31 喧嘩の作法
…なんか色々拍子抜けした。
まず一つ、正式な試験のつもりで来たのに、やったテストの管理があまりにズボラだということ。
案内されたのは個室。見たときは科挙のようなハードなものを想像していたのに、一科目あたり30分ほど。しかも、『文章』『数学』『科学』『魔道学』『歴史』の五科目だけ。
二つ目にそのレベル。師匠から教えられた内容の五百倍簡単だと思う、あれは。前世の基準で見ても、中学校レベルのことしかやっていない。
あ、文章の課題文は面白かったです。ただ、問題の内容が表現技法に関わる話ばかりだったってこと除けば。
ちなみに、即日採点即日返却でした。ばっちり合格、割とちゃんとした合格証まで貰っちゃった。カンニングでもしてほしいのか?
「おお!おかえり、アズー!試験はどうだった?」
「どうだったも…クソも…あるかあああ!」
「うおっ、あぶねっ!」
やけくそな拳と、避ける師匠。笑顔がすごくムカついたので。悪気しかない。
「なんだよあんな簡単な問題!そういえば師匠、最後まで問題形式も何も教えてくんなかったもんな!」
「待てっ!悪かった!それはすまん!」
「心配して損したぞ!」
「よ、よかったじゃねえか!簡単だったのはよ!」
「…それもそうだけどよ」
「とりあえず帰ろうぜ」
「…フン、そうだな」
「まだ怒ってんのかよ」
「もういいさ、早く受験勉強だ」
そうして俺たちは、フェスタシアを後にした。
* * *
「なあニース、これからニアフックに行くのはいいけどさ、そこの喧嘩集団はアホみたいに強いらしいぞ」
「ん?関係ないね、俺たちなら勝てる…と言いたいところだが、アズーの言うことだ。まず間違いなく強いんだろ?」
「うん…まあ、人から聞いた話なんだけどな」
「少しの間でも向こうに居たやつの話だ。まあまず合ってるだろ」
この、自信に溢れながらも仲間への信頼を隠さない感じ…こいつ、絶対モテるよな。身内に兄貴べったりな妹組二人しかいないってだけで。
そうして着いた、ニアフック。多分年上のロン毛オールバックが出迎えてくれた。
「なんだァ?おめえたちかァ?今日挑もうって言うお客様はァ?」
「早く案内してくれ、間伸びした声が鬱陶しい」
「ギャハハ、威勢のいいチビが来たなァ!五名さまご案内だァ!」
とーっても柄が悪い。ガキ同士の単純な掛け合いじゃない。喧嘩に強いと言うよりは、チンピラとしての格が上な印象だ。
…それに対して余裕の表情を見せるニース、レイ、ジミーの三人も怖い。ティトも喜んでる…のかな?
帰りたい、胃が痛くなってきた。
「チビども、よく見ろ!これがお前たちの戦う闘技場だ!」
「すごい!すごいよレイ兄!」
「確かに本格的だ…!」
そこは、もともと倉庫として造られたのだろう。吹き抜けとなっている中心部が広場となり、ギャラリーはチンピラで埋まっている。体育館を思い出すような形だ。これから公開処刑始めますよーって感じね。うん、帰りたい。
「さて、ちびちゃん達、タイマンがいいか?団体戦がいいか?」
「団体戦で、とっとと終わらせよう」
「いよし…ライム!マシュ!ラインハルト!シャクヤク!シン!…そんでもって対するはお前たちか」
呼ばれた男たちがギャラリーから飛び降りる。全員年上、身長なんか20cmくらい差があるんじゃないだろうか。
「上等だ…やろうぜお前ら!」
「「おう!」」
はあ、やるか。
「そんじゃ、始めえ!」
ギャラリーの誰かの合図で、全員が距離を一斉に詰める。五対五だから、最初はタイマン形式を強いられるか。俺の相手は…
「お前がいちばん!弱そうだなあ!」
「うるっせ、気にしてんだよ」
飛んでくる筋肉たっぷりお兄さん。速さこそティトの方が速いが、やはり体躯の差もあって、一際大きく見える。
「フンッ!ホッ!ドラァ!」
一発にかかる力が大きく、正直食らいたくないから距離を取って…
「逃がさん」
追いが速い。見て、避けて、位置取りを考えて、反撃を考えて、その間にも見て、考えて、避けて、を繰り返しており、頭がパンクしそうだ。
「フオッ」
奇妙な掛け声と共に迫る拳を見て、体を無理に仰け反らせ避ける。それを見逃さない相手の、渾身の回し蹴りが視界の端に映る。
が、足の力を抜き地面に倒れた俺に対して、その蹴りは空を切った。倒れながら相手の軸足に蹴りを入れる。
「うおっ!…ってめえ!」
倒された相手は逆上し、後は簡単だった。口にこそ出さないものの、相手の攻撃を揶揄うように躱し、攻撃を入れていくだけ。自分でも何分経ったかわからないくらいの長い時間の果て、こんな非力な攻撃でもダメージは入るのだろう。相手は動かなくなった。改めて、自分にそれなりにスタミナが備わってることに感謝した。
だがここで終わってはいけない。すぐに他の仲間の援護のために振り向き…
「そこまでだ!」
野太い声。どうやら俺たちが最後だったようだ。後ろでは仲間が笑顔で立っていた。




