表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第3章【Ⅲ:誤解の拡大】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/30

第14話「信仰と日常」

セシルが村に来て三日。相変わらず、彼女は俺の後をついて回っていた。

朝起きると、小屋の外にセシルが待っている。畑仕事をすれば、観察される。温泉に行けば、外で待機される。昼寝をすれば、「瞑想」だと記録される。もう慣れた。慣れたというか、諦めた。

「アキト様、今日は何をなさるのですか?」

朝食を終えた後、セシルが聞いてきた。真剣な顔だ。いつも真剣な顔をしている。

「洗濯です」

「洗濯……」とセシルは少し驚いた顔をした。「ご自分で?」

「そうですよ。一人暮らしなんで」

「なんと……」

セシルは何か考え込んでいる。また誤解されるんだろうな、と思いながら、俺は洗濯物を籠に入れた。服、タオル、毛布。結構な量がある。

「手伝います」とセシルが言った。

「え?」

「洗濯、手伝わせてください」

「いや、大丈夫ですよ」

「いいえ」とセシルは首を振った。「あなた様のような尊い方に、こんな作業をさせるわけにはいきません」

「いや、だから尊くないんですけど……」

「手伝わせてください」

セシルは譲らない。その目は真剣だ。断っても無駄だろう。俺はため息をついた。

「……分かりました。じゃあ、一緒にやりましょう」

「はい!」

セシルは嬉しそうに笑った。その笑顔を見るのは、初めてだった気がする。いつも真面目な顔をしてるから、笑顔が新鮮だ。


井戸の近くで、二人で洗濯を始めた。桶に水を汲んで、服を浸す。それから、石鹸でゴシゴシ洗う。単純な作業だけど、量が多いと時間がかかる。

セシルは慣れない手つきで洗濯をしている。修道服の袖をまくって、一生懸命だ。でも、洗い方がぎこちない。

「セシルさん、洗濯したことないんですか?」

「はい……教会では、専門の方がいましたので」

「そうなんだ」

「お恥ずかしいです」

セシルは少し顔を赤くした。その表情が、なんだか可愛らしい。いつも真面目で神聖な雰囲気を纏ってるけど、こういう普通の表情もするんだな。

「じゃあ、教えますね」

「本当ですか?」

「こうやって、生地を擦り合わせるんです。あまり強くやると破れるので、適度に」

「こう、ですか?」

セシルは俺の真似をして洗い始めた。最初はぎこちなかったけど、だんだん慣れてくる。飲み込みが早い。

「上手ですね」

「ありがとうございます」

セシルは嬉しそうに笑った。二人で並んで洗濯をする。時々、手が触れそうになって、セシルが慌てて手を引く。その度に、少し顔が赤くなる。

「アキト様」

「はい」

「あの、質問してもよろしいですか」

「どうぞ」

「なぜ、ご自分で洗濯をなさるのですか?」

「一人暮らしだからですよ。誰かにやってもらうわけにはいかないし」

「でも、あなた様ほどの方なら……」

「俺は普通の人間です」と俺は言った。「だから、普通に洗濯もします」

セシルは黙って、俺を見ていた。その目は、いつもの崇拝するような目ではなかった。何か、別のものを見ているような目だ。

「……そうですか」

セシルは小さく呟いて、また洗濯に戻った。


洗濯を終えて、服を干した。日差しが強いから、すぐに乾くだろう。セシルも手伝ってくれて、作業が早く終わった。

「ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。教えていただいて」

セシルは少し汗をかいている。額に汗が滲んでいた。それを手で拭う仕草が、なんだか人間らしい。

「喉、乾きましたよね。お茶でも飲みましょうか」

「はい」

小屋に戻って、お茶を淹れた。ユイが置いていってくれた茶葉だ。いい香りがする。二人で席について、お茶を飲んだ。

「美味しいですね」とセシルが言った。

「ユイさんが選んでくれたお茶です」

「ユイさん……」

セシルは少し考え込んだ。「あの方は、アキト様と長い付き合いなのですか?」

「まあ、一ヶ月くらいですけど」

「一ヶ月……」

「でも、よく面倒見てくれるんです。料理作ってくれたり、色々手伝ってくれたり」

「そうですか」

セシルはお茶を飲んだ。それから、窓の外を見た。村の畑が見える。緑が広がっていて、綺麗だ。

「アキト様」

「はい」

「あなた様は、ユイさんのことを……」

「え?」

「いえ、なんでもありません」

セシルは顔を赤くした。何か言いかけたけど、途中でやめたみたいだ。何を聞きたかったんだろう。


午後、村の子どもたちが小屋の前に集まってきた。五人ほど。みんな、俺を見て目を輝かせている。

「アキトさん!」

「どうしたの?」

「遊んで!」

子どもたちは元気いっぱいだ。最近、よく遊びに来る。最初は遠慮してたけど、だんだん慣れてきたみたいだ。

「今日は何する?」

「鬼ごっこ!」

「またか。俺、足速くないんだけどな」

「大丈夫!アキトさん、鬼ね!」

勝手に決められた。子どもたちは笑いながら逃げていく。俺は仕方なく追いかける。セシルは、その様子を呆然と見ていた。

「アキト様が……子どもたちと……」

「セシルさんも一緒にどうですか?」

「え、私もですか?」

