34 勇者の戦い方
真っ直ぐに、ただひたすら真っ直ぐに敵を目指す。あちらもそれに気づいたようで、盾となる兵士が増える。
「通すなっ!」
「邪魔だよ、『爆砕』」
豪快な爆発音と共に前方一帯が砕け散る。見栄と対物破壊に重きを置いた、派手さ重視の魔道。
敵の人柄は事前に調査してある。ここまで目立てば間違いなく…
「おめぇがァ!大将かァ!?」
やはり来た、筋肉と暴威の塊。おそらく先ほどのバリスタも、こいつが投擲したものだろう。この世界の人間は、得てして人ならざる能力を持っていることがある。それがこの世界の標準である以上、慣れなくてはならない。自分も十分に化け物だということも理解しいるが故にだ。
「ジュエニ王国第十一大隊隊長、ファウスト」
「リュブリヤナ共和国遠征軍軍団長ォ、カンロだァ!」
名乗ると同時、互いの武器が火花を上げてぶつかり合った。敵の武器は矛、デカブツにはお似合いだな。
「さすがは勇者だなァ…そのヒョロい剣でようやるぜェ」
「腐っても将軍だしな。鍛治の技術においても、ジュエニは進んでるぞ」
「ますますッ!奪いてえなァ!」
豪快な突き。正直受けるだけでも手一杯なのでなんとか受け流す。
「強いな…こうなったら、『複思考』」
精神魔法(生魔法の一種)で思考速度を上げ、一時的に同時並列思考を可能にする魔道だ。使い始めて間もないため、せいぜい1.5人分ほどの思考量にしかならないが…十分だ。
「なんか変わったかァ!?」
「その身で体感しな」
片方の思考が剣を振るい、常に最適な位置取りから反撃のチャンスを作る。もう片方の思考が担うのは、魔道による攻撃と補助だ。
「『岩砲・旋』『岩砲・曲』『岩砲・扇』…これを『複写』『多重複写』、そんで『舜天・昊』」
「うおおおおおォ!?」
流石のデカブツも狼狽えた様子を見せる。単純な剣の腕なら互角。あとは魔道で倒し切るまで。
「くっ…この…ちょこまかとォ!」
定期的に襲い来る乱舞攻撃。巻き込まれちゃたまらないので、反射的に距離を取る。が、そんな時間稼ぎに意味はない。
「『舜天・轟』…『舜歩・鳴』!」
瞬時に間合いを詰め、フェイントを挟み死角へ移動、大きく切り払って相手の腕を切り落とす。
「があああァ!?」
「『舜天・疾』!」
やぶれかぶれの一撃を跳んで避け、空を蹴り一閃。
相手の首が空に舞うのを見届けて、剣についた血を払う。
「強かった…『舜歩』」
指揮官殺しまでが役割である。他を相手できるほど体力も残ってない。
「クソッ…撤退準備だ!」
敵の副官らしき奴の声が聞こえた。
* * *
開いた窓から指揮官室に突っ込むと、部下に命令をしていたスミレが、驚いた様子で駆け寄ってきた。
「これは…全部返り血か、よかった」
「ああ、あとすまねえが、そこのソファ使っていいか?」
「ああいいよ…そりゃあ疲れるだろうさ。一体何してきたのか知らないけどね」
敵を瞬殺するために、短時間で魔道をバカみたいに使いまくった。我ながら、疲れて当然だと思う。あとそろそろ鎧が邪魔だな。
「獲ったのかい?」
「確実にな」
この世界は、圧倒的に強い『個』の存在がある。故に、俺たち冒険者のような軍があると言っても過言ではない。今回の作戦も、あちらの世界では成し得ない、というか考えられもしないだろう。
「よし…『猛鷲』に追討命令!到着し次第、『山雉と野兎』に準ずる部隊は撤退しな!」
「手際も速い。やっぱ指揮はお前が適任だな」
「そんなことないさ。セリアとかのほうがもっと…」
「姉御!失礼しやす!緊急です!」
「なんだいキッカ?言ってみな」
スミレの部下であるキッカは、将軍の俺がいることに気づきもせず、慌てながらも報告する。
「『野原のハイエナ』…ガザの駐留部隊からの急報で、第三大隊からの襲撃を受けた、とのことです!」
「…はぁ!?どういうことだよ!」
「落ち着けスミレ。誤報の可能性は?」
「しょ、将軍…あ!はい、あの、き、急報を示す暗号を同時に受け取りました」
この大隊では、急報と訃報にそれぞれ暗号がある。悪戯を防ぐためだ。
「…今はとにかく情報が欲しい。スミレ、全軍に撤退命令を」
「あいよ」
「キッカ、申し訳ないが、『黒烏』のフォードに調査命令を出しに行ってきてくれ」
「り、了解しました!」
こういうときに怖いのは、背後からの襲撃だ。ロニアに『白鷺』と『斑鳩』、シビリティアには『山雉と野兎』と『猛鷲』、『黒烏』、『紅孔雀』に任せるか。
さて、ここからダンクスまで3000kmほど。こっちの世界の乗り物で街道飛ばしても、二日ほどかかってしまうか…
紺野…無事だよな…




