8.天使
ヴィーン。
コンセントを抜く。
乾いたかな。寝て起こすのはちょっと可哀想だから、左側の毛湿ってるんだけど、あらかたはかわいたんじゃ・・・
わっっふ。この子洗ったらもっと可愛いんじゃないかしら。
原石だ!原石みを感じるぞ〜!
「う〜ん。ごめんね。この家こんなかんじでボロいんだけど、でもね、お姉ちゃん、ワンちゃんのことすっごく大好きだからね、えっといちおーペット可物件選んだんだよ〜。その代わり、辺鄙駅なんだけどね」
そうなのだ。ゆくゆくは、犬を飼うことが夢だったのだ。動物愛護施設の子達を引き取って愛情を捧げるのが、この私の働く生き甲斐なのだ。でもこの重い腰が、このダラダラ現状を継続させているんだが。
「この独身貴族、最愛のパートナーは君に決めた!!」
ポケ⚫︎ンかよーーーーー!
しかし、この子、飼い犬なのかどうか、飼い主はどこなんだろ。一応調べておくか。
「えーっと、何々、『動物は所有者の権利に基づくーーーーーーーー、警察に届けるか、動物愛護センターに確認し、受け取り手がいなかった場合のみーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』って、何それ1週間のうちに処分が決まるってのーーー!?」
そんなの、私が届け出たとしても、この子の命は短時間で決められちゃうじゃない。
どうする?
とりあえず、元気になるまで、保護して、連絡し、飼い主が見つからなかったら私が責任持って引き取りますって言うしかないか。
うん、そうしよう。もう警察にお世話になりたくないから、ほんとは黙ってこの子を育てたいんだけどなー。でも法律こわいし。
この子可愛いから、野犬ってことはないよなー。
「君、どこからきたの」
首傾げたあ!!かわいい!
「ご飯食べる?今日、白いごはんしかなくて....今準備するねっ」
立ち上がって、手を洗い、炊飯ジャーに仁王立ちで、そこら辺の食器からお茶碗を取り出し、さっと残っているご飯をよそった。
わんちゃんのそばに近づいて、
ふうふう
はい、あーん
わたしは、洗いたてほやほやの手で、ごはん粒をワンちゃんの口元によせた。
ぱくっ
ぺろり
「おいし?」
ん〜かわいい。もっとちゃんとしたモノ食べさせてあげないと。
「ドックフード買うね」
外はまだザーザーいってる。
今日はだめだな。
ぐう〜。今度は私のお腹がなっちゃった。
「お姉ちゃんも、君といっしょに食べるね」
ふふっ。自然と笑みが溢れた。なんて素晴らしい生き物なんだろう。一緒に居るだけで、疲れが吹っ飛ぶ。
わんちゃんってすごい。もういっそ、犬こそが世界を治めてほしい、そのあいくるしい眼差しで。
ああ、はやく元気になったら、おておすわり、もってこい、わしゃわしゃ、もふもふを堪能したい、そして見つめ合いたい//////
はっ!ぐぎぎぎぎ
首を逸らし、この子から目を背け、自制した。私の顔はきっとデレデレだったに違いない。
その当事者のご尊顔は純粋だ。この子はまだ病み上がりだから。丁重に扱わないと、天罰がくだる!!
そして、自分も炊飯器からご飯をよそい、さらさらとのりと卵をふりかけて、ワンちゃんのそばへと返り咲いた。いそいそと。
おいしー。こんなお粗末なのがいつもの数十倍美味しく感じる。これが天使の効果か!!恐るべし。
毎日これから一緒にいられたらいいな。でも、本当の飼い主さんがもし居たら、お別れしなきゃいけないんだな........。
なんか初日でもう辛くなってきた。大丈夫か私。そんなに愛に飢えていたのか、この現代人ーーーー!
いや、えっとそりゃ彼氏イなんて、いませんけども!!!いやモテないからといってそんなねえ、元から私、迫る孤独死をどう回避しようかと、老人ホームの想像までして、お金を貯めるために働いていこうという重荷を背負って生きてきたんだからーーー!
でも、もし、この子がいたら、高級ドックフードを買う為に、おねーちゃん、頑張っちゃうな......///