02 変人先生が居るのも青春
「ん〜、もうお腹いっぱいかも。」
「ま、待って下さい…、私ももう食べれません、」
「え〜、リッカちゃんが頼んだんでしょ?」
リッカちゃんが頼んだ全部乗せトッピングも結構減ってきたけどもう食べれないからって私とわけわけしてもまだ減らない。普通にもうキツい。
「もう着いちゃうよ?どうする?」
「うぅ、…頑張り、ます……ので、ルカさんも…お願いします。」
「はいはい。」
甘さに口を支配されながらも、背が低くめのリッカちゃんに寄りかかり、リッカちゃんがスプーンで運んできたソレをパクパクと食べる。リッカちゃんがスプーンで口に運んできて、それを飲み込む作業…、
なんてことをしていると……
「ん、お前らが首席と次席の合格者か?」
声をかけられてそっちを向いたら…あ、もう校門の前だった。さて、そこに居たのは…正確には寝ていたのは…気怠そうなお姉さん。
地べたなのも気にせず胡座をかき、パジャマのような緩いTシャツの中に腕を突っ込んでボリボリと胸をかきながら欠伸をしているし、当然通行人の人たちは遠目からヒソヒソと話している。間違いなくアレは引いている。
「そう…ですが、あの……えっと…、」
「わたしは、セキリュウ学園の歴史学の教師の…イザナだ。よっぽど迷うことなんて無いとは思ったが、一応ここで待ってた…、」
うつらうつらしながらも応えてくれた辺り、変人ではあるけどまともな人らしい。にしても…大丈夫かな?この人結構美人なんだけど…、行動が全部を台無しにしてる気がするし…、緩いTシャツから下着がッ見えてるから!
とりあえず…
「わ〜わざわざありがとうございます、イザナ先生!じゃあこのまま私たちを案内してくれるんですか〜?」
「……、はぁ、仕方ない…、か。おら行くぞ新入生ども…」
「へ…、え、ぁ…待っ…」
リッカちゃんがパフェもどきを持ってまごまごしてる。多分だけど学園内で食べ歩きなんて、許されるのか…というちょいワルムーブで葛藤してるんじゃないかな。
そうこうしてる内にイザナ先生は気怠そうに立ち上がり、気怠そうに伸びをして…
─グキ
「ぅ…、」
凄く嫌な音と共にイザナ先生が膝を着いた。
何処から音が鳴ったかなど、一目で判る。目からちょっと涙を流しながら…
「すまん…、無理になった。誰か呼んできてくれ……、」
「先生………、」
入学早々になんとも言えない事件が起きてしまった…。
「なにやってんですかイザナ先生。」
私が連れてきたのは校門を潜ってすぐのトコに居た人。
なんというかビシッとしてる。スーツもビシッと着てて、髪型もビシッと決まってる格好いい女性ってイメージ。ひと目見て思ったのはこの人だ!この人ならあのダメ先─えーと……、変人先生を任せられる!と思って連れてきた。
「メグちゃん先生…、はぁ……、タスケテ。」
メグちゃん先生と呼ばれたビシッと先生はやれやれって感じでイザナ先生の腰に触れる。あれ?傷口にわさび塗るくらいのとてつもない暴力の現場を今目撃してる?
と思ったけどそうじゃ無いらしい…
ふわっ…みたいな擬音が相応しい感じでイザナ先生の腰が光る…、明らかに人工的では無いどちらかといえば神秘的な輝き。
「これでどうですか?もう何回目か判んないんで…普通に病院行って下さい。」
「サンキューメグちゃん先生……これなら、…ちょっとは動けそう。保健室で寝てくる、」
「このあと入学式ですけど?」
メグちゃん先生の指摘に対して、腰が痛そうにアピールが更に加速する。とはいえさすがに先生だからね、たぶん許してくれないんじゃ無いかな。
「い、今の……あの…加護ですか?」
「そうですよ…私の加護の……?…君は…あぁ、自席の子だよね。履歴書は見たよ。確か名前は……リッカ・タチバナさんでしたよね?」
「は、い…リッカ、です。」
「私はルカ・チカトリーチェですよー!」
「キミは知ってる。さっき私を呼んだのキミだし。前代未聞の実技と筆記両方の首席合格者。しかも…チカトリーチェ家の長女…、」
なんとも言えない感じになってるのは、両方首席合格のせいで色々変わっちゃったからかな…?いいじゃん!良いことじゃん!私悪くないじゃん!
