53 シャルーカ侵攻(2)
コンフィデンスはつつがなく執り行われた。参加した9か国——ジュエニ王国、オルバーニ帝国、デュー・トゥー協商連合国、タミル連邦、チュンメン民主国、ハーグラディ共和国、コムサ連邦、ミアム公国、ヌーヴォスト帝国、ここに欠番の1か国を足して10か国である。——の代表は、主にヌーヴォストの行なう戦争の処理について、各国における『勇者』の動向について、参加国に敵対する諸国の処遇についてなどを話し合った。各国の使節団は、ジュエニの特産料理と大きく発展したフェスタシアの様子を眺めながら会議日程を終えた。
特務護衛として第十一大隊から派遣されたギルドの一つ『蟻牲』の大将メルティは、お祭りムードのフェスタシアを眺めながら紅茶を飲んでいた。
「そろそろ期間命令が出る頃です、隊長」
「ああ、そうだな。我らがミラージュ王はもうカロンに着いたのか?」
「明日朝には到着する手はずとなっております。麝香猫も配置を終えたそうで、我々の仕事は終わりですね」
「わかった。…俺たち何かしたか?暇しかしてないが」
「おやおや、暇だったら賊の警戒でも何でもしていればいいのに」
「…第三の特務か」
「ご名答、暇人部隊の隊長さん」
後ろから現れたのは、第三大隊フェスタシア支部代表のアメリゴであった。
「ライノのこと、忘れてねえからな」
「殺気立たないでくれたまえよ、怖いじゃないか、頭の悪いチンピラに見える」
「なんだと?さっきから隊長に対して無礼が過ぎるのではないか?」
「よしな、こいつに何言っても通じねえよ」
「まあ僕としても、君たちにはさっさと帰るように通達しに来ただけなんだがね」
「そういうお前はどうなんだ?第三は第七とヴァートルの担当してたよな」
「いや、僕はずっとダンクスだよ。君たちと違ってこそこそ動かなくてもいいし、こっちの第二とも仲良くやらせてもらってるさ」
「そうかい、ご苦労さん」
紅茶を一気に飲み干し、立ち上がる。
「行くぞ」
「片づけは習わなかったのかい?」
「仕事をあげてやってるんだよ、てめえで片付けな」
「おお、なんと行儀の悪い」
「言ってろ」
そう言うと、後ろ手をひらひらとさせて歩き去った。
やれやれと首をすくめたアメリゴは、カフェのカウンターに足を向けた。
「こんなクソ不味い紅茶に金を払わせる気か!?おい!」
店内から怒声が響いた。服装と肌の色から、この国の人間でないことは分かった。
「うるさいよ、任意同行を願おうか」
「あぁ!?関係ねえ奴は黙ってろ!」
「うるさいよ」
男の肩に手が置かれる。その瞬間、男は地面にへたり込んだ。
「まったく、僕は真面目さだけが取り柄なんだから。仕事を増やさないでくれたまえ」
男は言葉を発することができず、蒼白になった顔面で天を仰ぐしかなかった。
「ア、アメリゴ殿!?…略式で失礼します、九番のヘリー、ただいま現着いたしました!」
「お、仕事が早いね、第二の」
「メルティ殿からの派遣要請であります!」
ふと、カップの中に目をやると、紅茶ではない何か液体がほんのりと染みついていた。
「…地獄耳」
青年は一人、嘆息を漏らした。
* * *
その日、第八、第十大隊の将軍のもとに、使者が到着した。
第八大隊は、隣国であるウルード王国との友好的な関係維持のため、接続する国境線一帯に配備されている。第十大隊は、国内でも統治できていない箇所のあるベイユ地域の管轄として、中央あたりに位置する都市『ベールネイス』に駐留している。
要は、二軍とも辺境軍の代表的な存在なのである。
第八大隊の総督府にて、将軍『ミトラ』は頭を抱えていた。悩みの種はもちろん、ひとつは第十一からの使者についてである。内容がないようであるため、検討を重ねる必要のあるものだ。
「え~、これ上奏する?しちゃう?どうすればいいのさ~」
「この略式、おそらく密書であると思われますが…これを報告した暁には第十一の未来も危ないでしょう」
「そーじゃーん。かと言ってさ、言わなきゃ言わないで国家反逆罪だよぅ」
「悩ましいですね、一度幹部を招集いたしますか?」
「そーするぅ、あ、呼ばないでほしい名前もあるから、どっかメモっといて」
「承知いたしました…将軍、だいぶ乗り気であられますね?」
「そりゃそうよ~この案件、割と美味しすぎるでしょ」
「まぁ…将軍がおっしゃるなら…」
「つれないなぁ~」
第十一と第八は、浅からぬ関係がある。かつてファウストとミトラは、同じ士官学校で同僚として背中を預け合う仲であった。また、第八に属する6人の最高幹部の一人、ティルネ=イレギュレイは、軍閥イレギュレイ家の分家の者であり、『斑鳩』テディオックの娘である。
「父のことは父が何とか致しますでしょう。我々は我々の大義に則って決断すべきかと」
なんて会議の場で部下に言われてしまっては、ミトラ一個人としても、思慮に苛まれるものがあるわけである。




