44 出会いなんて刺激的でいい
設定回…かも?
トンネルを抜けた先に待ち受けたのは、聳え立つ銀色の塔。城を象ったような城の外壁に向かって伸びる線路と、それを取り囲むように広がる街並みは、この地に対する希望と興奮を湧かすために充分だった。電車を乗り継いで2日間、戦争を始めた隣国を通過するために係った苦労も併せて、溜まっていた疲労も吹き飛ぶほどの圧巻が目の前にあった。
魔道技術の最先端、小さな国土と1つの都市に世界有数の規模である大学を据えた学術国家である。国内人口はおよそ20万人であり、うち5万人は『準国民』として受け入れられている。実態はミアム大学の学生である。中央部の城壁に囲まれた『大学地区』、東側に広がる玄関口の『カルテモ』、北の港に接する港湾部の『ヴィレフォン』、南西部に広がる森林の『原初の森』という4つの地区に分けられている。都市部の面積自体はジュエニ王国の第一都市『ダンクス』中央部の『フェスタシア』のおよそ6分の1と同等であるが、立ち入りの制限された『原初の森』だけで都市部の約4倍の面積を持つ。
「ついに来れたよ…魔道都市!」
憧れの地、ミアムに降り立った少女『アルバ』は歓喜に打ち震えた。
「さて、入学式まで時間もあるし、ちょっとくらい観光しても…ッ!」
何かにぶつかり、転んでしまった。見上げると、自分と同じくらいのボロボロの少年と、やはり同じくらいの小綺麗な少年が見下ろしていた。
「ってーな、人込みん中で余所見すんな」
「だ、大丈夫かい?」
それぞれ対照的な反応を見せる二人。悪いことをしたという自覚はあるが、やはり違う場所に来ると面白いものが見える。
「ごめんね、気づかなかった。学生の方かな?私はアルバ、よろしくね」
「よかった。俺はエイト、学生だ」
「…アズーだ、次からは気をつけな」
挨拶をしたら返してくれる。この人たちは良い人かもしれない。
「じゃあ、私は観光したいから、ここで…」
腰を上げると同時、シャリンっと音がした。物が落ちた音だ。
* * *
「なあ、この大金貨はなんだよ」
「答えるっ!答えるから返して!」
ミアムに入って早々俺は、薄ら笑いを浮かべながら少女を尋問していた。悪い目つきとボロボロの服も相まって、印象は最悪である。周りの人も一瞥を向けては避けている。こちとら元々、マフィアの下部組織半グレ集団の一員だからな。それ以前にコミュ障だし、もうなんか色々諦めてるよ。
とはいえ、見たことの無い模様と明らかな純金の質感。そして、隣国『ウルード』の文字は見逃さなかった。なにより、貨幣として明らかに不釣り合いな大きさのメダルを財布にも入れずに持ち歩くことが不自然だ。ウルードであろうがミアムであろうが、南ルヴル大陸の共通通貨を使えばいい話である。
「ちょ、ちょっと乱暴な…」
「話したら返してやるって。逃げも隠れもしねえから」
「うぅ…じゃあ、ちょっと…人目に付かないとこに行きたいな…どっか知らない?」
「あー、俺たちもついさっき着いたばかりだからよくわかってねえんだ。そこら辺の裏路地で良いだろ」
「裏路地…!」
なんでそんなとこに目輝かせんだよ。
「それと、もしかしてさっきの電車で来たの?だったら同じだね!」
緊張感ゼロか。
「…とりあえず、まずこの金貨についての説明をいただこうか」
「えっとね…あ、このことは誰にも言わないって約束してよ?」
「それは…条件次第だな。とにかく、これを返してほしければ、早くするこった」
「うぅ…わかったよ」
んんっと咳ばらいを挟み、少女は続ける。
「私の名前はアルバーニ=コルベー・ウルード…一応はウルード王国の王族だよ」
「お、王族…!?」
愕然とするエイト。他国とはいえ王族だし、当然のことかもしれない。
「んで、そのやんごとなきお方が一体どんな用事でミアムまで足を伸ばしておられるんで?」
「それは…その、追放されて…」
「追放?なにしたんだよ、あんた」
「それはちょっと…言いたくないかな…」
「あっそう。んじゃあ、その金貨は?」
「これは、みんな誕生と同時に貰う、王族の証。捨てられなくて、持ってきちゃったの」
「そうかーそれは大変ダナー…んで?返してほしいか?」
「返して…ください…お願いします…」
征服感がすごいな。頭を垂れて許しを請う目の前の少女が、さらに非力に見えて吐き気がする。
「ほらよ、興味失せたわ」
「え!?あ、その、ありがとう…」
「ん、次からはこういう輩とこういう路地には気をつけな」
エイトを促して、この場を去る。気がくるってしまいそうだった。
「ごめんな、アルバさん。こいつもちょっと素直じゃないんだ。その…夜道には気をつけてね」
マフィを犯した糞野郎の見た景色はこんな感じだったのだろうか。何の罪もない人を嬲り、己の快楽を満たす連中。自分にひどく嫌悪感を覚え、怒りすら湧いた。
「…待ってください!」
必要ないと分かっていながら、足が止まる。
「えっと、その、い、一緒に観光、しません…か?」
エイトを見る、いや、もう少女にしか目線が向いていない。
黙って踵を返し、歩み寄る。近づくたびに少女の顔がほころぶのが見て取れた。
「いいよ!行こう!」
「うん!」
こいつら、元気だな。
俺の書きたい少女像、みんな元気。




