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「・・・何の用だ」
いつも通りのマフィミサイルで起きると、水を作ろうとしていたところにそいつらは現れた。
勇者一行(一人)である。
「おう!朝早くからお邪魔してすまんね、セリアは朝が弱くて起きれなかったから連れてきてないよ。あ、昨晩は部下に尾けさせてもらったよ」
「連れの問題じゃなくて、お前が何の用で来たのか聞いてんだよ。あと、さらっと尾けんな」
「いや、まあ、その、なんだ、その前にそこのお嬢ちゃんを・・・どっかへやっとくことはできないか?」
なるほど、尾けたことに対する謝罪は無し、と。
「こいつがいて話しづらいと思うなら気にすんな。俺にもマフィにもあいにく、友人も家族もいないんだ」
昨日歩いているなかで多数の子供たちをみたが、どの集団にもマフィは寄り付かなかった。というよりは、避けていた。理由はなんとなくわかった。この世界では黒髪の人は居れども、黒い瞳を持った人がいないのである。忌み子、とでも言うのか。
この金髪で青い瞳のイケメンもマフィの瞳を覗いて察し、これ以上は追求しなかったことで確信した。
「わかった。じゃあ、本題に移らせていただくね」
「おう」
その間マフィは、胡座座りする俺にくっついたまま黙っていた。このイケメン・・・勇者も薄汚れた布の上に腰を下ろすと、口を開いた。
「僕たちは、一度現世で死んで、この世界のなんかしらの命に取って代わった。早速だけどここで疑問がある。紺野くん、君は何月何日の何時頃、どうやって死んだかを覚えているかい?」
「・・・まず、前世の名前で呼ぶのをやめろ。俺はアズーだ。お前のこともファウストって呼んでやるから」
「ああ、ごめんね。そこは俺の浅慮だ、悪気はないんだ」
「質問に答えると・・・たしか8月15日の、昼過ぎだったはずだ」
新刊の発売日だったからな。読ませてもくれなかったが。
「・・・転生してから何年程経った?」
「今日で3日目だ」
「!マジか・・・今何歳だ?」
「8歳前後じゃないか?誰も知らないからな。・・・お前もしかして、相当前からこの世界にいるな?」
「ああ、俺が死んだのも8月15日のお昼時なんだ。そして俺は、転生して2年が経っている。勇者に任命された瞬間らしく、転生先は17歳の体だ」
「なるほどな、転生先は人によって違いがある、と」
「・・・お兄ちゃん、もしかしてお兄ちゃんじゃないの?」
その声に俺はハッとなる。そうか、俺はマフィにとっての兄貴をぶち壊してここに居座っている。当人からしたら、とてもじゃないが許せるような状況じゃないだろう。マフィは賢い、故にこの会話から理解してしまったのだろう。自分の兄の正体を。
「お兄ちゃん」
「はい、ごめんなさいマフ・・・」
「だいすき!!」
本日2回目のマフィミサイル。
「ぐへぇ・・・いてて、嫌いに、ならないのか?」
「ううん、なるわけないじゃん!マフィが好きなのはね〜お兄ちゃんだけだから!」
健気だ、と同時に、滲み出る寂しさも目に写った。
俺は、この子を守らなくてはいけない。そう、強く心に誓った。
「・・・えーっと、話を進めてもいいかな?」
勇者クンの一言で、俺たちは我に帰る。
「そ、そういえばさ、他のクラスの連中は転生してきてないのか?」
「あー、たしかに見つけたのは君だけだね。一応俺自身それなりに王国の偉い立場にいると自覚してるんだが、他の転生者らしき人は一人も知らん」
「へぇ〜・・・王国?この世界はどう言う構造なんだ」
「えっとまず、ここが・・・」
そんな感じで彼の話を一通り聞くと、いつのまにか昼時になっていた。その間マフィは口を出すこともなく、ただ俺たちの話を聞いていた。偉い。
端的にまとめると、この世界には南北に伸びた形をしたルヴル大陸、ルヴル大陸の半分ほどの大きさの東ルヴル大陸、別名「西ルヴル大陸」とも呼ばれるアーシャ大陸、この世界の南部の陸地の大部分を占めるアンタルヤ大陸の四つの大陸と無数の島があり、大小合わせて75の国と地域があるらしい。
俺たちがいる国は「ジュニエ王国」といわれ、経済規模だけで見ても五本の指に入り、東ルヴル大陸では無比の大国らしい。そしてこの街は、王都「カロン」に近い経済の中心地「ダンクス」の貧民街「ガザ」というらしい。
現世の「ファベーラ」を思い出すな。
あとは政治の体系とか現状、各地の気候や文化の特色なりを教えてくれたんだが・・・そもそも行くかどうかすらわからないので記憶の中に留めておいた。勇者としての仕事で行くらしい。
てか魔王いないのに勇者なんだね。
いや魔族やその国家なんてのもあったりするらしいけど、敵対してるわけじゃなさそうだし。
あとは勇者についても教えてもらったけど、職業とか・・・この世界のファンタジックなあれこれについて、は来週あたりに巡礼してくるであろう僧侶に聞いた方がいいそうだ。
ついでのお土産に、『超培養』の魔道書(紙一枚)をもらってしまった。ありがたい。
女神様とかいない分、こういう先人たちの情報があると異世界人も生きやすいね。どの異世界もこうであればいいのに。
とかなんとか考えながら、勇者クンのお土産の魔道書を拝見してみた。
『超培養』
魔力を栄養と光と水に変換し、植物に与えることで植物の成長を1〜10分間、約4320倍早くする。
執筆者:ファウスト=ナイトホーク
・・・ん?チート?
要するに、植物の成長を1分=1ヶ月にするってことか?
さすが勇者だな、これさえあれば農業問題オールクリアだ。それでもなお、俺たちガザの子が食に困るくらいだから、異世界語——俺たちから見た現世の言葉——で書かれているんだろう。
そう言えば俺、いまだに言語の問題に直面してないな。俺の書いた言葉は・・・こんな環境じゃ読めないのも当然だろう。いずれわかることだ。
「お兄ちゃん・・・」
「お、どうした?」
「お腹すいた」
ですよね。俺も。
この環境下では一日一食とか普通らしい。そういえばまともなもの食べてないな。一昨日の夜、元気を出してもらうためにと奮発したらしいあの干し肉は、現世にいる頃なら食べようとも思わなかっただろう。およそビーフジャーキーの圧倒的下位互換みたいな辛いそれは、あの日は空腹パワーとマフィの愛で美味しく感じられたんだ。
そして、今日も飯を探しに街へ出る俺とマフィだった。