「それで、イザナ先生はちゃんとこの子たち案内出来るんですか?」
「いやー、ちょっと……」「出来ますよね?」
「…、はい。」
「さっきの先生は、メグリ先生って名前だ。ガチで怒るとさっきの比じゃねぇからお前らやめとけよ。」
「その発言でまた怒られそうですけど大丈夫ですか?」
「ま、大丈夫だろ、仕事さえすれば怒らないから。」
ようやく完食したあのドリンクのコップを嬉しそうにかつ恨めしそうに見るリッカちゃんはさておき、ようやく学校案内のスタートである。
「まず、ここが図書室。」
「「え?」」
"図書室"として案内されたのはとてつもなく広い空間。10m以上ある本棚ギッシリにギチギチに、これでもか!と詰め込まれた本と本と本と本!!!
絶対どこになんの本があるかなんて分からないでしょ!
「図書委員に言えばある程度欲しい本の場所は教えてくれるハズだから、なんか読みたい時は図書委員っぽいやつに聞け。んじゃ次。」
サクッと紹介して次に向かうイザナ先生の背を追いかけるが、その歩みはかなり遅い。腰に手を当てながら労るようにゆっくり歩いてるから、亀の歩み。
「イザナ先生、メグちゃん先生は何の授業を受け持ってるんですか?」
「メグちゃん先生?あの人は…、語学だった気がするけど…、なんかわりと色んなトコに顔出してるイメージだな。で、ここが保健室な。」
「なんやイザナ先生、まーたサボりに来たんか!」
「いや、今日は違うから。」
ここで重要ポイント"今日は"ってところ。
普段はサボりに来てるんですね…イザナ先生……。
「おや、見たこと無い子ぉたちやねぇ、新入生?」
「どうも始めまして!首席入学者のルカです!」
「ぁ…ぇ…次席の、リッカ…です。」
「おうおう、元気がよろしいなぁ。ワタシは保健室にいつもいるタイプの先生の、レーゼやで。まー、怪我したりサボりたくなったらいつでも来いや?お茶は出えへんけど。」
「先生、そんなことされたら本当に使いたい人が保健室に来づらくなります。新入生に妙なことを吹き込むのは辞めてください。」
「おんや、痛いとこ突かれてしもうた、堪忍な?おーちゃん」
突っ込まれたことに対して手のひらで額を打ち、パチンと気持ちの良い音を鳴らしながらそう言ったレーゼ先生と、突っ込んだ男の子。さて、この男の子は誰でしょう?
「はじめまして、新入生。歓迎するよ。俺は2年で、保健委員のオルザードだ。さっきはあぁ言ったが、単に身体が怠かったりといった事でも不調には違いない。相談事でも、いつでも歓迎するよ。まぁ、授業中なら俺は居ないけどな。」
2年生のオルザード先輩。細い眼に優しげな表情に丸眼鏡。うん、絶対いい人だよこの人!
「おいオルザード…元ヤンのくせに新入生に優しくすんなよ。」
「………」
イザナ先生の一言でオルザード先輩の眼鏡が曇り、その奥の瞳も濁る。どうやら相当に隠したかった事実らしい。元ヤンかぁ…。
にしてもイザナ先生の顔が広すぎるし、情報通過ぎる。
「………、はぁ、バレてしまったら仕方ない。入りたての頃は確かに少し尖っててね「いやかなりヤバかったぞお前。自分で名乗ってた名前忘れたのか?「ッイザナ先生、!!」
「初日で先輩に難癖付けに行って一撃でのされてただろ。保健室まで運んでやったの誰だと思って「少なくともイザナ先生では無いですね!!」
なるほど、なかなか愉快な人らしい。私の中での評価は優しそうな先輩から狂ってて愉快な先輩へと変わっちゃった。
「おっと…んなことしてたら時間経っちまった。そろそろ入学式の準備に行かねえとじゃねえか。おら行くぞ新入生ども。」
「あの優しそうな人が………元ヤン……。」
あー、そこで止まってたんだ。リッカちゃん……
どうやらリッカちゃんにとってはオルザード先輩の存在は刺激的だったらしい。うん、いい勉強になったね、ひとつ成長してくれて私は嬉しいよ。
立花立花たちばなりっか