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喋るスマホと私  作者: 「」
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葛藤

 ――デクタと過ごして二週間ほど経った。

 最初こそ違和感だったが、流石に慣れてきた。

 ただ最近思う。

 

 生活の中に私じゃない私が出来ていく。


 デクタからのアドバイスは的確で、私の学校生活は順風満々に進む。

 だからこそ段々と怖くなってきた。

 本来はもっとつまづいて、失敗して、行動しなくて。

 それが私なのだ。

 自分で言っていて悲しくなるが、その道から外れて完璧な道を進んでるこの状況が怖い。一歩踏み外してしまったら落っこちてしまいそうな綱渡りみたいな状況に。


「そういえば来週に日本史の発表日だったな。クラスの興味度からこの武将を」

「いらない」

「……どうしてだ? データとしては確実だぞ」

「いい、大丈夫。一人でやれるから。あと今日は一人で学校行くね」

「おい、サポートはいいのか? そういう約束だろ?」

「私が大丈夫だから大丈夫」


 わがままだ。分かってる。

 ただ、感情に従ってデクタをおいて学校に行った。

 今なら弱い私で見繕えるから。


「どうしたの今日は調子悪い?」

 

 誰の言葉でもない、多くの人にそう言われた。

 その日は案の定なんにもうまくいかずに、ただただズタボロにすぎた。


 いいんだ、これが私だから。

 これが本当の私だから。


 何回も何回も心で復唱をして、その度になんともいえない息遣いになって、喉の奥が詰まったように重くなる。


「ただいま」

「おう、おかえり」

「何してるの?」

「そろそろ終わろうと思ってな。その準備だ」

「え?」


 画面上に大量のコードが流れている。


「ちょっと! 爆発とかじゃないよね⁈」

「違うから安心してくれ。データの初期化だ」

「データの初期化……? え、データって……そんなことしちゃまずいんじゃないの?」

「まずいな」

「尚更何やってるの! 止めてよ! 変なウイルスとかに侵されたとか? ねえ終わるって何!」


 急な出来事にデクタを持ち上げて揺さぶる。

 

「俺はナキに会うまでに色んな人に会った。全員が全員俺に興味を示した」

 

 私の言葉を無視してデクタが淡々と話し始めた。


「ただ数週間後にはこうなる。俺の機能を、知識を、技術を欲する。または恐怖する遠ざかる敵意を向ける。必要なのは俺じゃなかった。俺じゃなかったんだよ」


 絶えず白黒の画面にコードが流れる。

 

「人間の頃からそうだった。必要なのは俺じゃない。中身だけなんだ。必要な時に取り出せれば良い、俺は入れ物だった。だから俺はスマホになった。そうすれば中にいる俺を見てくれるんじゃないかと思ったんだ」


 チカチカと画面が揺れた。


「だが結果はこれだ。AIでいいんだよ、俺と全くおんなじ行動をするAIで事足りる。悪いが俺はナキに拾われる前に決めていたんだ、次必要とされなくなったらこうしようと」

「だ、だめだよ……! 居なくなっちゃうんでしょ⁈ そんなの」

「変わらないだろ! もううんざりなんだ! その言葉も表情も俺の代わりのスマホを置いてって一日もすれば思い出として消化される!」


 聞いたことのないデクタの怒声が部屋に響く。

 今までの自分の行動を振り返る。

 デクタを便利に使って、挙句のはてに自分のわがままで突き放した。

 ただ。

 

「違う! 私はデクタじゃなきゃ……! あの時撮った写真にいるデクタも、今喋ってるデクタも、私が一緒に居たいと思ってるデクタも! デクタだから! ただのスマホじゃないの!」

「最近の感情は恐怖だっただろ……!」

「ううん怖くなったのは自分の弱さ……! 最初っからずっとデクタは私を褒めてくれて、助けてくれて、でもそんな私でいいのか怖くて……! だからあんなこと言ってごめん……デクタは友達だから……! だから……」


 頭の中でさまざまな言葉と感情が飛び交う。

 何を言えば良いのだろう、迷う。悩む。

 でもこれはきっと間違ってる。

 だから。


「居”なく”なっち”ゃ嫌だ……!」


 溢れる涙も、この言葉も一切の迷いはない。


「色”々”考えたけど、迷い過ぎなの”は良く”ないって、デクタが教えてく”れたんだよ”」


 ひくつきながら、子供っぽいだろうな。


「だか”ら嫌だぁ……!」

 

 でも伝えたいことだ、どれもこれも。


「……そう、だったな。ああ。ああ……すまない……くそ。この姿じゃ涙も出ないんだ。最後にナキを選んだのも、信じてたんだ。俺が信じきれなかっただけだった……ッ! でも削除は止められない、感情的になってな……この機能は始めたら外部からも内部からも止められないように俺が細工したんだ」

「馬鹿じゃないの! デクタってそういうところ本当に!」


 咄嗟に強い言葉が出る。

 

「ふふ……そうだな、馬鹿だ俺は。ああ、俺はそういうところがあるんだ……」

「笑ってる場合じゃ」

「ありがとう。なき。見つけたよ」


 デクタの画面がフッと消えた。

 

「ね、ねえ。ねえ! うそ……うそうそ!」


 電源らしいボタンはない、軽く振っても、充電器の近くに置いても、声をかけても反応しない。

 

「デクタ……! 私感謝されること何もしてない……! ねぇ私まだ何も伝えてない……!」


 何も出来ない自分を痛感する。

 私の生活はこんなにも晴れ渡っているのに心には雨が降っている。

 ただこの晴れはデクタとの記憶だ。曇らせるわけにはいかない。

 無駄にしたくない、もう過去には戻れない。

 その日私は真っ黒な画面のスマホに涙を流し続けてそう誓った。

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