9 原義としてのハプニング
「・・・これ、俺に伝える内容か?」
置き手紙の内容は、次の主要十ヶ国首脳会談、通称コンフィデンスが近々行われる、ということだった。そして場所は、ここダンクスの中心地「フェスタシア」だそうだ。
コンフィデンスって直訳すると『信頼』だよな?大丈夫なのかその会談は。
おそらく意味合いとして、次の来訪時は長くはいられないことと、深掘りしすぎだとは思うが反乱分子の抑制でもしてくれって感じかな。
やれやれ、面倒ごとは勇者様が全部解決してくれると嬉しいんだよな。やること増えたわけじゃないけどな。
「お兄ちゃん、何が書いてあったの?」
「あーよくわからんが、いろんな国のお偉いさんがこの国に来るんだってさ」
「へー」
当たり前と言えば当たり前なんだが、やはり感動が薄いな。
そりゃ俺だったって各国の首脳なんかよりマフィの方が大切だからな。次点でニースたち。
「さて、今日も屑鉄を漁りに行くか」
「うん!お兄ちゃん!」
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「なあジミー、この街の頭領について知ってるか?」
「急にどうしたよニース。知るわけないだろ?この国の王の名前だって知らないんだからな!」
「なぜに自慢げなんだよ、ははは!」
「そういうお前は知ってるのかよ?」
「ああ、知ってるとも。ただ、そんな高い高いところから見下ろしてくる奴らの名前じゃないけどな」
「へー、教えてくれよ」
「よし、教えてやろう。この街の裏の顔、闇の組織『ブルぺスタ』の頭領のなま」
「マイザスだ」
突然後ろからの低い声を浴びた二人は、顔に仰天の文字を貼り付けたまま振り返る。
「よう、ガキども。ちょっとお話があるんだが・・・ついてくる気はねえか?」
二人の様子などお構いなしに話を続ける、目元に傷跡のある男。羽振りが特段良いわけでもなく体躯が特筆して大きいわけでもないが、身に纏う気迫は明らかに他の人とは別の色をしていた。
「わかった、行こう。ただしこいつは、見逃しちゃくれないか?お前の名前を勝手に借りたことは謝ろう。だから、どうか頼む」
「ちょ、その、え・・・」
即座に状況を読み取り、自分の中の最適解を実行したニース。明らかに狼狽した様子のジミー。
「威勢はあるが仲間は巻き込みたくない、か」
様子を見ていたマイザスは、そう呟いた。
「仲間想いだなチビ。いいだろう、許してやるからさっさと歩け」
「感謝する」
「え、でも・・・」
「俺なら大丈夫だ」
怯えていたジミーにそう耳打ちすると、ニースは歩き出した。
ジミーはしばらく固まっていたが、やがて踵を返し全力で逃げる。
が、しかしジミーは諦めていなかった。物陰に隠れて様子を見ながら、尾行を始めたのだ。
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「レイ!」
「うおっ!どうした、きゅ」
「ニースが拐われた!」
「なに!?ティト!十分間だけ、アズーとマフィを探してこい!集合場所はレモン!」
「え、なに」
「いいからはやく!」
「わ、わかった!行ってきます!」
「ジミー、俺も探してくるから、レモンで待っててくれ」
急展開を受けて訳のわからなくなってるティトが出て行った後、振り向きざまにジミーに指示するレイ。
「お、おう。わかった」
「ありがとな」
ジミーの返事を聞くなり、レイは内職を放置して外へ飛び出した。
「・・・ニースもレイも、すげえなあ」
空っぽになった部屋で、ジミーは静かにため息をこぼした。
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「さて、こんなもんか」
「アズ兄!」
「お、ティト、どうした?」
「レイ兄が、レモンに来いって!」
レイがティトを遣わした。危ないから一人で出歩かせることのないティトを、人一倍他人への気遣いができるレイが。
「すぐいく」
「うん!」
「マフィも、行くぞ」
「え、わ、わかった!」
置いてきた屑鉄は仕方がない。とりあえず、俺らは急がなければいけないようだった。