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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第3章【Ⅲ:誤解の拡大】

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第13話「巫女と誤解」

第13話「巫女と誤解」

神官たちの観察が始まって三日目。少しだけ慣れてきた。慣れたというか、諦めた。何をやっても誤解されるし、何を言っても信じてもらえない。だから、もう気にしないことにした。

朝、畑仕事を終えて井戸を掘っていた。村の東側に新しい井戸が欲しいと村長に頼まれたのだ。スコップで土を掘り返す。地味な作業だけど、やってみると意外と楽しい。土の中から、たまに石が出てくる。それを取り除いて、また掘る。汗が出るけど、悪くない。

「これも、神聖な儀式なのでしょうか」とルシウスが後ろで呟いている。もう気にしない。好きに言わせておく。

二メートルほど掘ったところで、土が湿ってきた。水脈が近い。もう少しだ。さらに掘り進めると、底から水が湧き始めた。

「出た」

冷たくて、透明な水だ。綺麗だ。これなら飲める。俺は井戸から這い上がって、村長に報告した。

「水が出ました」

「本当か!ありがとう、アキト」

村長は井戸を覗き込んで、満足そうに頷いた。「これで、東側の畑にも水をやりやすくなる」

「よかったです」

そう言って、俺は汗を拭った。背後で、神官たちが何やら話し合っている。また何か誤解してるんだろう。もう気にしない。


その日の午後、村に新しい馬車が到着した。

いつもより小さい馬車で、白と金の装飾が施されている。教会のマークが描かれていた。また教会から誰か来たのか。もう勘弁してほしい。

馬車から降りてきたのは、若い女性だった。銀色の髪が肩まで伸びていて、青い瞳が印象的だ。白い修道服を着ていて、清楚な雰囲気がある。年齢は十八か十九くらいだろうか。真面目そうな顔つきだ。

