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51 楽な労働なんて存在しない

 この世界にも働く場所はある。生活費の調達と研究費のために始めたバイトは、居酒屋であった。小綺麗でインテリの集うカフェのような居酒屋だ。


 この世界にも非正規雇用という概念がある。


 「明日から来なくていいよ」


 俺はたった今、クビになったらしい。


 理由としては簡単だった。絶望的に単純作業が苦手なようだ。体格と身なりからフロアには出せず、キッチンではその不器用さでもって迷惑を振りまいている。60日で改善しなけれれば、さすがに店長もしびれを切らしたようだ。前世のコンビニもクビ寸前だったからな、当然かもしれない。


 給料と仕事内容の簡便さを求めて職探しをした結果。「相談役募集!」の文字を見つけ、応募した。弁が立つことを自称しているし、ぴったりの仕事であろう。



   *   *   *   



 事務所にいるのは、強面こわもての大男、きれいな服を着た好青年、書類の山に身をうずめる痩せた老女の3人だった。俺を含めて4人か。


 「いらっしゃいませ。いかがいたしましたか?」


 事務所を訪れるなり好青年はこちらに振り向き、一点の曇りもない営業スマイルを見せてきた。


 「えっと…仕事を募集しているって聞いたンすけど…『ジョハリ相談屋』はここであってますか?」


 一瞬の驚嘆の後、考え込む素振りを見せる好青年。おもむろに開かれた口からは、先ほどと1オクターブ下がった声が発せられた。


「俺はジョハリ、ここも俺の相談屋であってるよ。君の素質を買いたい。さっそくだがこれを身に付けてもらえるかい?」


 そういって渡されたものは、シンプルなリングだった。幸いにして、俺の人差し指に合う大きさだ。


 にしてもこのリング、つけた瞬間からの違和感がすごい。リングではない何かを身に付けたような、縛られる感覚のある強烈なリングだ。


 「こいつは一つの魔道具さ。君には識別するマークを付けた。外してもしばらくは残り続けるし、そもそも外したことは俺の手元の親機で分かる…要は、逃げるなよってことだ」


 怪しい仕事か…残念。


 「…んで、じゃあ何をすればいいっすかね?」


 「話が早いじゃねえか。まだ面接だぞ?まだ採用するとも言ってねえ」


 「たしかに。じゃあ帰らせていただきますね」


 即座に扉を塞ぐ大男。これは本当に諦めるしかなさそうだ。


 「降参だ。命の保証があるなら何でもやってやるよ」


 「お、面構えが変わったな。良い目をするじゃねえか」


 かく言う好青年の顔は、好青年らしからぬ歪み方をしている。だんだんと化けの皮がはがれたような、真の意味で2つの仮面を持ったような男だ。


 「させる仕事なんか、1つしかねえんだがな。ラム、連れていけ」


 「うす」


 大男、ラムに担がれて向かったのは、事務所のトイレだった。


 「雑用、掃除」


 寡黙であることがうかがえる。振り返ると、表情が消えた好青年、ジョハリが一瞥もくれずに仕事を振り分けた。


 「お前の仕事は掃除だ。俺たちの言うものを俺たちが満足するまでな。休日じゃない好きな時間、7日以上の間を開けずに来い」


 「報酬は?」


 「時間と内容に合わせてくれてやる」


 「…約束しろよ」


 いわれるままにトイレ掃除を終わらせ、机に置いてあった契約書にサインをした。いつの間にか隣にいた老女から封筒を受け取ると、意外な厚みがあった。期待していいんだよな?



   *   *   *   



 部屋に戻ると、すでに2人がいた。


 「…そういえば、お前らって生活費どうしてるの?」


 「奨学金とバイト」


 「お願いしたらくれるよ、意外と」


 「「…王族よ」」


 「へ?」


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