03 変人生徒が居るのも青春 その1
ゆっくり書いていきたい。青春がすぐ終わったら面白くないからね(特大言い訳
入学式用に飾り付けられた広いホール……いや広すぎでしょ。には既に結構な人数が忙しなく動いていた。先生や先輩、警備のひとやらなにやらなにまで忙しそうにしている中で、私たちはポケーっと突っ立って見ているだけだ。
「っつーわけで絶賛準備中なわけだが、お前らより先に来てたやつが居るんだよ。」
「おやイザナ先生!彼女たちが首席と筆記次席合格者の方ですか!!」
「お前も実技次席の合格者だろ。新入生。」
「はい!その通りてす!俺は実技試験の次席合格者です!!そこのお嬢さんに敗けた男です!!」
暑苦しそうな男の子に指を指されちゃった。
そういえば試験会場に居たような気がするね。ちょっとやかまし……うるさ………暑苦しい子だなー、とは思ってたけど!
「……私は見向きもされてない、ですか?」
「いやいや…ほら、リッカちゃんはインテリ枠だから仕方ないよ。全身から知識なオーラが溢れ出してるから!」
「その通り!俺は筆記ダメダメだったからな!」
それもそれで問題だけどね。勉強はちゃんとしないとダメでしょ。身体ばっか鍛えててもダメなんだからね。私みたいにオールラウンダーにならないと!
「まぁマジな事言うとそいつの筆記はガチで下から数えた方がマシなくらいだからな。」
「ははは!その通り!本当に危うかったからな!俺の名前はグレン・ワズリスだ。二人共よろしく頼む!」
「…良ければ勉強教えようか?ルカ・チカトリーチェだよ。よろしく。」「わ、たしは…リッカ・タチバナです。」
いやはやなんとも元気そうな子だ。
戦闘スタイルはパッと見では判らないけど、結構鍛えてるし、手のひらに剣ダコが見えるから多分だけど剣士なのかな?私もある程度は剣が使えるけど、接近戦はあんまり好きじゃ無いからねー。相性勝ちされるかもね。
「…ところでだが、ルカ嬢!チカトリーチェ家というと…ガルシア帝国出身…というよりも、【朱剣公爵】の血筋ではないか?」
一応の確認を、というような感じでグレンくんがそう聞いてくる。まぁ、隠すことでも無いけど私は一応貴族子女。しかも王家の血筋入りの公爵家なんだよね。ちなみに【朱剣公爵】っていうのは私のお父さんの称号ね。
「んー、ま、そうだけど?気にしないでよ、うちの家族もあんまり貴族どうこうで騒ぐタイプじゃ無いからさ。そっちだってワズリス家…確かだけどレヴィエス王国の伯爵階級だったかな?」
グレンくんは特に何も言わず、自らの家を誇るようにゆっくりと頷いた。
「え…、ぁ…、」
かくしてここに国は違えど高位貴族の血筋が2人揃ったわけだ。これが何を意味しているか、それはこの学園の試験がそれだけ難易度の高い物だということ。
もちろん、受かるだけなら門戸は広い、それでも普通の物よりは数十倍は狭いけど…で、何が言いたいかって言うと、幼少期からしっかりとした環境で教育されてきた私たちと違って、リッカちゃんは平民階級でありながら次席合格を果たしてるんだよ!普通に凄すぎ!多分この学園の歴史でも五本の指に入るくらいの凄いことなんじゃ無いかな!……あれ?私が居なかったら首席合格出来てた?
