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「はっ」
とお仙は飛び立つように、急いで玄関口まで出迎えに向かいます。沓脱のところにいかめしく立っていたのは、額が広く、鼻が高く、頬の肉がややそげた、一人の気高い人物でした。手をついたお仙を見ながら、袖の下から拳を出して、無言のままで突き出したのを見れば、つかんでいたのは一匹の蛇でした。
お仙は首をかしげて、横目で蛇を見ていましたが、手鞄でも受けとるように、ぼんやりとしたままそれを受けとりました。
来客の手から渡された蛇は、お仙の手首から二の腕にかけて、ふた巻きほどうねりながらまといつき、袖にからんで、鎌首を高くもたげています。
お仙は気にもかけない様子で、蛇にからまれたままの左手で、客が脱いでよこした帽子を受けとり、あとについて座敷に入りました。
「もし、これはお土産でございますか」
客ははやくもくつろいで座っていましたが、このときお仙の腕を見て、
「む、巻きついたか。それは悪かった」
「はい、それではお土産ではございませんでしたか」
としずかに問いました。
客はなにくわぬ顔で、
「大の大人に土産なんかあるか。まだ子どもじゃな、はははは」
と高笑いをしましたが、急に眉をひそめて、
「取れないか、うむ」
「でしたらば」
といいながら、お仙はスッと立ちあがって、縁側に出ました。尾の先をつまんでいた指を離すと、巻きついていた蛇はするりと解けて、ずるずると庭に這いおり、そのまま草むらをくぐって見えなくなりました。
お仙は見向きもしないで座敷に戻り、
「どこから持っていらっしゃいましたか。いたずらがお好きでございますね」
「いたずらなもんか。あれはな、わしんとこの庭にいたやつじゃ」
「え、それではお屋敷からお持ちになられて」
「うむ。その、どうもうちの奴らはみな恐がりおって寄りつかん。書生までが蛇というと大騒ぎをするんじゃ。さっき出てくるときに背戸を通ると、あいつがじゃよ、木の股にぶら下がっておった。家内が恐がってならんから、どこかに捨ててこようと思って、提げたまま家を出たんじゃが。
往来は人通りがあって捨てられん。驚かしては気の毒じゃと思うて、川にでもと思うと、橋のそばには船をつないでおる。溝に捨てようと思うと、軒下で子どもが遊んでおるじゃ。どこへも捨てられんうちに、つかんでたのをうっかり忘れて持ってきたんだがの。や、面倒をかけた。
わしにはちっとも巻きつかんじゃったが。見た目が悪く不気味なもんじゃに、気の毒であった。あの子がいるとよかったのに。金之助はどこかに行っているのか」
「はい、あの、鎌倉へひと晩泊まりに誘われて参りました」
「む、のんきでうらやましいな」
「さぞお忙しいのでしょう」
「わずらわしくてかなわん。せん、久しぶりじゃ。飲まんか」
「はい。六畳でお休みあそばせ。支度をします」
「そうしような」
と、立ちあがった客の肩はそびえるようで胸幅もひろく、その風采は周囲を圧するようです。悠然と家の奥へ行く後ろ姿を見送って、お仙はぼんやりとたたずみ、石になったように立ちつくしていましたが、ハッと気を取り直しました。
「おや! 暗くなった」
奥からは快活な、高らかな声が聞こえます。
「おい、ランプをよこせ。ともしてやろう」




