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43 新たな旅路

お話が多め

 俺の名前はエイト、エイト=ミズーリだ。自分で言うのもなんだが、努力の秀才である。生まれた町では右に出る者のいない成績を残し、飛び級で入学した大都市ヴァートルの進学校を卒業し、こうして魔道の先進とも呼ばれるミアム公立大学への進学も決めた優等生である。そして、当の大学へ向かうべく重い荷物を背負って、ヴァートルからの列車に乗ったんだが……


 「…こいつ、ボロボロだな。どっから来てんだ?」


 「んあ?」


 「寝てたんじゃねえのかよ…」


 ぼろい外套を目深にかぶった、薄汚い小柄なガキに遭遇してしまった。


 「その大荷物、どこか遠くへ行くやつの格好ですよね。ここの国境を超えると次はミアム公国、公立大学の生徒じゃないかって声かけてみただけ、どうということもないですよ」


 「…やけに饒舌じゃねえか」


 「う、うるさい!こっちは…」


 「ダンクス出身、12歳、アズーだ」

 

 「ダンクス?あの大都会か!?」


 「ガザだ」


 あぁ…あの貧民街か…


 この国で最も力を持つ経済都市「ダンクス」の東端に位置する、世界的に見てもトップクラスのスラムだ。大規模火災があったことだけは聞いていたが、燃えるゴミが自然に燃えただけの事故だろうと考えていた。


 「ガザっていえば…この間の火事は何があって起こったんだ?なんか知ってることあるだろ」


 「…あ?」


 「火事だよ火事、何があったのかって聞いてんの」


 「あぁ…朝起きたら燃えてた、そんだけだ」


 「そうか、それいがいにもあるだろ?例えば…政府の極秘作戦とか」


 「極秘作戦があんなに派手でたまるかよ」


 「っ…!じゃあせめて何が原因かってことくらいわかるだろ?魔道事故か?犯罪か?」


 「…犯罪、じゃね?」


 「まじで?じゃあ犯人にアタリはついてるんだよな?」


 エイトは輝いた目を向けながらアズーの外套を覗いた。


 「近い、きしょい」


 慌てて制止するアズー。自分の距離が近かったことを確認して、後ずさる。


 「…なぁ、何か、認識阻害みたいな、相手から見た情報を書き換えるような魔術はないか?」


 「あー、仮面ペーストならあるけど…」


 「あるのか!その、教えちゃくれねえか?」

 

 「お、おう、わかったからいったん戻ってくれ」


 今度は逆に距離を詰めるアズー。こちらとしても魔術の話ができるのは面白いので、せっかくだし乗ってやることにした。


 「魔術書があったはずだが…まあ書けないものでもないし今書きながら説明するよ」


 「すごいな!お前も魔術書をかけるのか!」


 「入試科目になってなかったか?…もしかして、お前生徒じゃないのか?」


 鞄の上で紙を広げて、すらすらと書き出すエイトと覗き込むアズー。


 「あれを使って書くんだ、そこまでは教えられてなかった。なるほどな」


 知識欲はありそうか…さすがにミアム大生か。


 「…できたぞ、さっそく使ってみるか?」


 「ああ、助かる」


 「何に使うんだ?」


 「火事があっただろ」


 …火傷痕、納得ではある。やけに目深な外套も、近づかれたくないことも。そこまでの怪我があって金もない状況で尚、こうして学ぶ意欲があるというのだから、こいつ本当はすごいやつなのかもしれない。



  *  *  *  



 アズーは仮面ペーストを顔…瞳に発動し、外套のフードを下ろした。制限されていた光が入ってくる。ここが電車内だということも忘れていた。瞬間、体の髄が捻じ曲がる感覚、脳が捻じれる、消化管が踊り狂うようだった。視界の変化に伴って、相当な酔いが回ったようだ。とてもじゃないが動く気分ではない。


 目の前にいるのはさっき会話を交わしたばかりの、同年代ほどの少年。言葉の節々に自信が見られ、これからの大学生活に対する希望に満ちているようだった。不調を悟られるわけにはいかない。フードを掛けなおすと、念のため目を瞑った。


 「それ、効果は1時間程度だから」


 自分の目を見た一般人が何も言わないところを見るに、この黒い瞳は隠し通せているようだ。安心した。


 にしたってこのまま瞳を隠し続けて生きるのも面倒だ。どうにか他の方法はないものか。


 「もうすぐ検問だぜ、お前も入学許可書がいつでも提示できるようにしとけよ…俺は獲らねえから」


 「そうか、助かる」


 「おう」


 この子は本当によくしゃべる子だ。どことなくレイに似た雰囲気をまとっているため、少し気に入ってしまったのかもしれない。


 「ところで、お前の名前は何だ」


 「ああ、僕はエイト、エイト=ミズーリさ」

 

 「苗字持ち、良いとこの出なんだな」


 「いや…これ、僕の村の名前だ。『ミズーリ村』、カロンから歩いて二日くらいの、山間の小さな村だ」


 「じゃあお前は村の代表でここにいるわけだな」


 「そうだけど…なんか悪い?」


 邪険にしなくても。正直、俺はすごく感動しているぞ。村で一番の秀才が、出る銭全部持って遠路はるばる都会へ出稼ぎ留学に来る感じ、まさに金の卵じゃねえか。潰れなければ。


 「いや…すげえなと思って」


 「そうか…だろ?めっちゃ頑張ったんだよ僕」


 「そうらしいな」


 「君もそうでしょ?じゃなきゃガザから大学生、しかも飛び級なんて出るわけがない」


 「まあ、いや、でもお前と比べれば、よ」


 「そうかぁ?まあ、お互い頑張ろうね!」


 握手を交わす、ぬくもりが伝わる。師匠、ニース、そして前世のクラスメイト達よ、俺は今、友達を作ったぞ。


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