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セラフィナの宿舎に俺たちは厄介になることとなる。
さっきの襲撃はセラフィナにとってどれだけの衝撃だったのかはわからない。
俺とノノはまともな食事をありがたくいただいている。カツ丼ではなかった。
シャツとズボンも用意してもらった。宿舎を出て行った団員のモノらしい。
ようやくパンイチから装備が変更できる。
誤解するなパンイチが趣味なわけじゃない。
「それで、あれはなんなの?」
服を着て安心していると、セラフィナが質問し出す。
「なんだと聞かれてもわからないが、俺の敵らしいな」
「ただの敵があんなふうに出たり消えたりするの?」
「さて俺もわからない」
話にならないとばかりに頭を抱えるセラフィナ。
みたところ常識人のようだし、当たり前の反応だろう。
ノノと俺がちょっと変なのだ。
「ノノは不思議がらないのか?」
「ノノはねソウヤを助けられたのが嬉しいよ」
「それにあれが2度目なんだ」
スルーできないことを言ったな。
「ノノの村は、さっきみたいな“人の形”じゃなくて――黒い球体に襲われたの」
ノノは静かに続ける。
「ノノ以外は、みんな飲み込まれちゃったの」
……逃げて、逃げて、そして――ここに辿り着いたのだという。
思わず言葉を失う。
(あの“コード”は……“選ばれた後”のものだったのか)
そこまで考えて、ふと――違和感が、視界の端からじわりとにじむ。
セラフィナの胸元に――コードが、見える。
谷間にかすかに隠れているせいで、完全には読み取れないが……昨日、ノノに浮かんでいたコードと、似ている。
セラフィナの胸を凝視する。
――大きくはないが、形はいい。肌もきれいだ。
……いや、違う。そうじゃない。
コードが、よく見えない。
胸元に浮かぶ光――ノノの時と同じ、あの“コード”が。
「……君が変態なのはわかるが、何を人の胸を凝視している」
セラフィナがジト目で睨んでくる。
「違うんだ。コードが見えたんだよ」
「コード?」
「うん。正体はわからんが、たぶんこの世界の“決まりごと”みたいなもんが、俺には読める。あんたにも、それが浮かんでる」
「……それで? 私が何かされたかもしれないって話か?」
「可能性はあるな」
「ますます話が意味不明になってきたぞ……」
「ふー。じゃあちょっと質問変える」
俺は少し考えてから、言葉を選ぶ。
「自警団で捕まった奴って、普通はどうなる?」
「大体は数日で釈放される。そもそも大きな事件はそう起きないからな」
「……で、それ以外は?」
「うーん、滅多にないが、教会に預けることが多い。」
「その“預けられた”例ってあるか?」
セラフィナが少し黙る。視線が宙を彷徨い、記憶を手繰るように。
「……ああ。ちょっと前に、一人だけいた」
「そいつは、帰ってきたか?」
「……そこまでは、知らない」
俺は静かに息を吐いた。
「俺の考えが正しければ――このままなら、お前は“教会に連れて行かれる”」
セラフィナの眉がわずかに動いた。警戒、というより、理解の兆し。だが同時に、じわりと不安がにじみ始める。
「……何の根拠で、そんなことを?」
「さっきのコードだよ。ノノと同じように、お前にも“選ばれた証”が出てる。それが見えるってことは……さっきのやつらに、マークされたってことかもしれない」