4 仲間:対等で信頼出来る間柄、もしくはそういった関係
ちなみに、勇者クンに対して「マフィに友達がいない」と言ったこと、あれはウソだ。いないわけではない、が正解である。
同じく黒瞳の俺の友達でもある。・・・正確には、俺の元の体の友達、と言った方が正しいな。
どうやら不吉の象徴とかなんとか言われてる黒瞳にも口を出してこない、気のいい奴らである。俺とマフィを含む、子供たちで構成されたグループのようなものである。転生2日目にして彼らを目にした時はビビったもんだが、マフィが受け入れられている空間を見るのは嬉しかった。
このグループのリーダー格である「ニース」、やたらとガタイが良く豪快な性格をしている「ジミー」、俺と同じような背格好で柔和な性格の「レイ」、おそらくグループ最年少の元気な「ティト」、ジミーの妹で少し臆病な「リン」、そして俺とマフィ、リーダーの計7人だ。
今日はティトとレイを伴って、食料の探索に来ていた。マフィはリンに遊んでもらってる。これから行く場所は少し危ない場所らしく、レイが反対したのだ。前世の認識だと、スラムなんだからどこも危ないんだけどな。
そして訪れた路地裏は、表の通りと打って変わって不穏な雰囲気が漂っていた。なるほどね、食品を扱う店から出たゴミを拾う、というのが今日の俺の仕事か。
ぶっちゃけ、どんなものを拾えばいいのかわからない上に、この汚いゴミ箱を漁るというのだから相当キツい仕事だ。
そう思いながら、爪の奥まで土の詰まった手を臭い箱につっこんで漁ってみる。意外と色々捨てられてるもんだな。これとか使えそうだ、これも・・・
「アズー!上だ!」
「・・・ん、があっ!」
上を見上げたと同時に、宙に浮く感覚、腹部に痛みが走る。壁にぶつかって地面に落ちたことを認識した刹那、腹の前と後ろあたりから激痛を示す信号が届き、耐えきれず腹を抱えてうずくまる。半ば義務感でしっかりと握っていた袋からは、中身が何一つこぼれていない。
「ティト!アズーを起こしたら一緒に逃げろ!」
「う、うん!」
叫ぶと同時にレイが投石を開始する。
「クソッ・・・このクソガキがっ!」
店の人らしいカフェエプロンのようなものを腰に巻いた男は、標的をレイに変え走り出す。
「ゲホッ・・・大丈夫だ、俺はもう走れる」
ティトの手をはらい立ち上がると、申し訳なさそうに引かれた手をとり、一目散に走り出す。
「スイカの広場!」
「「了解!」」
レイの合図で二手に分かれる。
俺とティトはそのまま細い路地に入り、歩く人たちを避けながら道なりに広場を目指す。
レイは近くの民家の雨樋に手をかけると、壁に踏み込んだ足をバネにして建物の上に軽やかに上がる。そして、俺たちの目的地とは別の方角へ走っていった。
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「いってて・・・」
広場・・・と呼ぶには明らかに狭すぎる場所の端に陣取り、俺は腹を抱えてしゃがんでいた。
この世界、ガキに対しても容赦ねえな・・・
そう思いながらティトと一緒に、先程物色したゴミたちを眺める。
さすが生ゴミ、使えそうなものは結局何もなく、ただただ臭いだけだった。真の目的であるコイツを除くと、生ゴミと呼べる生ゴミしか残らないな。
「っと、まあ、久々にしちゃ上々なんじゃないか?」
「あ、レイ兄」
「お〜おかえり、レイ。まあそこに、さ」
聞き覚えのある声が頭上から聞こえたので、横に座るよう促すと、レイも俺と向かい合うようにしてしゃがみ込む。
俺よりもこういう経験が豊富なレイは、真剣にこれらの生ゴミを鑑定している。
「うーん、大体食えそうだ」
これがか。このよくわからない茶色いグチャグチャとか、葉物野菜の芯みたいなやつとかがか。
この生活ならしょうがないのかもしれないな、よし。ここはスラム、ここはスラム、ここはスラム、ここはス
「これなんだ?」
「ああ、なんか容器になるかと思ってな」
「いいね、こいつはカルプァの実の殻じゃないか」
「使えそうか?底が丸いから使いにくそうで、俺はいらないな」
大体、実の殻だってことすらわからなかったしな。
「欲しけりゃやるよ」
「じゃあもらってこうかな」
「おうよ」
なんて言葉を交わしていると、くすんだ色の風景の中で一層見栄えのする赤い軽鎧を見つけたので、小走りで近寄ってみる。
「おい、そこのイケメン勇者」
「ん?俺のことか・・・ってお前は残念なガキか」
お互い名前で呼び合えないので、口の悪い応答になってしまう。
「なんか用か?」
「お前こそ用ないのにこんなところ来んのかよ」
「ははっ、違いないな。いや、お前になんかやろうかと思って来たんだ」
「へぇ、嬉しいね。じゃあ、あれくれよ、大豆」
「お、いいじゃん。お前の好物だったな。次来た時に持ってきてやろう」
「助かる、家まで来てくれよおっと」
上から後ろ襟をつままれたのか、体が宙に浮く。
「ちょっと君、いくら勇者がかっこいいからってあんまり話しかけないの。彼はいそがしいのよ」
「っはは、なんかどっかの子供になっちゃった探偵を思い出すな」
「笑ってないでこの手を退けさせろよな、首が締まってんだよ・・・」
そんなやりとりを交わしていると、待たせているティトとレイがやってくる。
「お兄さん、派手な格好だね。勇者なんだ」
「ゆうしゃ!?すごい人!?」
「ああ、ティト。コイツはきっと多分おそらくすごいんじゃないかと思うぞ・・・離せっ」
首にかけられていた手をどかして、着地する。
こいつは何かしらで特別だから、勇者なんて地位にいるみたいだし、こんな美女を小脇に抱えてるんだと思うぞ。俺は胸がでかいだけの女はごめんだけどな。
「おにーさん、もう行かないとまずいんじゃない?」
「そうだな、あの方は気が難しいから、できれば遅刻はしたくない・・・」
頭を抱えるイケメン、様になってやがる。
「じゃあね、君たち。病気には気をつけてね」
「次はちゃんとした時間作ってやるから、それまで死ぬなよ?黒髪のボウズ」
「うるせえな、わかってら」
「じゃあね〜」
ティトは無邪気で羨ましいぜ。