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50 増える妹ちゃん

お久しぶりでした。

 長い夢を見た気がする。


 遠い遠い世界の果てで、顔も知らない人たちが、光る何かを押し付けてくる。誰もかれもが憎しみに満ちた視線を向ける。受け取るたび俺は光を増す。


 苦しくなって目を逸らした先には、ひとりの幼女が立っていた。顔は見えなかったけれど、満面の笑みを浮かべているように感じた。その子が差し出した光は、とても暖かく、優しかった。


 「…マフィ」


 口に出した瞬間、目が覚めたようだ。


 おそらく、ここは保健室のような場所なのであろう。隣には驚いた表情の2人がいた。なにやらギャースカ騒いでるようだが、こちらとしても聞きたいことはいくつもある。


 「…悪い、俺はどのくらい寝ていた?どこか容態が悪かったのか?」


 「それはこっちのセリフだよ、アズー君!どこか調子悪いところとかない?大丈夫?」


 「…質問に答えてあげて、アルバ。ちなみにアズー、お前は車の中で寝た後起きなかったから念のため医務室に連れてきたんだ。移動中ただの1回も起きなかったから、ほかのみんなとは別行動して俺たちと車でここまで帰ってきたんだぞ。」


 そうか…ということはせいぜい8時間程度で済んだようだな。


 「夏休みでよかったね、アズー。一応あとで先生には報告しておくんだよ」


 「ああ、そうさせてもらうよ」


 「もう無茶はしないでね!」


 隣のアルバに肩を揺さぶられながら、夏休みの予定についても考えようと思案していたところだった。


 「…起きたの?お兄ちゃん」


 聞き覚えのある声が聞こえた。


 「…マフィ?マフィなのか?おい!」


 声の方向を頼りに隣の幕を強引に引きはがすと、血色の良くなったやはり見覚えのある幼女がおびえながらこちらを見ていた。


 「ちょっと!びっくりさせちゃってるじゃない!急に大声出さないでよ」


 「あ、ああ、すまん」


 俺が「戦場」で保護した幼女か。あまりにも声が…いや、よく見ると顔つきや体格まで似ている。本能だったのだろうか。


 「その子の処遇についても決めなければいけないぞ、アズー」


 今度はこちらの幕が外側から引きはがされる。


 「あっ先生。こちらからお伺いしようと思ってましたのに」


 「いいよ、3人ともお疲れだろう」


 その目線は俺を真っすぐ見据えていた。


 「それよりもアズー、君に聞きたいことが山ほどあるんだ…まあ、一旦その子についてだが」


 「…そっすね」


 当の幼女に体を向けると、今度はおびえるようでもなくこちらを真っすぐ見ていた。しっかりした子であったのだろう。


 「えっと、とりあえず自分の名前と年齢は言えるか?」


 「…ブラウ。ブラウ=ラウター。10歳」


 「そっかブラウ…実はな、名残惜しいことにお前をお家へ戻さなきゃいけなくなったんだけど、親戚とかっていたりするか?」


 「いない、みんな…」


 そこまで言ったところで血の気が引いて行くのが見え、慌てて差し出されたたらいに吐瀉物としゃぶつを撒き散らしてしまった。中身が少ない、ろくなものを食ってなかったんじゃないか。


 「わかった。そしたら先生…難民の手続きってできないっすか?」


 「馬鹿者、短絡的たんらくてきな結論に落ち着くな。お前がそうしたいだけだろう」


 まったくもってその通りである。


 「…本人の意向と承認を得るための最低限の根拠を用意して来い」


 そう言って先生は部屋を出ていった。意外と優しいんだな。


 「あのねブラウちゃん、君はおうち…ポーザオルフに帰りたい?」


 ブラウは答えず、俺たち3人の目をじっと見ていた。


 「帰っても何もない、もしくは帰りたくないとかだったら言いな。ちゃんと考えて出した答えなら…」


 「帰らない」


 「え?」


 「帰りたくない」


 「…そうか、じゃあどうしたい?」


 「お兄ちゃんお姉ちゃんと一緒にいたい。帰っても、誰もいないもん」


 そんなにあっさり決められることなのか…俺が言えたことではないが。


 「わかったわ。アズー君は先生に伝えてきて。じゃあお部屋とか決めないとね、ブラウちゃん!お洋服とかも買いに行かないと」


 はしゃぐ同期を尻目に、立ち上がって教官室へ向かう。今夜はまたにぎやかになりそうだ。



  *   *   *



 歩きながら体調を観察してみると、思いのほか体は健康体に近いことが分かった。また、わずかではあるが体内の魔力総量が増加したようにも感じた。やはりあの戦場での自分は何かがおかしかったようだ。


 『第三番』


 理論上でしか完成しておらず、4連副砲5機と6連主砲のペンシルロケットを一斉掃射する完成形に対して練習で扱えたのはわずか副砲3機までであった。今の魔力と豊富な鉄くずを前にしても、おそらく副砲5機がせいぜいだろう。現場ではオイルがあったことも手助けの要因にはなっているが。


 考えられる要因は何だ。激情か、憤怒か…死体か?あの眩暈は何かしらの関係がありそうだ。当然のことながらあの時は怒りでいっぱいであったが、感情による魔力出力量の差異は平均して12%前後といわれている。『第三番』が完成する魔力総量にはならないはずだ…


 研究するか。


 「面倒事は起こすなよ。お前は実習先でペット(・・・)を拾ってきただけで、たまたま(・・・・)寮がペット可だったこともあり、食堂の御厚意・・・によってをいただいているだけだぞ。わかったな?」


 「っす、わかりました」


 「じゃあ早速()世話・・をしに戻れ。医務室での休養は終わりだ」


 「…ざっす。失礼します」


 研究に子育て、遊びにも行きたいとなると、初めての夏休みは大変そうだな。金も稼がないと…


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