22 スパルタってこういうことなの?
明朝、文字通り叩き起こされた後、実践形式で殴られたら痛い場所の説明をされた。その後、正中線の突き方、人の骨を折る方法などを教わった。
そう、かなりきつい喧嘩のレクチャーを受けているのである。棒術というよりは体術ってのは、そういうことね。実際役には立ちそうだけど、貧民街なら尚更。
まあ実際殴る蹴るの演習もしましたよ。ジゼルとかいうあの男、捌き方から避け方、果ては受け方まで完璧すぎました。
痛めつけるつもりで殴ろうが、精一杯の速さをもって拳を突き出そうが、素人が考えるそれなんて所詮子供の遊びである。なんというか、一般人はどうやっても達人相手にはダメージを与えられないこと、自分が他の人と違うからタイマンなら勝てるとか思わないこと、などを教わった気がした。
「そういえば先生、棒術ってどういうことですか?」
痛む腕に顔を顰め、這いつくばりながら聞いてみた。
「ん?ああ、そんなことも言ったな」
「要は」と言って近くに落ちていた竹?のような植物製の棒を拾い、それはもう見事に振り回した。
「こういうように、その場にあるものを使う術だ。まあ棒だけじゃなくでも、槌、鎌、盾、もちろん剣でも使えるようにしてやる」
「おお〜すげえ!もうそれ万能じゃん、最強じゃん」
「まあ、素人には勝てるけど、その道を極めんとする人には勝てない、くらいだけどな」
「その分相手にとってやりづらい武器で戦うか、ころころ変えながら変則的に戦えばいいんじゃない?」
「よくわかってるじゃねえか、この技の真髄を」
マジで当たり?やったぜ。
とはいえ、どんな武器でも使えるようになるのは嬉しいな。俺の錬成魔法とも相性がいい。
「・・・燃えてきた」
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こうして、昼は修行、夜は勉強の超ハードスケジュールが始まった。
元々、俺は努力するのが嫌いな質ではないらしい。地道な筋トレや基礎的な事項は得意分野なので、ちゃんと気合入れて頑張った。とはいえ、現実の世界じゃほとんど縁もなかった喧嘩は、新しいことばっかりだし、痛いし、少なくとも俺にとってはキツイです。
そんなこんなで修行を続けて八日目、俺はチンピラ二人に絡まれていた。
というのも、午前中の修行を早めに切り上げたと思えば、表の繁華街「キッタイト」の裏路地に一人で行け、と言われたのだ。ちなみに絡んでくる原因は、先生が身につけるように命令したこのよくわかんないキラキラした装飾らしい。扱いがカラスのそれだよ。
「おう、坊ちゃん、悪いことは言わねえ。大人しくそれを置いて逃げな?」
「じゃないと痛い目見ることになるぜ?」
当の俺はというと、情けないことに何も言えず固まっていた。そして、必死にこの煌びやかな争いの種を守っていた、と思う。「盗られたらボコボコな?」と脅されているんだよ、仕方ないだろ。
「よーし、じゃあちょっと、痛い目を見て・・・もらうかっ!」
言いながら殴りかかってくるチンピラその一。目を瞑りそうになって、先生の言を思い出し、渾身の力でもって目を見開く。
・・・見える。
その拳を紙一重でかわすと、そのチンピラはどれだけその拳に体重を乗せたのか、前に倒れそうになりながら慌てて姿勢を戻した。
「・・・あ?この・・・ガキィ!」
そっからは本気だった。大人の長い手足による蹴りや拳が襲ってくるが、それらを全て必死に避ける。
戦えるかもしれない。先生に教わったことは無駄じゃない。
相手から間合いをとり、肩から力を抜いて、やや斜めに構える。そして、今度はラリアットで襲いかかってきたチンピラに対して、一矢報いようと腰を落とし・・・落とした腰に人の脚が当たる。刹那、胸部を襲う激痛が全身を走り、一度味わったことのある、宙に浮く感覚を再び味わった。
かなり強めに吹っ飛んだ様で、壁に叩きつけられたせいか息ができなくなる。涙で滲む視界には、近寄ってくる男が映る。
「なあガキ、鳩尾ってどこにあるか知ってるか?」
何か言っている、逃げなきゃ。そう思うが、体が思う様に動かず・・・腹部に強烈な一撃。異世界に来てフリーフォールを味わった直後、今度は地面に叩きつけられる。咳き込むと同時に込み上げる吐き気。体を起こすことも叶わず、横を向いたまま、吐瀉物を撒き散らす。鼻に刺さる臭気がさらなる嘔吐を助長する。
「くっせえ!クソが・・・これでよし、と。じゃあなガキ、こいつはもらってくぜ」
宙に浮いたまま首のソレを外され、持ってかれる。体は用済みとばかりに地面に投げ捨てられ、意識が白い海の中に沈んでいく。
ああ、マンガみたいにはいかねえんだなあ・・・




