33 防衛戦
「前線の街『ロニア』に敵襲です!将軍!」
突如として開け放たれたドア、焦る部下の報告。
「わかった。『山雉と野兎』に迎撃命令を。現場の指揮はスミレに一任する」
「り、了解!」
対応の速さに面食らった兵士だったが、すぐに現場へと向かっていく。
ファウストは今、シビリティアから南に3kmほど、街道沿いの砦で指揮を取っていた。なにしろ、宣戦布告を受けた翌日に攻め入られているのである。しかも、国からの援軍は送らないとのこと。
ふざけてるとしか思えない。国境地帯であり、現に今攻められている。軍隊の頭数は等しいとはいえ、守るのは大規模な戦闘に不慣れな冒険者たちだ。そしてここはシビリティア、かつてジュエニが一国を滅ぼしてまで獲得に奔走した鉱山地帯。
…俺たちを、冒険者を殺したいなら分からない話ではない。
「セリア、『白鷺』『斑鳩』にここの守りを命令してきてくれ」
「了解」
「ナスル、『猛鷲』に遊撃戦の構えをとるように」
「うす」
「ミイニャ、ディックは俺と一緒に前線の後詰めだ。セリアとナスルとは向こうで合流。全員、『ヒナ』を連れてこい」
「りょ!」
「了解っす」
近代風の世界観とは裏腹に、敵も味方もめちゃくちゃに原始的な進軍の様子である。
今回の作戦は、各所の集落を狙う敵に対し、自陣に誘き寄せながら各個撃破するといういたってシンプルなものだ。小さめの集落にはその日のうちに避難命令を出したため、『ロニア』のような比較的大きい町での迎撃戦となる。
「やるぞ」
* * *
ロニアの防衛戦は何度も崩壊しかけたものの、スミレ直属の部下による立て直しのおかげで壊滅的な状況を免れていた。
「俺、現着」
「ああ、あんたはナスルって言ったっけ?」
「ご名答。スミレ殿、今一番守りが薄い場所はどこだ?」
「とりあえず…最新の情報なら、アリミラロニア地区かね。地図で見ると、ここら辺だよ」
「了解した」
さっさと用事を済ませるために移動したナスルを見送り、スミレは一つため息をついた。
「ふぅ…あたしも前線で戦りたいのに」
「おう、そりゃすまんな。お前が一番適任なもんでさ」
「ひゃあっ!? …将軍かい。驚かせんでくれ」
全く気付かなかった。思わずありったけ可愛い声が出てしまったのが、本当に恥ずかしい。
「はは、悪かった。敵の頭が出てくるまで俺は待機だが、他の奴らは戦線に行かせた。多分お前の指示を仰いだのは…ナスルだけだろうな」
正解。他でこっちが押してる箇所があるのは、そういう理由か。
「将軍の直属部隊、『鶴首』だっけ?すごい働きだね」
「そんなに褒められると俺も嬉しいな。あいつらは、お前ら『雄鳥』と比べても張り合えるくらいの実力はあるからね」
『雄鳥』、将軍直属のクランを除く、鳥の名前を冠する九つのクラン、又はそのクランの大将である、自分を含めた九人の総称である。
「その名に恥じぬよう、前線に馳せ参じたいところだが…我慢して守りについてる奴らもいる。ここはあたしもここに留ま…」
突如飛来した矢…矢と呼ぶには大きすぎるものを切り落とす。攻城弩か?
「そんなに近くには来てないだろ、奴さん」
「ああ、そのはずなんだが…」
「あー、向こうに敵の頭っぽい奴が現れたな…ちょっと、行ってくる」
「えっ、大将…全くどいつもこいつも、それに狙われたのはあんただよ…」
眼下の街に降り立った自分の上司が、恐ろしい速さで駆けてゆく様を見ながら、彼女はまたも大きくため息をこぼした。




