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辺境ぐうたら日記 〜気づいたら村の守り神になってた〜 [日間99位!]  作者: 自ら(Youtubeで朗読ver投稿中‼️)
第2章【日常の安定と広がる噂】

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第10話「豊かな村の夕暮れ」

第10話「豊かな村の夕暮れ」

村に来て一ヶ月が経った。季節は初夏から真夏へと移り変わり、畑の野菜は次々と実をつけていた。

朝、畑に水をやっていると、村長がやってきた。いつもより上機嫌な顔をしている。

「アキト、いい知らせだ」

「何ですか?」

「今年の収穫量が、例年の三倍を超えそうだ」

「三倍……それはすごいですね」

「ああ。これも全部、お前のおかげだ」と村長は畑を見渡して言った。「それでな、村のみんなで収穫祭をやろうと思ってる」

「収穫祭?」

「ああ。豊作を祝って、みんなで食事をするんだ。もちろん、お前が主賓だ」

「いや、それは……」と言いかけたけど、村長は手を上げて制した。

「断るな。これは村の伝統だ。それに、みんなお前に感謝してる。顔くらい出してやってくれ」

村長の真剣な顔を見て、断れないと悟った。「……分かりました」

「よし!じゃあ、明日の夕方からだ。楽しみにしててくれ」

村長は満足そうに笑って去っていった。俺は畑に残って、ため息をついた。祭りか。賑やかになるんだろうな。


翌日の午後、村は準備で大忙しだった。広場に長いテーブルが並べられ、村人たちが料理を運んでいる。子どもたちは駆け回り、大人たちは笑いながら飾り付けをしている。活気に満ちていた。

「アキトさん!」

ユイが手を振りながら走ってきた。エプロンをつけて、少し汗をかいている。

「手伝ってもらっていいですか?料理が追いつかなくて」

「もちろん」

ユイに連れられて、仮設の調理場に向かった。大きな鍋が三つ、火にかけられている。いい匂いが漂ってきた。野菜のスープ、肉の煮込み、焼き野菜。どれも美味そうだ。

「この鍋、見ててもらえますか?焦げないようにかき混ぜてください」

「分かった」

木べらを受け取って、鍋をかき混ぜる。グツグツと煮える音。湯気が顔にかかって、温かい。ユイは隣で別の鍋を見ながら、味見をしている。真剣な顔だ。

「ユイさん、すごいな。こんなにたくさん作って」

「村のみんなが楽しみにしてますから」とユイは笑った。「それに、アキトさんのためのお祝いでもありますし」

「俺のため?」

「はい。アキトさんのおかげで、村が豊かになったんですから」

「いや、俺は……」

「分かってます」とユイは優しく言った。「アキトさんは何もしてないって言いますよね。でも、結果は出てる。それだけで十分です」

ユイは鍋に香草を加えた。さっと香りが広がる。「それに、私は思うんです。アキトさんがここにいてくれる。それだけで、みんな幸せなんだって」

「……そうかな」

「そうですよ」とユイは笑顔で頷いた。「私も、アキトさんがいてくれて嬉しいです」

ユイのその言葉に、胸が温かくなった。何て返せばいいか分からなくて、ただ鍋をかき混ぜ続けた。


夕方になって、祭りが始まった。広場には村人全員が集まっている。長いテーブルには料理が所狭しと並べられていた。パン、スープ、肉料理、野菜料理、サラダ、デザート。どれも村で採れた食材で作られている。

「さあ、始めよう!」と村長が声を上げた。「今年は豊作だった。これも全て、我々の努力と、そして……」

村長は俺を見た。「アキトのおかげだ!」

「アキト様、ありがとうございます!」

村人たちが一斉に頭を下げた。子どもたちも、大人の真似をして頭を下げている。

「いや、あの……」と言いかけたけど、村長は続けた。

「では、乾杯!」

「乾杯!」

みんなが杯を掲げる。俺も仕方なく杯を掲げた。それから、宴が始まった。


テーブルの周りに座って、みんなで料理を食べる。どれも美味い。ユイが作ったスープは野菜の甘みが染み出ていて、肉の煮込みは柔らかくてほろほろと崩れる。焼き野菜は香ばしくて、パンは温かい。

「美味いな」とぼんやり呟くと、隣に座っていたユイが嬉しそうに笑った。

「よかった。頑張って作った甲斐がありました」

「ユイさんの料理、いつも美味いよ」

「ありがとうございます」

村人たちも楽しそうに食べて、飲んで、笑っている。子どもたちは広場を駆け回り、大人たちは昔話に花を咲かせている。賑やかだけど、嫌な感じはしない。みんなが幸せそうだから。

「アキト様!」

若い男が近づいてきた。顔が赤い。少し酔ってるみたいだ。

「本当にありがとうございます!俺の畑も、今年は豊作で!」

「いや、それは……」

「謙遜なさらずとも!」と別の男も加わった。「あなた様のおかげです!」

「本当に、村が変わりました」と老婆が言った。「孫たちも、毎日お腹いっぱい食べられるようになって」

次々と感謝の言葉が飛んでくる。俺は何て答えればいいか分からなくて、ただ頷くしかなかった。めんどくさいけど、みんなの笑顔を見ると、悪い気はしない。


宴が盛り上がってきた頃、ユイが俺の袖を引いた。

「アキトさん、少し席を外しませんか?」

「え?」

「ちょっと、静かな場所に行きましょう」

ユイに連れられて、広場を離れた。村の外れ、畑の向こうに小高い丘がある。そこに登ると、村全体が見渡せた。

広場では祭りが続いている。笑い声、歌声、子どもたちの声。灯りが揺れて、温かい光を放っている。その向こうには畑が広がり、さらに向こうには森が見える。空は夕焼けで、オレンジからピンク、紫へとグラデーションになっている。

