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三題噺もどき4

途切れる

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくさんじゅうろく。

 



 ボタ―と水の落ちる音が聞こえてきた。

 それは何度も続いたと思えば静かになったり、そう思えば一度だけ聞こえたり。

 どこかに溜まった水が限界を超えては落ち、不規則に大きな音を立てているのだろう。

 外は夕方辺りから雨が降り続いている。この調子では朝方まで降っていそうだ……今日の散歩はなしか。

「……」

 すこし残念に思いながら、パソコンのマウスを操作し、時折キーボードキーを叩く。

 今日の業務に一端の目途が立ってきたので、集中が若干切れつつある。

 まだやることはあるが、ここまででいったん区切りをつけるなら、ここまでだ。

 そうと決めると、つい数秒前までの集中が嘘のように無くなるのは不思議なものだ。

「……」

 何度も窓を叩く雨音に混じって、水の落ちる音が聞こえる。

 風はさほど強くないのか、その音までは聞こえない。

 そう言えば、どこかに台風が来ているらしいが……。この辺りではなかったかな。あまりしっかりニュースと天気予報を見ていなかった。

「……ふぅ」

 近づきすぎていた体を机から離し、椅子に背を預ける。

 手はマウスに置いたままなので、少し変な姿勢になった。

 もう少し椅子を引けばずり落ちてしまいそうな格好だ。楽な姿勢ではないが、座りなおすのも今は少し面倒だ。

「……」

 使いすぎのせいか、少々薄くなった蝶々の描かれたマウスパッドから、マウスが落ちる。

 ちょっとした段差だが、これはこれで鬱陶しいと思うのだけど。……マウスパッドに置きなおすのも面倒なので、そのまま作業を続ける。

「……」

 小さくマウスを動かしながら、果たしてやる意味があるのかどうかという作業をしている。

 ちょっとした確認作業だが、こうも集中が切れている状態でしたところでな……。

 とは言え、ここまでは区切りよく終わらせておきたいのだ。中途半端に終わらせるのはあまり好きではない。

「……」

 手はなんとなくで動かしながら、視線は他の方へと向く。

 机から遠ざかったせいで見えた床の上に置きっぱなしの帽子。

 先日被ったのをそのまま置いていたのを忘れていた。どうせすぐ使うだろうと思って出しっぱなしにしていたのだった。

 片づけてくださいと何度か言われたが、その度に適当に返事をしていた。

 多分そのうち勝手に片づけられる。

「……」

 その少しずれたところに、カバンなどを掛けているラックがあるのだが。帽子もすぐそこにかけて置けばいいのだけど、それがまぁ何とも面倒になる。

 そこには派手なトランプ柄のエコバックが畳まれて置かれている。何かで貰ったのをアイツにあげたのだが、案外使っていてくれているようで何よりだ。まぁ、大方他に買う必要もないから使っているのだろうけど。

「……」

 しかし案外気にいってるのかもしれない。どんなものでも気に入らなければ使わないからな、アイツは。それに見かけによらず可愛いものやああいう物は好きなのかもしれない。エプロンとかがいい例だ。可愛いのをしている時もあるからな。

 まぁ、そんなことを言ったら何をされるかわかったものではないので、口が裂けても言わないが。

「……」

 視線はさらに、壁に掛けられている時計に向く。

 もうそろそろ休憩の時間だ。体が当たり前に慣れ切っているせいか、大抵集中が切れるのはこのタイミングである。習慣というのは恐ろしいな。

「……っし」

 それならば、最後くらいはしっかりとやらなくては。

 そう思い、椅子にしっかりと座りなおす。預けていた背をすこし伸ばし、体を机と真っすぐに向かわせる。これが終われば、休憩時間だ。

 今日も何を作っているのかは知らないが、何にしてもおいしいに決まっている。

「……」

 ほんの少しだけ取り戻した集中力で、最後の仕上げをしていく。

 残念ながら休憩しましょう、とアイツがに呼びに来るまでには終わらなかったが、まぁ、それはそれ。休憩の方が優先なので、そそくさと閉じて休憩に行った。

 なにせキッチンの方からチーズケーキのような匂いがしたもので。

 好物には勝てるまい。





「ご主人……帽子……」

「あぁ、後で掛ける」

「……何回も聞きました」

「使うから置いておいてくれ」

「今日は雨ですよ」













 お題:トランプ・帽子・蝶々


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