29 街角にて
転生してから三回目の冬月に入った。明後日には卒業認定試験がある。それが終わったら来週には出願、再来週には試験だ。
「じゃあ師匠、ティトのとこ行ってくるから」
「おう、夕飯までには帰ってこいよ」
「あいよ…なあ師匠」
「なんだ?」
「俺さ、こんな自由にしてて大丈夫なのか?もう一週間くらい勉強してないぞ」
「あー、そんなら問題ない。お前ならな」
「いまいち自信にならん…」
「いいんだよ!子供は遊んでなんぼだろ?」
「俺ら修行させといてよく言うぜ」
「細けえこたぁ気にすんな!」
「うるっさ。行ってくるよ」
「ん、いってら」
実際不安しかない。最初の方こそ数学だの軽い科学だのやったりしたが、最近は魔術と歴史しかやってないし、その勉強量も少ない。自分でできることと言っても、毎日枯渇するまで魔術を使うくらいしかしてることがない。何もかもがない。
「アズ兄!」
「おうティト」
互いの名前を呼び合った瞬間ティトが駆け出し…瞬間、目の前に拳。左足を下げ、体の向きを斜めにすることでなんとか避ける。そのまま腕を掴んで…そこにあったはずの腕はなく、またも飛んでくる拳。手を出すのを諦めて、三発連続で来た拳を避けて間合いを取る。
「うへー速え。腕上げたんじゃないか?」
「アズ兄こそ、頑張ってるのに当たらないよ」
「そりゃあ、痛いのは嫌だからな」
俺たちは会うたび、こうして手合いをしていた。まあもっぱら、こうしてやりあうのはティトとだけで、他の三人は次元が違うからやってないんだけどね。
「こっからはちゃんと受けるからさ。やろうぜ」
「うんっ!よろしくっ!」
言いながら突撃するティト。年上としての威厳にかけて、アホみたいに速く多彩な拳と蹴りを必死に捌く。
ティトは軽い。肉体年齢的に三、四歳は離れてるから当然なのだが、こうして年長者とも渡り合うために、自重の軽さを巧みに利用している。フェイントなどを多用するテクニカルな戦い方ができるのも、この歳にしてすごいと思う。それもこのクソ悪い足場で、だ。ちなみに俺たちは、人がすれ違えるくらいの細い路地でバトっていた。舗装もされていないから砂っぽいし、傾斜もついている。
対する俺の方は、前世より格段に動きやすく…ん?
「ティト、ちょっといいか?」
「ん?わかった」
そして少し間合いを取る。力の限りで上に跳ぶ。
「うおあ!高え!」
想像の五百倍高かった。齢十二にして垂直跳び200を超えたんじゃないか?ちなみに、さんざん吹っ飛ばされて宙に舞い上げられてきたから着地だけはお手のものだ。
「アズ兄楽しそう!ぼくも!」
つられてティトも跳ね…は?マ◯オかってくらい高い。まあ、五人の中で一番運動神経悪い俺がこの高さなら、それはそうなるわな。
そう考えると、前世ではアスリートになれそうな膂力を手に入れた可能性が高いな。ただ、師匠の教え方が良いのか俺たちの肉体がすごいのか、で言ったら間違いなく後者だろう、師匠には悪いが。
つーことは、そこら辺のチンピラから軍の兵士に至るまで、ことごとく前世の基準じゃ測れない世界なのか。誰でもアスリートクラスの身体を持つ世界、少し楽しみだ。
「じゃあアズ兄、続き続き!」
「お、おう。わかったよ」
そうして再開する俺たち。もしかして、前世ではもはや子供の喧嘩じゃないレベルのことをしているんじゃないだろうか。
やっぱり転生してよかった。今帰ったら死にたくなるんじゃないか?大袈裟かな。
* * *
「そうか、アズーは高等に行くんだな」
「らしいぜ。まあお前も入隊試験近いけどな。第三だっけ?」
「そうだけど、どうかしたか?」
「いや、なんか最近、王都に帰還したって噂があったから」
「へえ、そしたら、試験のときゃ楽だな」
そう言い合いながら拳を交わす影が二つ。レイとジミーである。そしてそれを見守るのは、リンとマフィの妹組。
「マフィ、アズ兄遠く行くらしいよ。どうするの?」
「それもそうだよね。うーん…」
ひとしきり悩んでから口を開く
「うん、ここに残るかな」
「ついて行かなくていいの?」
「だってわたし、学校いけないじゃない?行ったらお兄ちゃんの迷惑になっちゃうよ」
「…そう」
「だからずっと一緒だよ!リンちゃん!」
そう言ってリンに抱きつくマフィ。
一瞬、ほんの一瞬だけ寂しげな表情を浮かべたことを見逃さなかったが、それ以上に何かを悟ったリンは、何も言わずされるがままにされていた。




