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喋るスマホと私  作者: 「」
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学校とスマホ

「なき〜! 忘れ物ないかもう一回確認しときなさいよ〜」

「は〜い! 分かってる〜!」

「だから言っただろ」

「静かにしてて……! バレるでしょ……!」

 

 朝起きていつにもなくバタバタしてるのは、寝坊したせいだ。

 昨日あんなに夜更かしもせずぐっすりだったのに……何回かデクタに起こされていたのは覚えているのだが、二度寝三度寝をしてしまって現在に至る。


「それならしっかり起こしてよ、もう……!」

「起こせたが、電流を使った意識の活性方法とかが基本だぞ? そんなことしたら君は怒るだろ」

「でんりゅ……! 高性能なら他にやり方ないの……?」

「あるが、それに頼って堕落していくナキの姿が容易に想像できるからな。実行しなかった」


 文句を垂れようとしたが、そこまでいったらもはや介護なのでは? といった言葉が頭に浮かんで口をつむんでおく。


「行ってきまーす!」


 とにかく時間がないのでデクタを胸ポケットに入れて学校へと向かった。


「ま、間に合った……」

「なんだ、結構余裕じゃないか?」

「挨拶とか……自分からするの得意じゃなくて……」


 学校に着くと後ろの自分の席に座り息を整える。

 時間としてはホームルーム開始まで十五分ほどあり全然余裕なのだが、人が沢山いる中の教室に入るのが嫌すぎていつもは三十分前に来ている。

 すでに十人ほどクラスに居てどうしようかと迷ったが、儚い声で「ぉはょぅ」と顔見知りには一応挨拶をした。

 そんな中ヒソヒソとデクタに話しかける。


「というかさっきから心配なんだけど、デクタの声何でみんなに聞こえてないの……? 普通の声量じゃない?」

「合成音波だ。ナキには声として認識されるが、その他の者には雑音にしか聞こえない。その代わり極限まで静かな状況では使えないが」


 それなら安心なのだが、私の声は余裕で聞こえるわけで。


「タイミングとか見ないとデクタと話せなくない? 今は本を読んでるふりしてるからなんとかなってるけど、どうやってサポートするの……」

「そこはこっそり色々とさせてもらう。例えば今入ってきた男、おそらくこちらに挨拶をしてくるぞ。性格は明るく、ほとんどなにも考えていない。気軽に挨拶を返せ」


 その指示に従って教室に入ってきた短髪の男に目をやると、前にたむろっていた女子群や男子群に挨拶をしながらこちらに進んでくるのが見えた。


「おはよー! 早いね」

「お、おはよう」


 男はそれじゃとだけ言って自分の席に荷物を下ろすと、男子群に混ざっていった。


「あの男の苗字は八幡(ヤバタ)か。今挨拶された者たちは九割その名前を知っていたな。一日であんなに印象付けられる才能はなかなか見ない、媚を売っておけ。コミュニケーションを取る際に役に立ちそうだ」

「す、すごいね……今の一瞬でわかったの?」

「言っただろ、俺は天才なんだ」


 胸ポケットにしまってあるため顔はよく見えないが、自信ありげなその声にシンプルに感心する。


「あとこれをつけておけ」

「なにこれ……」


 机にぽいっと投げ出された胡麻のような大きさの黒いシートを眺める。


「超小型の骨伝導イヤフォンだ。教室の左の席だからな、左耳の裏の骨に貼り付けていてくれ、授業中はそこから声を送る」


 感心しながらその黒いシートを指示通り耳の裏につける。


「これでいいの……? そもそも最初っからこれでよかったんじゃ」

「本来それは埋め込むタイプだ。自分が無理やり改造してくっつけるようにしたのだが、あんまり激しく動かれると外れかねない」

「勝手に改造していいやつなのそれ……」

「(一応聞こえはするだろ)」

「わッ……すごい、聞こえる聞こえる」


 耳元でデクタの声が聞こえた。

 骨伝導のイヤホンを一度試したことはあるのだが、音漏れしてるんじゃないかとビビるからやめた思い出が蘇る。


「ほらうかうかするな、今入ってきた女子もこっちにくるぞ。あちらはこちらのこと覚えてるみたいだな」

「え、うそ」

「なきさんおはよお」

「おはよう……!」

「次はあの男子だ、こちらを通るな。性格は似通っている。挨拶しとけ、趣味とか合うんじゃないか?」

「え、あ」


 怒涛の挨拶ラッシュに目が回る。

 だが確かに事前に心構えができると案外挨拶もできる。安心するというかなんというか。


「よし次だ」

「次⁈」

 