「まぁまぁリッカちゃんも気にしないでよ、ぶっちゃけ今の時代で貴族がふんぞり返れるわけ無いじゃん。逆らうやつは貴族特権で皆処刑!とかどれだけ大昔の話よ。」
「その通り、今は怠慢な貴族が処刑される時代であろう!」
「ヒィ!」
「おーい、お前ら貴族トークはその辺にしとけ。軽く首が飛ぶ話で笑えねえってよ。」
イザナ先生に言われてはたと気付く。確かにそれはそうだ。とリッカちゃんの顔を見てみると…あー、やばい、真っ青な顔で苦笑いしてる。
「まぁ顔合わせは済んだろ、そろそろ説明入んぞ。」
「はいはい。どうぞ!」
イザナ先生は面倒くさそうにはぁ…とため息を吐き、これまた面倒くさそうに説明を始めた。
「本来なら実技、筆記首席合格者である二名が、新入生代表者として祝辞を述べるっつーのがこの学校の伝統なワケだが…そこのヤツが両方で首席になっちまったせいでこうして次席も呼んだワケだ。」
いやー、それほどでも。
「で、お前らちゃんと考えては来たよな?」
「もちろんです!」「はい…一応ですけど…。」「………、」
さて、一人だけ返事が無かったひとが居たのに気付いたかな?そう、私だよ。
私以外は二人とも台本っぽい紙を懐から取り出している…わー、台本まで作ってるのすごーい。
「……お前まさかだが?」
思わずイザナ先生から目を逸らす。
いや、そんなガチのやつだったの?だって挨拶程度だと思ってたよ。適当に『よろしく!』みたいに言っておけばいいかなーって。
「…ま、どうにかするよ。大丈夫だから。」
「え…本当に大丈夫ですか?」
まぁサクッと考えるとしようか。
首席だし、さすがに変な挨拶は無理だよねー。どーしよ。
「ま、まだ時間は……いや、わりとねーな。一回通しでやるからそれから考えてくれや。」
ひとまず私たちは席に着き、呼ばれたら前に出て、スピーチをするって感じだね。もちろん途中で来賓のなんちゃらやらがあるけども、そのあたりはすっ飛ばして、ぶっ通しでとりあえずーって感じでやっていくと、
「やぁやぁお疲れ様。やってるねー、イザナ先生。」
やって来たのは……え?ロリ?
パット見幼女にしか見えない女の子だけど、特に目を引くのは頭の左右から生えている大きな角と、おしりの辺りから出ている尻尾と背中に生えた2対の膜のある翼。いや、それ以上に超かわいいツインテールも目を引くなー。
種族は竜人で確定なんだけど……誰?
「校長じゃん、おつー。あれ?まだ時間じゃ無いんじゃ?」
「そうそう、ちょっと様子見に来たんだよ。やぁやぁ皆お疲れ様また会ったね、校長のロンロンだよ。」
あ、校長か。そう言えば入試で会ってたね。
にしてもちっこい。やっぱり種族差かなー。竜人って確か千年以上生きるんだっけ?それで校長は確か130歳。…竜人換算でも幼女じゃない?
と、そんな幼女ロンロンが私の方にスタスタ歩いてきた…なんだろ。
「まさか…キミが首席で合格するとはね。」
「?まー、頑張りましたからね。勉強もしっかりやって!小さい頃から身体も鍛えてたし!…もちろん加護にも恵まれたけどー。」
「白金の髪…、空色の瞳…、顔立ちも、キミのお母さんそっくりだよ。」
お母さん…か。
まぁ、確かに私はお母さんそっくりだけど…、ロンロン校長はお母さんと面識があるのかな?お母さんこの学校卒業した憶え無いけどなー。竜人の友達が居たってお話も聞いたこと無いけどなー?
「私はね、キミのお母さんとの面識…というよりもキミのおじいちゃんだね。ガルシア帝国の現皇帝とちょっと面識があってね。キミのお母さんがこんなちっちゃーい頃から知ってるんだよ。」
人差し指と親指をくっつけて丸を作ったロンロン校長……いや、そんなにちっちゃいとなるともう胎児じゃん。さすがにそれは嘘でしょー。…嘘だよね?
「ふーん、じゃあロンロン校長って…実は結構偉い人だったとかー?」
「まーね。」
答えは濁してるけどー、多分相当凄い人だったんだろうね。魔族の大戦争時代に活躍したとかー?偽名って可能性すらあるけどね。だってロンロンなんて聞いたこと無いし。
「キミは首席合格者だし、入学式の挨拶は期待しておくよ。」
「いやー、それは……」
まぁ、そんなこんなで、少しずつ会場へと生徒が入ってくる…。そうして、始まっちゃったよ入学式が。
このセキリュウ学園は…というより、アーレンツィ学園都市という物の方針として、様々な種族を受け入れるという物がある。故にこそ当然のように、入学式にも色んな種族の人が来てるわけだ。
先に先輩達が来てるけど、リッカちゃんが物珍しいのか凄いキョロキョロしてる。んー、ちょっと失礼だけど…ま、新入生だし大目に見てくれるでしょ。
「わぁ…き、巨人族の人も居ますね。」
「だねー、ほんとに他種族共生が進んでるの凄いよねこの学校」
広いだけじゃ無くて天井も高いのは、あーゆー感じで背の高い種族の人も入れるようにっていう配慮だね。だから椅子のうちの何個かはすんごく大きかったり、小さかったりする。なんなら椅子に座れない種族も居るし、ほら、あの人とかはそうだね、額から生えた長く伸びた1本の角と、下腹部から下の、真っ白な毛並みの馬体。一角虹馬人族だねあれ。下半身が四足獣のタイプの種族はむしろ椅子に座る方が大変らしいし。蛇とか多足虫タイプの種族とかどうしてるんだろうね?