「ルシウス様」と女性が神官たちに近づいた。

「セシル、よく来てくれた」とルシウスが言った。

セシル。この人が、追加で派遣された巫女か。村長から話は聞いていた。教会本部が、さらに詳しく調査するために派遣したらしい。

「報告書を読みました」とセシルは真剣な顔で言った。「信じられないことばかりでしたが、全て事実なのですね」

「ええ。この目で見たことです」

「では、本当にあの方は……」

セシルは周りを見回した。その視線が、俺に止まった。俺は井戸の近くで、タオルで汗を拭いていた。セシルは目を見開いて、固まった。

「あの方が……」

「そうです。アキト殿です」

セシルはゆっくりと俺の方に歩いてきた。近づいてくるにつれて、その表情が変わっていく。驚き、畏敬、そして確信。

「あなた様が……」

セシルは俺の前で立ち止まった。それから、ゆっくりと膝をついた。

「え、ちょっと……」

「あなた様こそ、神の化身……」

セシルは深々と頭を下げた。「お会いできて、光栄です」

「いや、あの……」

困った。また、こういう人が来た。俺は神の化身なんかじゃない。ただの人間だ。でも、それを言っても信じてもらえないんだろう。

「立ってください。膝をつかなくていいです」

「しかし……」

「お願いします」

セシルは顔を上げた。青い瞳が、じっと俺を見ている。真剣で、純粋な目だ。この人、本気で信じてるんだな。

「……分かりました」

セシルは立ち上がった。でも、まだ俺を見ている。その視線が、なんだか重い。


その日の夕方、セシルも観察に加わった。神官たちと一緒に、俺の後をついて回る。四人になって、さらに視線が増えた。気まずい。

「アキト様は、今から何をなさるのですか?」とセシルが聞いた。

「井戸の仕上げです。石で囲いを作ります」

「それも、神聖な……」

「ただの作業です」

俺は石を運び始めた。井戸の周りに、石を積んでいく。崩れないように、バランスを見ながら慎重に積む。単純だけど、集中力がいる作業だ。

「美しい……」とセシルが呟いた。

「何がですか?」

「その所作です。一つ一つの動きに、無駄がありません」

「慣れてるだけですよ」

「いいえ」とセシルは首を振った。「これは、長年の修行の賜物です」

「修行なんてしてないです」

「謙虚なお方……」

また、そのパターンか。俺はため息をついて、石を積み続けた。セシルは熱心に見ている。その視線が、背中に刺さる。

一時間ほどかけて、井戸の囲いが完成した。石が綺麗に積み上がって、しっかりしている。これなら崩れない。

「完成です」

「素晴らしい……」とセシルは感動した顔をした。「まるで芸術品のようです」

「ただの石積みですよ」

「いいえ、これは神聖な建造物です」

セシルは井戸に近づいて、石に手を触れた。それから、目を閉じて何かを感じ取ろうとしている。

「この石には、祝福が込められています」

「込めてないです」

「込められています」

もう何も言わない。何を言っても無駄だから。


夜、小屋に戻ろうとしたら、セシルがついてきた。

「あの、俺は一人で大丈夫ですけど……」

「お守りさせてください」

「守る?」

「はい。あなた様のような尊い方を、一人にはできません」

「いや、だから俺は……」

「お願いします」

セシルは真剣な顔をしている。断りにくい。というか、断っても無駄な気がする。

「……分かりました」

セシルは嬉しそうに微笑んだ。それから、俺の後をついて小屋まで来た。

小屋の前で、ユイが待っていた。いつものように、夕食の準備をしてくれるつもりだったのだろう。でも、セシルを見て少し驚いた顔をした。

「あの、この方は……」

「セシルさんです。教会から来ました」

「初めまして。セシルと申します」

「ユイです。よろしくお願いします」

二人は挨拶を交わした。ユイは少し戸惑っているように見える。セシルは、ユイをじっと見ている。

「あなたも、アキト様のお側にいる方ですか」

「え、あ、はい。料理を作ったりしてます」

「そうですか」とセシルは頷いた。「あなたも、選ばれた方なのでしょう」

「え?」

「アキト様のお側にいられるということは、それだけで祝福です」

ユイは困った顔をして、俺を見た。俺は首を横に振った。気にしないで、という意味だ。

「あの、夕食作りますね」とユイは話題を変えた。

「手伝います」とセシルが言った。

「え、いいですよ。お客様なのに」

「いいえ、手伝わせてください。アキト様のためです」

セシルは譲らない。ユイは俺を見た。俺は肩をすくめた。好きにさせるしかない。


三人で小屋に入って、料理を始めた。ユイが野菜を切り、セシルが火の番をしている。俺はテーブルを拭いたり、食器を並べたり、できることを手伝った。

「アキト様が、家事を……」とセシルが驚いた顔をした。

「これくらい、普通にやりますよ」

「なんと謙虚な……」

またそれか。俺はため息をついた。ユイが苦笑している。

料理が完成して、三人で席についた。今日のメニューは野菜のシチューとパンだ。いつものユイの味。美味い。

「美味しいですね」とセシルが言った。

「ありがとうございます」とユイが嬉しそうに答えた。

「この野菜も、アキト様が育てたものですか?」

「はい、そうです」

「なるほど……」とセシルは野菜を見つめた。「だから、こんなに美味しいのですね」

「普通の野菜ですよ」と俺は言った。

「いいえ、普通ではありません」とセシルは断言した。「この野菜には、祝福が宿っています」

ユイが困った顔をしている。俺も困っている。どう答えればいいんだろう。

「セシルさん」とユイが言った。

「はい」

「アキトさんは、本当に普通の人なんです」

「普通?」

「はい。優しくて、のんびりしてて、美味しいもの好きで」

ユイは俺を見て微笑んだ。「少し変わってるかもしれませんけど、普通の人です」

「……そうでしょうか」

セシルは納得していない顔をした。でも、少しだけ表情が柔らかくなった気がする。

「でも、あなたはアキト様を信頼しているのですね」

「はい。とても」

「そうですか」

セシルは少し考え込んだ。それから、また野菜を食べ始めた。


食事が終わって、ユイとセシルは帰っていった。やっと一人になれた。俺は小屋の中で、ベッドに倒れ込んだ。

「疲れた……」

今日も、色々あった。新しい井戸を掘って、セシルが来て、また観察されて。セシルは、神官たちよりも熱心だ。あの目は、本気で信じてる目だ。

「どうしよう……」

呟く。このままだと、セシルもずっと俺のことを誤解したままだろう。でも、どうすればいいのか分からない。何を言っても、信じてもらえない。

窓の外を見る。星が出ている。いつもの星空。変わらない、静かな夜。

「まあ、いいか」

そう言い聞かせた。今はもう、考えるのをやめよう。明日、また考えればいい。

目を閉じる。でも、なかなか寝付けなかった。セシルの青い瞳が、頭に浮かぶ。真剣で、純粋で、確信に満ちた目。あの目で見られると、なんだか落ち着かない。

「……はぁ」

ため息をついて、寝返りを打った。明日から、セシルも一緒に観察するんだろう。さらにめんどくさくなる。

でも、仕方ない。村のためだ。我慢するしかない。

やがて、眠りが訪れた。浅い眠りだったけど、それでも眠れただけマシだった。


その夜、村長の家では神官たちとセシルが話し合っていた。

「いかがでしたか、セシル」とルシウスが聞いた。

「……素晴らしい方です」とセシルは答えた。「報告書で読んだ以上に」

「でしょう」

「あの謙虚さ、あの所作。全てが神聖です」

セシルは手元の羊皮紙を見た。今日一日の観察記録だ。井戸を掘る姿、石を積む姿、家事を手伝う姿。全てが記録されている。

「間違いありません」とセシルは言った。「アキト様は、神の化身です」

「私もそう思います」

「本部に、詳しい報告をしなければ」

「ええ。明日、手紙を書きましょう」

セシルは窓の外を見た。星空が広がっている。その向こう、小屋の方を見つめる。

「アキト様……」

小さく呟いた。胸が、温かい。なぜだろう。神への信仰とは、違う感情のような気がする。

でも、セシルはその感情を理解できなかった。ただ、アキトのことを考えると、心が温かくなる。それだけは、確かだった。


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