 この調子でホームルームまで挨拶をし続けた。

 疲れたが、デクタが事前にその人の情報も教えてくれるからか変に思われてないかなという心配は無かった。

 そのサポートは授業でも続いて。


「はいじゃあこの英訳わかる人」

「(英訳もそれであってる。大丈夫だ)」

「じゃあそこの君」

「は、はい。『それはみかんだ。触るんじゃない』です」

「正解、ありがとう座っていいぞ。それじゃあこの解説だが――」


 こんな感じで教えてくれる。

 事前に答えを持っているのと変わらない状況なのだ。手を上げるにしても、発言するにしても心の持ちようが違う。

 体育でもサポーとしようと思えば出来るらしいが、流石にそこまではいいと私が拒否した。


「よし、次は部活動だ」

「う、うん」

 

 帰りのホームルーム中にデクタとそう話す。

 部活動は気になっていた写真部を見学しに行くことにした。


「あ、なきちゃん部活動見学いくの〜?」


 朝ほんわりと挨拶してきた子が話しかけてくる。

 名前は確か……。


「(笠木千草(かさきちぐさ)だ)」

「うん、写真部見に行こうかなって。チグサちゃんも?」


 デクタからのフォローが入る。


「そ〜。昨日話しかけようとしたのにそそくさ帰っちゃうんだもん」

「あはは……」

「写真部私も着いてっていい?」

「(信頼度は高めだ。感情は安心。中学の頃に似たような友達でもいたんだろうな)」

「わ、私でよければ」

「告白してるみたいになるね〜」


 あはははと優しくチグサが笑う。

 その後写真部では軽い自己紹介と共に、どんなことをしてるのか実際に見てきた。

 横でチグサがほえ〜とかはぇ〜とかそんな様子が面白くて、メインの説明内容はあんまり覚えてない。


「あ、そうだなきちゃん。連絡先交換しとこ〜」


 部活の紹介が終わり、学校からの駅までの帰宅道にそうスマホを差し出してくる。


「そうだね、はい」

「あれ、胸ポケットのそれってスマホじゃないの?」


 失念していた。部活動紹介の時は静かだったし、今この状況はスマホが二個あることになってしまっている。


「(適当にサブ端末とでも言っておけば大丈夫だ)」

「あー……えっとサブ端末なんだ。これ」

「へ〜。私前のスマホとか下取りに出しちゃったから持ってないんだよね〜。あ、HINE追加しとくね」


 なんとか誤魔化せた。まあでも最近二端末をもつ人も多いし、不思議なことじゃないか。

 

「それじゃあ私こっちだから」

「あれ、電車じゃないの?」

「家近いんだ〜、ギリギリまで寝れるからここの高校選んだんだよね〜」

「チグサちゃんらしいね」

 

 笑いながらそう返して、去っていくチグサちゃんに手を振って見送った。


「……にしても本当にすごいんだね、デクタって」

「今更分かったか」

「ま、その態度さえなければね」

「それ相応の態度と言ってくれないか」


 軽く喋りながら家へと向かう。

 あれだけ不安だった学校生活もデクタの手によって好調にスタートを切った。


「そうだ。ねえデクタ、写真撮らない?」


 電車から降りてしばらく歩くとそう提案する。

 

「いきなりだな、どうした? ネット上に投稿する用とかだと容認はできないぞ」

「……失礼じゃない? 思い出作りで撮りたいの。ほら写真部で映える撮り方教えてもらったところは覚えてるからそれも試したいし」

「まあそれなら」


 渋々胸ポケットから出て肩に乗ってくる。


「自撮り風は……えっとスマホを反対にして広角レンズの方で……指が届かない……!」

「何やってるんだ……」

「よし! 撮れた!」


 スマホを元に戻すとその撮れた写真を確認する。


「ナキの顔が半分見切れてるじゃないか……」

「慣れてなくて……」

「まあ、これはこれで思い出だな」

「え、珍しい……デクタもそんなこと言うんだ」

「一般的に失敗した方が思い出に残りやすい」

「聞かなきゃよかった……」


 不完成だが、高校最初の友達との写真だ。

 二人の写真が写った画面に夕陽が差し込んでキラキラと輝いた。

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