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5 ファンタジーには欠かせないモノ

「・・・っと、どうだ?『超培養ウルトラグロー』!」


 目の前に置かれた豆粒大の球体は、なんの反応も示さない。いや少しづつ膨らんでいた。そしてたちまち芽を出し、茎が伸び、葉が出て・・・三日月ののような緑色の実ができる。そして、それが薄い茶色になる頃、我が兄はようやく手を下ろした。


「自分で作った魔術だけど、意外とうまくいくもんだな」


 興味津々といった様子で覗き込む、赤く光る鎧を着た勇者。


「ハァ、ハァ・・・これ、意外と疲れるな・・・」


 対照的に、膝をついて肩で息をする、薄汚れた少年。


 スラムの片隅にて、奇妙な二人組は植物を前に談笑していた。


「ちなみにコイツ、俺たちからしたらどっからどう見ても大豆だけど、この世界ではタルタルって言うらしいぜ」


「へえ、じゃあこれで醤油作った暁には、マヨネーズすっ飛ばしてタルタルソースの完成だな」


「ははははは!違いないな!」


 目の前の二人は、時々自分は・・・いや、おそらく全員が年上である自分の友人たちですら、わからないことを話すことがある。そう、まるで二人だけがこの世界の住人じゃないみたいに。


 ある日突然家を飛び出し、記憶を失った兄。そして見つけ出してみれば、以前とは全く別物の気配を纏っていた。最初は、自分が支えられてきたように兄を支えなくてはいけないと思ったものだが、いつのまにか頼れる兄になっていた。


 これまでとは何が変わったのか、無意識に頼れるようになった兄をとても尊敬している。


 今抱いている感情が兄妹の思慕を超えた感情であるかどうかなどは、自分たちの築いた関係において知る必要がなかった。


   ✳︎   ✳︎   ✳︎


 大豆を育てることに成功した。大豆だ、畑の肉だ、そして俺の大好物だ。


「他に何か欲しいものはあるか?」


 心の中で小躍りしていると、お節介勇者が声をかけてきた。


「魔術書の類でも平気だぜ。ちなみに、一度使った魔術書は体の中に記憶されるらしいから、次からは何も見ずに使えるぞ」


 さすがに著者が勇者なだけあるね、チートチート。


「そういえばこの世界の、魔術とか魔法とかの違いってなんだ?」


「あーそれは俺もこの世界来てから色々学んだな・・・今のうちに教えとくか」


「頼む」


「よし、まずは基礎だけど・・・」


 勇者先生のこの世界に来て二回目の講義を聞いたところ、様々なことがわかった。


 俺やマフィがやるような、水を出すだけのそれは『原初魔術』である、ということ。自分の思念を魔力で成形して、実態を伴うものを生み出す力のことらしい。自分のうちにある『魔力』と呼ばれる要素を消費して行うもので、生み出した質量に合わせて消費されるんだそうだ。座標指定まで思念を媒介するため、創造可能な範囲ならば実質その射程は無限ということになる。俺が火を起こすことができたのは、無意識のうちにメタンでも思い浮かべていたからだろうか。


 ちなみに俺の魔力は、人より少しあるかな〜程度らしい。勇者のスキルの『分析』だってさ。俺のスキルも測ってみてもらったところ、『強盗』だってさ。生まれのせいか知らんが、縁起悪そうだからやめて欲しいぜまったく。


 他のワードはグレードの話だ。『魔術』、『魔導』、『魔法』の順に高等になるそうで、使えるもののグレードで称号も違うのだとか。


 他にも、魔力と呼ばれる内的な力について判明していること、魔導と魔法についての誓約や伝説、養成施設の有無などを教えてもらった。


 俺にとっては、かなりわくわくの情報だったから割と集中して聞いてたんだけど、途中で眠くなっちゃったマフィは俺の膝で寝てました。かわいいね。


「・・・あ、そうだ。錬金とかまではいかなくていい。鋳造とかそういう魔術書はないか?」


「一応錬金はあるぜ。なんでダメなんだ」


「物質を生み出してから加工するより、実際にある物質を加工するだけの方が魔力の消費が少ないんだろ?幸いここには、スクラップならわんさか落ちてるからな」


「なるほどな、よく聞いてるじゃん」


「じゃ、どんな屑鉄でも加工できるやつ、よろしく」


「あいよ」


「何日でできる?」


「うーん・・・3日くらいかな」


「んじゃ、5日後にまた来てくれ」


「りょ」


 そして、いつのまにか身支度を済ませた勇者は、テントともタープとも形容し難いマイホームから出て行った。


 陽キャは行動が早いね。


 そんなやりとりが終わり、静かになった家の中で、棚にしまったコップに収穫した大豆・・・タルタルを入れた。


 ・・・転生したからかあいつの性格によるものかはしらんが、あいつは信じられる。それだけは確信していた。

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