「はい。楽しいですよ」

セシルは戸惑っていたけど、子どもの一人が手を引いた。

「お姉ちゃんも一緒に!」

「あ、あの……」

「ほら、逃げて!」

子どもたちに引っ張られて、セシルも走り始めた。最初はぎこちなかったけど、だんだん笑顔になってくる。修道服の裾を押さえながら、一生懸命走っている。

俺は子どもたちを追いかける。なかなか捕まえられない。子どもは速い。セシルも逃げている。銀髪が風に揺れている。

「捕まえた!」

やっと一人捕まえた。子どもは笑いながら、次の鬼になった。今度は子どもが追いかける番だ。俺とセシルは一緒に逃げる。

「こっちです、アキト様!」

セシルが手を引いた。温かい手だ。二人で木の陰に隠れる。息を潜めて、子どもの動きを見る。

「……楽しいですね」とセシルが小声で言った。

「そうですね」

「こんな風に遊ぶの、久しぶりです」

「昔は、よく遊んだんですか?」

「はい。教会に入る前は」

セシルは少し懐かしそうな顔をした。「でも、教会に入ってからは、こういう時間がなくて」

「そうなんだ」

「毎日、祈りと勉強と修行でした」

セシルは俺を見た。「でも、今日は……楽しいです」

「よかった」

子どもが近づいてくる。セシルと目を合わせて、頷く。それから、一緒に走り出した。


日が傾く頃、子どもたちは帰っていった。俺とセシルは、小屋の前で休んでいた。二人とも、少し疲れている。

「疲れましたね」

「はい……でも、楽しかったです」

セシルは笑顔だった。いつもの真面目な表情じゃなく、柔らかい笑顔。

「アキト様」

「はい」

「あの、一つ聞いてもいいですか」

「どうぞ」

セシルは少し躊躇してから、言った。「あなた様は、本当に……神の化身なのでしょうか」

「違いますよ」

「でも、奇跡が起きています」

「それは偶然です」

「偶然が、こんなに続くでしょうか」

セシルは真剣な顔をした。「私は、ずっとそう信じていました。あなた様は神聖な存在だと」

「……」

「でも、今日一日、一緒に過ごして」

セシルは俺を見た。「あなた様は、とても……人間らしいです」

「そうですよ。人間ですから」

「洗濯をして、お茶を飲んで、子どもと遊んで」

セシルは小さく笑った。「神聖な存在が、そんなことをするでしょうか」

「しないと思います」

「……ですよね」

セシルは空を見上げた。夕焼けが綺麗だ。オレンジ色の空に、雲が浮かんでいる。

「でも、不思議です」

「何がですか?」

「あなた様といると、心が温かくなります」

セシルは顔を赤くした。「これは、信仰の心……なのでしょうか」

「さあ……」

俺には分からない。信仰とか、そういうのはよく分からない。でも、セシルの表情は、いつもとは違っていた。崇拝するような目じゃなく、もっと柔らかい目だ。

「分かりません」とセシルは呟いた。「でも、あなた様と一緒にいると……楽しいです」

「俺も楽しいですよ」

「本当ですか?」

「本当です」

セシルは嬉しそうに笑った。その笑顔が、夕焼けに照らされて綺麗だった。


夜、セシルが帰った後、ユイが夕食を持ってきた。

「お疲れさまです、アキトさん」

「ああ、ありがとう」

「今日は、セシルさんと一緒だったんですね」

「うん。洗濯手伝ってもらったり、子どもと遊んだり」

「そうですか」

ユイは少し複雑な顔をした。「セシルさん、どうでしたか?」

「どうって?」

「その……アキトさんのこと、まだ神様だと思ってますか?」

「うーん、少しは変わったかな」

俺は今日のことを話した。洗濯のこと、お茶のこと、子どもと遊んだこと。ユイは黙って聞いていた。

「……そうですか」

「ユイさん、どうかした?」

「いえ、なんでも」

ユイは笑顔を作った。でも、少しだけ寂しそうに見えた気がする。気のせいかもしれないけど。

「ユイさん」

「はい」

「俺、やっぱりユイさんと一緒にいるのが一番落ち着くよ」

「……え?」

「セシルさんも悪い人じゃないけど、ユイさんの方が一緒にいて楽だ」

ユイは顔を赤くした。「な、何言ってるんですか」

「本当のことだよ」

「もう……」

ユイは嬉しそうに笑った。さっきの寂しそうな表情は消えている。よかった。

「じゃあ、食べましょうか」

「うん」

二人で夕食を食べた。いつもの味。いつもの時間。これが、一番落ち着く。


その夜、セシルは自分の部屋で考えていた。

今日一日のことを思い出す。洗濯を教えてもらったこと。お茶を飲んだこと。子どもと遊んだこと。アキトの笑顔。温かい手。

「アキト様……」

呟く。胸が温かい。これは、何だろう。信仰の心とは、違う気がする。でも、何なのか分からない。

窓の外を見る。星が出ている。その向こう、アキトの小屋がある。今頃、寝ているのだろうか。

「また、明日……」

そう呟いて、セシルは眠りについた。心は温かいまま。不思議な感覚に包まれながら。


読んで下さりありがとうございました!

★★★★★評価と[[[ブックマーク]]]、リアクションお願いします!

Youtubeにて作品公開中!

http://www.youtube.com/@mizukara-h2z

ご感想やご質問など、ぜひコメントでお聞かせください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