35 襲撃
ある寒い日…と言っても、暖かい気候のため体感温度は10度を下回らない程度の日。
「よし!」
「すげえなアズー!」
俺と師匠は、張り紙の前でハイタッチをした。合格発表の日だった。
「…お前、勉強できたんだな」
ニアフックのジゼル先生も、遠路はるばる(たまたま)来てくれていた。
来たる春月の十日までには、身支度を済ませてガザを出ることが決まった。入学金に関しては、マイザス直々に了承を得てブルペスタの金を使うことになっている。その他授業料の類は全て無償だそうで、そこも選んだ理由の一つだった。
諸々の必要書類を貰って、俺たちが帰ろうとしたところだった。
レイとジミー、ティトは、ガザの大人連中と喧嘩に明け暮れていた。
マフィとリンは、アズーの住む家で遊んでいた。
ニースは、ガザとナイの境にある店で買い物をしていた。
冒険家クラン『野原のハイエナ』は、ガザのアジトでいつも通りの活動をしていた。
マイザスは一人、拠点の執務室で呟いた。
「しくじったな…」
それは突然やってきた。
強い閃光。鳴り響く轟音。驚き、振り返った者の目に映るのは、空に立ち上る黒い煙。
「なんだ…あれは…」
「アズー、様子を見に行こう!」
「ああ、みんなが心配だ」
方向オンチのおれでもわかる。あれはガザで起きた爆発だ。それの原因はわからないが、ただひたすらに、マフィ含めた仲間たちの安否が気になった。
「付き合わせちゃったな、先生」
「いいのさ。こりゃあもしかしたら一大事かもしれねえ」
「ジゼル、これ持てるか?」
そう言って師匠が差し出したのは、俺の入学に必要な書類と金。
「お前の家の地下室にぶち込んでこい。そしたらちょっと…助けてくれ」
「…フゥ、わかった。言う通りにしよう」
「アズー、こいつの家はわかるな?わかんなくなったら、その辺のチンピラに聞きゃわかるとは思うが…」
「なあ師匠、どうしてこんなに急いでるんだ?」
「…着けばわかる。戦う心構えだけしとけ」
今更だけど明らかに不自然だよな、この師匠の焦り様は。本当に何かあったのだろうか。マフィ、みんな、無事でいてくれ…
* * *
「リーダー、なんすか今の爆発」
「分からねえ。だが、確実に民間人に被害が出たろ」
リーダーと呼ばれた男『ライノ』は、焦りを隠すために、努めて冷静に対応する。
「仕事っすか?」
「ああ、みんなを集めろ」
そうして人が集まった執務室。
「ジョズの班は避難誘導。他の連中はスペクトの指示に従って救出作業に移れ」
「「おう!」」
指示が行き渡ったことを確認し解散の合図を出そうとしたその時…
ドガッ!
ドアを蹴破る音がした。
不審に思いながらも、部下を連れてホールに行ってみると、自分達と同数ほど、約40人の軍人が立っていた。
「悪いなお客さん。俺たちはこれから救助活動に行くんだ。そこ、退いてくんねえか?」
相対するは、軍人連中を率いた若き将校。
「あーごめんね、突然お邪魔して。僕はアメリゴ、第三の…ああ、言っちゃダメなんだっけ、これ?まあいいや」
「第三?ああ、なら遠征帰りのとこすまんが、手伝っちゃくれねえかい?」
「なるほど、君たちは今から救助活動をするのか」
「そう言ってんだろ?こっちは急いでるんだ。はやく…」
「そうか、救助、救助。耳に優しい言葉だねえ。でも僕らは、君たちを検挙しなきゃいけない。どうしようか」
「は?俺たちがなんかしたって言うのかよ」
「そうだね、よし、じゃあこんなのはどうだろう。君たち冒険者は、ガザの街で爆発を引き起こし、そに混乱に乗じて暴れるところだった。僕たちはそれを未然に防ぐために調査しようとし、君たちの抵抗に遭ったため、正当防衛により殺してしまった、なんてどうだろう?」
「…ッ! お前ら…」
何かを悟って仲間の方へ振り返った刹那、仲間の頭を剣が貫通し、吹き飛ばされる。
「ジョズ!」
「やっちゃえ」
襲い掛かる屈強な軍人たち。怯え、困惑する自分の部下たち。出口は正面と裏口のみ。頼むからアイツだけは、バレないように脱出してくれるといいが…
「クソッ…戦るぞ野郎ども!」
武器である小さな槌を構え、ライノは叫んだ。