「キミたちは新入生の代表者たちかな?」
「?はい、そうですけど。」
話しかけてきたのは、私よりかなり高い背丈の狼身族の先輩。んー、2.5mくらいはあるかな?ガッシリした体躯に、硬そうな毛並み、鋭い眼光……カッコいい!!私のお父さんと同じくらいにはカッコいいです先輩!
「俺は2年のヴォルフ・ライアだ。去年は俺が実技の首席合格者だったからな、緊張してないか、と思って少し様子を見に来たんだ。」
「わー、ありがとうございます!私はルカ・チカトリーチェです。」「り、リッカ・タチバナ……です。」
「リッカさんはまだしも、ルカさんは大丈夫そうだね。まぁ、始まってしまえばどうとでもなるよ。」
牙を剥き出しにした凶悪な顔にも見えるけど、大丈夫、私にはそれが微笑んでるんだって判るから!
「おいおいヴォル、わたしを置いて先に向かうなんて良い度胸じゃあ無いかい」
「?」
声はすれど、姿は見えない、可愛らしい女の子の声が聞こえるんだけどー、何処?
「あぁ、ユッケか……それで、姿が見えないがどこに居るんだ?」
牙を晒しながらキョロキョロするヴォルフ先輩を見ると、なんというか決まった一連の流れをやってるような…台本があるような滑らかさを感じるよね。
「クックック……貴様もまだまだよのぉ…この私を見失うとは!さぁ…下を向くのだ!」
言葉に従い、下を向いてみる。そこで私が目にした物は…
「か、かわいい!」
思わずといった様子でリッカちゃんがそんな声を上げた存在、それは真っ白な毛並みを持った小さくてモフモフひつじのぬいぐるみ!では無くて…羊人族だよね?
「さて、始めまして新入生ちゃんたち〜。私は2年生のユッケ・ペコラ。見ての通り〜、超絶キュートなひつじちゃん!そこのヴォルくんとは幼馴染なんだよ〜。」
「まぁそういう事だ、ユッケはこれをやらないと気が済まん質でな。また、こういう事があれば乗ってやってくれ。」
「ちょっとヴォルくん!その言い方何かな〜?」
そうやってわいわい騒ぐ先輩たちを見て、リッカちゃんが思わずといった様子で笑う。どうやら新入生の緊張を解くために一芝居打ってくれたらしい。いやー、優しい先輩たちだね。
と、そんな中に優しい先輩がもう一人…
「あら二人とも、新入生をいじめてはダメよ?」
いちゃつくヴォルフ先輩とユッケ先輩2人の間に割って入るように現れたのは…あ、さっきの一角虹馬人族の先輩!
「お、生徒会長?」「あ〜ユニちゃん会長〜。」
おや、予想以上に大物だったみたい。生徒会長といえば学校を支配する最高指導者であり、学園内であれば圧倒的権力を有するアレだよね!
「ええ、おはよう二人とも。新入生ちゃんたちもおはよう。そしてはじめまして。」
「はじめまして!生徒会長さん、私はルカ・チカトリーチェです!」「あ、……リッカ・タチバナ…、です。」
「じゃあ、私も名乗らせて貰うわね。」
生徒会長さんは蹄のある脚を曲げ、優雅な一礼とともにその美しい七色の角を輝かせ……
「アーレンツィ学園都市の"東門"たるセキリュウ学園4年生、ユニ・アルカナム……恐れながら生徒会長の座に就かせて頂いているわ。改めてよろしくね。ルカさん、リッカさん。」
わー、気品が凄い。私もあーなりたいなー。今さら無理かな?一応私貴族令嬢だけど無理かな?無理かー、そっかー。
「確か…今年はルカさんが首席合格者なのよね?…私も筆記は首席だったから…挨拶の時は少し緊張したけれど…私も生徒会長として少し話す事があるから…一緒に頑張りましょうね?」
「…はい、もちろんですよユニ先輩!期待しておいてください!」
にこやかに別れた私と先輩と、そんな姿をとんでもない眼差しで見てるリッカちゃん。
「あはは〜、まぁ、なんとかなるって!」
「そ、その言葉全然信用ならないです…」
次回に続く。