休ませてあげてください」

「あ、すみません」


巡礼者たちは引き下がった。セシルは俺に微笑みかけた。


「大丈夫ですか?」

「ありがとう。助かった」

「これからも、こういうことが増えるでしょうね」

「そうだろうね」

「でも、私がお守りします」


セシルは真剣な顔をした。


「あなた様が静かに過ごせるように」

「ありがとう、セシルさん」

「いえ」


セシルは少し照れたように笑った。その笑顔が、可愛らしかった。




宴が終わって、小屋に戻った。一人になって、やっと落ち着いた。ベッドに座って、窓の外を見る。星が出ている。いつもの星空。変わらない、静かな夜。


「聖地、か」


呟く。村が聖地になった。これから、もっと人が増えるだろう。賑やかになる。俺の静かな日常は、少しずつ変わっていく。


でも、悪いことばかりじゃない。村人は喜んでいる。村は豊かになる。それは、いいことだ。


「まあ、いいか」


そう言い聞かせた。変化は避けられない。なら、受け入れるしかない。それに、ユイがいる。セシルもいる。村長も、村人も。みんながいる。


一人じゃない。それが、一番大きい。


「明日も、いつも通りにしよう」


呟く。村が聖地になろうと、俺は俺のペースで生きる。美味いもん食って、気持ちよく寝る。それだけだ。


目を閉じる。今日一日のことを思い出す。看板、巡礼者、宴会、セシルの笑顔、ユイの心配そうな顔。全部、温かい記憶だ。


やがて、眠りが訪れた。深くて、静かな眠り。明日への活力を蓄えるための、大切な眠り。




その頃、村の別の場所では――。


ユイは自分の部屋で、窓の外を見ていた。アキトの小屋の方を。灯りは消えている。もう寝たのだろう。


「アキトさん……」


小さく呟く。今日、アキトは「ユイさんがいてくれれば大丈夫」と言ってくれた。嬉しかった。でも、同時に不安もある。


セシルが来てから、アキトとセシルが一緒にいる時間が増えた。洗濯をしたり、お茶を飲んだり、子どもと遊んだり。それを見るたびに、胸が痛い。


「私、どうしたんだろう……」


自分の気持ちが分からない。アキトは大切な人だ。でも、それがどういう意味なのか。友達として?それとも……。


ユイは頭を振った。考えても仕方ない。今は、アキトの側にいること。それだけを考えよう。


セシルも、自分の部屋で考えていた。


今日、アキトは「ありがとう」と言ってくれた。優しい声だった。その声を思い出すと、胸が温かくなる。


「これは、何なのでしょう……」


信仰とは違う。それは分かる。でも、何なのか分からない。アキトといると、楽しい。嬉しい。守りたいと思う。


「アキト様……」


呟く。最初は神の化身だと思っていた。でも、今は違う。アキトは、ただの優しい人だ。人間らしい、温かい人だ。


そんな人を、もっと知りたい。一緒にいたい。


セシルは胸に手を当てた。心臓が、いつもより速く打っている。


「これは……恋、なのでしょうか」


小さく呟いた。でも、答えは出ない。ただ、アキトのことを考えると、心が温かくなる。それだけは、確かだった。


村は変わり続けていた。聖地として認められ、巡礼者が訪れるようになった。賑やかで、活気に満ちている。


でも、アキトは変わらない。いつも通り、畑仕事をして、温泉に入って、昼寝をして。普通に生きている。


そんなアキトを、二人の少女が見守っている。ユイとセシル。それぞれの想いを抱きながら。


物語は、新しい章へと進んでいく。


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