部屋とスマホ
「到着しましたよー、デクタさーん」
「お、ここがナキの部屋か。中々いい部屋じゃないか?」
胸ポケットからピョンと飛び降りてデクタはあたりを物色し始めた。
変なものは置いてないが、いくらスマホとはいえ初めて他人を自分の部屋にあげたからかどことなく緊張する。
「散らかってるけど、ゆっくりしてて」
「散らかってると言っても、今まで見てきた中の部屋の散らかりよりかは75%ほど綺麗だ。自信を持て」
「どこ情報なのそれ……」
「物色した、ここまでくるのに色々なお宅にお邪魔したからな」
「……なるほど」
犯罪まがい、というか犯罪なのだが、あんまりそれ以上聞きたくないため深くは聞き返さなかった。
これって犯罪者を匿ってるとかで捕まんないよね……。
「どこ行くんだ?」
「下にお菓子とってくる〜。デクタって充電どうするの?」
「背中から専用プラグを形成できるからそれで勝手にさせてもらう」
「へぇ〜……」
背中から粒状の何かが出てくると、一瞬で充電のプラグの形になった。
薄々気づいてたけど、すごい技術だよね……これ……。
部屋を出て下の階に向かいながらそんなことを考える。
「戻ってきたよ〜」
「お、勝手にさせてもらってるがこの『がっぽしはんぺん伝デラ』という漫画面白いな。はんぺんで殴り合うのがメインの主人公を作り出すなんて正気じゃないだろ、やっぱり世の中には面白いやつがいるな」
「面白いかわからないけど、中学の頃の友達がいらないからってくれたんだよね。そんなに面白い?」
「この感情を適切に表すのは難しいが。興味深い、に近いな」
自分でもそんなのあったなと思い出すレベルのものをよく引っ張ってきたと感心しながら、ポテチを開けて真ん中のテーブルに広げた。
「デクタってどうしてスマホになったの?」
「自分探しのために自分の身を無くしてみた」
「そんな軽い感じで……」
「言ってくれるじゃないか。俺だって思うところあったんだぞ?」
「十分定まってると思うけど……あ、そうだ。一体デクタってどこからきたの」
大学生の悩みみたいだ。そんな自分探しの海外旅行みたいなノリで自分の体を捨ててしまうのだから末恐ろしい。
「とある施設だな。これ以上は言えないが、技術開発と共にこの地球を裏から支えていると思ってくれていい。にしてもナキは疑うことを知らないのか?」
またこちらの表情から推察したらしい。
不思議そうにそう話すと、漫画を身体から生えてきたアームで器用にしまい机に飛び乗る。
「普通だったら全く信じられないけど、今までのデクタ見るとなぁ〜……って」
「合理的な考えだ。確かにそうだな」
「ていうかそういうのって話しちゃっていいの? なんかこう機密情報だったり結構重要じゃない?」
「それ以上が知られなければ別にいいそうだ。そこらの女子高校生に話しても世界の混乱には繋がらないだろ」
「そんな軽くていいのかなぁ」
確かに私が「裏である組織が世界を暗躍している!」って言っても思想が強めの痛い人って思われて終わりだろうな……。
にしてもこんなに夢かと思うような光景を見ているし聞いているのに、案外冷静な自分に一番驚いている。
人ってあまりにもかけ離れた技術を見ると感心の方が勝ってこうなるんだと知った。
「まあ危害を加えられる機能は基本使わないからな」
「基本⁈」
「本当に何かあった時のご信用にだよ……そんな離れなくても何もしないから戻ってこい」
「……爆発とかしないよね?」
「一応できる」
「やっぱり戻って! 返却します! 無理無理無理!」
歩く爆弾を抱えながら生きるのは流石に!
そんな私に納得のいかない顔でデクタが詰めてくる。
「だから護身用って言ってるだろ! 爆発すると言っても最終手段だ、それこそ地球滅亡の危機とかに使うとかそんなレベルのな!」
「尚更危険なんじゃ……!」
「俺のことを馬鹿だと思ってるのか? ポップコーンじゃあるまいしそんなポンポン軽く爆発する訳ないだろ!」
「い、いやでも内部にそう言った構造があるんでしょ……! むむむむり!」
「よし。まかせろ。わかったわかった、一から俺の安全性について叩き込んでやる。そこに座れ」
こなくなに近づこうとしない私に対し、デクタは巨大なプロジェクターを展開すると安全性について説き始める。
その講座は親が帰ってきて、私が夜ご飯を食べ、風呂から上がった後も続いた。
本当に続いた。びっくりした。
「どうだ。分かったか、いかに安全かということを」
「……はい」
「もう二度と送り返そうとしないな?」
「……しません」
「よし」
無駄に分かりやすい説明と共に丸め込まれた私は、疲れ切った声で何とか返事を返す。
知識のフォアグラがあったらこういう状況なんだろうな。
「それじゃあ俺は寝る。スマホに睡眠とかあるのかという質問があるならまたさらに説明するから言ってくれ」
「……ないです。おやすみなさい……」
「おやすみ」
近場の充電プラグに仰向けの状態で刺さると、ピコンという音ともにデクタの画面の光が消えた。
私もここから何かする気力もないため大人しく布団に入り目を瞑る。
「(なんか今日一日で色々あったな……)」
身体も脳も相当疲れていたのだろう、いつもは寝付けないのにその日はそのまますんなりと寝てしまった。