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38 冷える

「さて、そろそろウチにもお客さんが来る頃合いか…」


 マイザスは書斎の本棚に本を戻すと、窓から外の景色を眺めた。


「オヤジ!大変だ!軍の奴らが来た!」


 ノックもせず部屋に入ってきたのは、幹部にして筆頭護衛のジョン。


「分かった、行こう」


「オヤジは逃げてくれ!俺たちが足止めするから、早く…」


「うるせえ!アイツらは俺に用があるんだよ」


「だからこそだ!」


「慌てるなって言ってんだ。おめえ、それでも幹部か?」


 反社会組織の長にふさわしい剣幕で部下を睨む。


「…! すまなかった」


「ああ、いいんだ…なあジョン。俺たちはここで終わりかもな」


 その言葉にジョンは、ギリリ…と歯を噛み締める。


「ジミーは、どうだ?強くなったか?」


「…街のチンピラ相手だったら負けないだろう。それに、まだまだ伸びる余地がある」


「そうか」


 静かに歩き出すと、ドアを開け、呟いた。


「行こうか…最後の、歓待と手向けの祭りだ」


   *   *   *


 最近、自分の中にもう一人の自分が来た。


 その彼女(・・・・)が、あの爆発音が聞こえた時から、散々警告を鳴らしてきている。


「マフィ…怖い…」


「大丈夫、外は怖い人たちでいっぱいだけど、最初に来るのはお兄ちゃんだもん!」


「…うん」


 なんで自分がこんなに冷静でいられるのかわからない。いや、もしかしたらパニックが一周回っただけかもしれない。


 彼女は警告を鳴らし続ける、今も強まり続けている。まるで、彼女自身が怖がるように。


 こういうときでも、守るべき人を守るためなら、冷静なふりをしてでも怯えている相手を安心させようとするだろう。わたしが憧れた『兄』とは、そういう生き物だ。


 …不意に、誰かが近づいてくる気配がした。とても怖かった。でも、希望を持って見上げるしかなかった。


「…やっぱり、誰かいる気配がしたんだよ。雌ならいい。ガキでも、満足させてくれんだろうなぁ?」


 大きな、怖い、男の人だった。


「きゃあ!」


「リン!?待って…」


「逃げんな!」


 リンは逃げようとするが、先回りされ、腹部に足を突き刺される。


 あたりに吐瀉物を撒き散らし、それが男の人の靴にかかる。


「うおっ!ゲロってんじゃねえよ! …なあ?汚れちまったよ、俺の靴。責任取れるんだよな?取って、くれんだよなあ!?」


 男の人は、何度も何度もリンに蹴りを入れる。


「ひっ…」


「チッ…ゲロ臭えガキより、先にこっちを味わっておくか。いや、あっちはもういらねえか、そっちの処理が先だな」


 ナイフが刺さり、赤黒い液体が飛び出す。男の人はそれを抜き去ると、またも何度も何度も突き刺した。


 だめだ、今吐いたら私も殺される。逃げることも…できない。


「さあて、お楽しみといこうか…」


 視界に手が飛び込んで、瞬間、暗闇に包まれる。ぬめっとした嫌な感触。鼻を刺す強烈な血の匂い。そして…


 この感覚は…覚えている(・・・・・)


 二日に一回は私の布団に来た義父。黙れ、黙ってろ、と言いながら自分の中に何かを差し込み、腰を打ちつけてきた。義父は二回変わったが、その全員が儀式のように行為を強制した。気持ち悪いだけだった。あんなことに憧れを抱くクラスメイトすら、不快でしかなかった。


 触れる。刺さる。痛い…痛すぎる!?


 味わったことがない。内臓まで貫かれる感触。


「うあっ…おぇ…」


「げ!?くっせえ!吐くな!」


 大人の、男の人からの、重い拳を叩き込まれる。意識が…飛んでいく…



 ああ、さっきから警告してきていたのは、わたしの前世・・か…


 わかっちゃった?ごめんね、勝手に入ってきちゃって。


 …もしかして、わたし、乗っ取られるところだったの?


 そうかもしれないわね。急に意識が消えるのも嫌でしょう?


 うーん…でも、お姉ちゃんならいいよ! …まあ、お兄ちゃんを幸せにしてあげられるなら、だけど?


 ふふふ、ほんとにお兄ちゃん大好きなのね。ずっと見てたからわかるわよ。


 でも…もう、お兄ちゃんの側には、いられないみたいだね…


 そうね…もうすぐあなたの意識も…


 命も消えちゃうね…


 死ぬなら…ここから先は一緒に行きましょう? あなたみたいな妹が欲しかったの。あと、あのお兄ちゃんみたいな兄も…


 あなたもお兄ちゃんが好きなの? じゃあ、これからも一緒に、見守っていこうよ!


 ふふ…そうしようかな。


 やったあ! あ、お姉ちゃんの名前は?どこから来たの?


 私? えっとね…

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