「綺麗ですね」とユイが言った。

「そうだね」

二人で並んで、村を見下ろした。風が吹いて、髪が揺れる。心地いい風だ。

「アキトさん」

「ん?」

「私、思うんです」とユイは村を見ながら言った。「この景色が、ずっと続けばいいなって」

「……うん」

「豊かな畑。笑顔の村人。温かい食卓」

ユイは俺を見た。「そして、アキトさんがいる日常」

「俺がいる?」

「はい」とユイは頷いた。「アキトさんがいないと、この景色はなかったんです」

「それは……」

「分かってます。アキトさんは何もしてないって言いますよね」

ユイは微笑んだ。「でも、アキトさんがここにいてくれる。それだけで、村が変わったんです」

「……」

「だから、ずっとここにいてください」とユイは真剣な顔で言った。「この村で、私たちと一緒に」

「俺は……」と言いかけて、言葉に詰まった。何て答えればいいんだろう。この村は居心地がいい。ユイもいる。村人も悪い人たちじゃない。でも、ずっとここにいるのか?そんなこと、考えたこともなかった。

「無理に答えなくてもいいです」とユイは優しく言った。「ただ、私の気持ちを伝えたかっただけですから」

「……ありがとう」

それしか言えなかった。でも、ユイは笑顔で頷いてくれた。


しばらくそこにいて、それから広場に戻った。宴はまだ続いている。村長が歌っていて、みんなが手拍子している。賑やかだ。

「アキト、どこ行ってたんだ?」と村長が言った。

「ちょっと丘の上に」

「そうか。まあ、ゆっくりしてけ。今日は楽しんでくれ」

「はい」

席に戻ると、ユイがお茶を淹れてくれた。温かくて、優しい味がする。

「アキトさん」

「ん?」

「今日、楽しいですか?」

「……うん。楽しいよ」

本当だ。最初は面倒だと思ったけど、みんなの笑顔を見てると、来てよかったと思える。ユイと丘に登って、村を見下ろしたのも良かった。

「よかった」とユイは嬉しそうに笑った。「アキトさんが楽しんでくれてるなら、私も嬉しいです」

「ユイさんも楽しい?」

「はい。すごく」

ユイは村を見渡した。「こんなに賑やかで、温かい村。前は想像もできませんでした」

「……そっか」

「でも、今は違います」とユイは俺を見た。「アキトさんのおかげで、村が変わりました。みんなが笑顔になりました」

「俺は……」

「何もしてない、って言いますよね」とユイは笑った。「でも、いいんです。アキトさんがそう思ってるなら、それでいい」

ユイは空を見上げた。星が出始めている。「ただ、ここにいてくれるだけで。それだけで、私たちは幸せです」


宴は夜遅くまで続いた。子どもたちは眠ってしまい、大人たちもだんだんと静かになっていく。それでも、温かい雰囲気は変わらなかった。

「そろそろ、お開きにするか」と村長が言った。「みんな、今日はありがとう。そして、アキト。本当にありがとう」

「いえ……」

「お前がここに来てくれて、村は救われた。これからも、よろしく頼む」

村長は深々と頭を下げた。他の村人たちも、それに続いて頭を下げる。俺は何も言えなくて、ただ頷くしかなかった。


祭りが終わって、小屋に戻った。一人になって、ベッドに座る。窓の外には星空が広がっている。

「この日常が、ずっと続けばいい」

ユイの言葉を思い出す。この村で、この日常が続く。悪くない。むしろ、いいかもしれない。

美味いもん食って、気持ちよく寝て、ユイと笑い合う。それだけで十分だ。他に何がいる?

「……ここにいるか」

呟く。この村で、この人たちと一緒に。そう決めた。

目を閉じる。心が穏やかだ。温かい。今日一日の余韻が、まだ残っている。

「明日も、いい日になるといいな」

そう思いながら、眠りについた。


その頃、王都では――。

商人グラドは、王都の市場で野菜を売っていた。リーヴ村から持ってきた野菜は、あっという間に売り切れた。貴族たちが争うように買っていったのだ。

「素晴らしい野菜だ!」

「こんなに美味しいのは初めてだ!」

「また仕入れてくれ!」

グラドは満足そうに笑った。そして、市場の片隅で、貴族たちに話をした。

「この野菜は、辺境の小さな村で採れたものです」

「辺境?」

「はい。リーヴ村と言います。そこに、不思議な方がおられるのです」

「不思議な方?」

「ええ」とグラドは声を潜めた。「謙虚で、力があり、それでいて自分の功績だと思っていない。無自覚の聖人、とでも言うべき方が」

貴族たちは興味深そうに聞き入った。

「その方のおかげで、村は豊かになった。野菜は一晩で育ち、温泉が湧き、花が咲き乱れる」

「それは……奇跡ではないか」

「ええ。まさに奇跡です」

グラドは笑った。「近いうちに、その噂は王都中に広がるでしょう。そして、多くの人が、その方に会いに行くはずです」

噂は、確実に広がっていた。アキトの知らないところで。静かに、そして確実に。

やがて、その波は王都全体を包み込み、さらに遠くへと広がっていく。

次の章が、始まろうとしていた。


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