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52 シャルーカ侵攻(1)

 定期連絡によって、ダンクスに配属したパーティ『麝香猫じゃこうねこ』は、秘密裏に活動できる拠点を獲得したことが分かった。また、シビリティア駐留軍は2万2千人に達し、それぞれの役割のもと施設の拡充と各地の警備にあたっている。

 

 しかし、本国の軍備には遠く及ばず、管轄できる範囲も狭いうえに、度重なる嫌疑によって軍備縮小を命じられてきた。その分各軍隊に駒を潜らせることもできてはいるが、それは募兵を行ったこの大隊も例外ではないだろう。不安分子を取り除くための『雄鳥フォーゲル』だ、彼らの活躍にも期待している。


 「おにーさん、軍議」


 「あぁ、わかった」


 今日は俺も、前線へ繰り出している。リュブリヤナ軍に大規模な動きがあったらしく、黒烏くろう鶴首かくしゅを含む精鋭により準備にあたっていた。


 「おお、ファウスト殿よ、ご苦労の出ませぬように」


 「うん、ありがとうテディ」


 「して、特殊作戦とはいったい…何をするのですかな?」


 部屋にはすでに、初老の男、テディオック=イレギュレイが控えていた。


 「いや、一度ね、シャルーカ…首都に襲撃をしようかと思って」


 「…!襲撃ですと!?」


 「うん」


 「ではとうとう、民間人にも被害が…」


 「出ると思うね」


 「…賛成しかねますぞ」


 「だからね、俺たちだけしか呼んでないのさ」


 「おにーさんはね、こういう特殊な作戦に向いてると思って私たちを選んでくれたみたい。鶴首も今回はヒナ抜きでの作戦だよ」


 「…左様でございましたか、誠に失礼いたしました」


 「いいんだ、ただそれだけ、一緒に気を付けてほしいけどね。じゃあ連絡に移るよ」


 リュブリヤナにクーデターの動き――俺たちの差し金だが――があること、軍閥を追放せんとする共和制政府に、国王の許可なく支援を送る予定であることなどを示し、首都までの流通ルートを3つほど抑えてある旨を離した。


 「…決行は、いつになりますかな?」


 「夏月の終わるころ、40日後にしようと考えている。背後警備を茜鳶あかとび白鷺しらさぎに布陣させるに足る日数だろう」


 「左様でございますな」


 「これ以上質問がなければ、軍議は閉じるよ」


 「…問題ありませぬ」


 「うん、じゃあ解散」


 何やら考え込んだ様子で部屋を後にするテディを確認し、机の淵を3回、コツコツコツと叩く。


 「お呼びで」


 黒子のような格好の男が何もない場所から現れる。


 「フォードに、出立の合図を送れ」


 「承知いたしました」


 それだけ残して、また消えた。


 「…おにーさん、いつになく難しい顔してるね」


 「過去一の命を背負ってるからね。でも、手駒はそろった。段取りも組んだ。きっとやれるよ」


 「私たちは違うの。おにーさんはみんなの命が大切かもしれないけど、みんなはおにーさんのために命を投げ出すような人たちだよ」


 「大丈夫さ。俺は前世でも失敗したことなんかほとんどない」


 「そう」


 呆れたような表情をするセリアだが、眼差しはこちらを貫いており、昔のような手の震えもない。今回も俺は、失敗できない。



*   *   *   



 ふと、なにかに気づいたように白髪の少女が空を見上げた。『白鷺』の大将、ニトンである。


 「どうしましたか、ニトンさん?雨ですか?」


 「雨…かもしれないの」


 怪訝そうに覗く顔は、ニトンよりさらに小柄な少女、『天燕あまつばめ』の大将、ヒエン。天賦の才をもって将来的な王宮魔導士としての地位を約束されていながら、兄と慕う――他家であるが――ファウストに仕えるため剣士としても大成した、若き天才である。


 『天燕』自体は通信、連絡を主な役割としており、交通の発展と警備にも寄与している。しばしの休暇をもって、大将以下数名でシビリティアまで帰参していた。


 「…雨が降ったら、ヒエンはうちに来るといいの」


 「…?ぜひ、そうさせていただきます。」



*   *   *   



 「今回は、クロのところらしいぜ」


 チェスにも似た盤面の前で、1人の男が駒を放った。


 「そうかい…じゃあ、張り切らなきゃだね」


 返事をしたのはクロと呼ばれた紳士、『黒烏』のフォードである。読んでいた本を静かに書棚に収めた。


 「雲も出てきた。早めに動いた方がいいんじゃねえか?」


 「そしたら君のところにも、命が下るよ。財務執行局最高顧問さん」


 「だろうな。()手紙・・の確認もしてくるよ」


 立ち上がった男は、『黄鶯こうおう』の大将、アバニーレンである。長身で体格もいいが、クランメンバーのほとんどが文官として軍の事務を処理しており、軍からもインテリ大将として信頼を置かれている。また、交渉役としての面も持っており、第十一大隊の顔としての一面もある。


 「じゃ、お先に行ってくるよ」


 「こらー!負けを認めてから出ていきなさいよね!あと盤の片付けも!」


 「ニナありがと~」


 「あっ、待ちな…はあ、行っちゃったわね。ほんと毎回毎回…」


 ぶつぶつ言いながらも、『茜鳶』のニナは片づけを始めた。


 刹那、空間から出現するように黒子が現れる。


 「フォード様、報告が…ってあれ?フォード様?」


 「あんたの真後ろよ。クロも、からかわないであげなさいよ」


 虚空を眺め、慌てる黒子の真後ろから、溶け出るように紳士が登場し、頸に手を当てた。


 「報告をどうぞ。終わったらキリコのもとで修業してくるといい」


 「は、はい、もも、も、申し上げます。総大将ファウスト様より伝言で………以上になります」


 全てを聞き終えると、フォードは口角を少し上げ、ニナはため息をついた。


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