21 たらい回し
ある日の授業を終えた午後。ゴンッゴンッと何かがぶつかり合う音が聞こえる。
どうやら、ニースとレイが剣術の稽古をしているようだ。
「なあ師匠、剣、やってみたい」
「は?お前がか?やめとけそんなもん」
「なんでだよ、かっけえだろ」
剣、それは憧れである。剣の心得のない異世界、それはもう異世界ではない。魔法と剣を同時に使えてこそ、真の異世界が大成するのである。
「ふーん。生憎だな、俺が教えられるのは棒術と短剣術しかねえ。ああいった片手剣や大剣みたいのは性に合わねえからな」
「筋肉がないからだろ」
ぐっ、と唸り、体全体で図星を表現してみせるキール師匠(笑)。
「しょうがねえだろ、俺は元々研究魔道士だ。こんなとこに来なきゃ実戦すらまともにしないんだぞ」
「どっちもできるに越したことないだろ。それに俺は、棒術とかでも全然アリだけどな」
「お、マジか!んじゃあ特別に特別な俺が教えてやろうじゃんよ」
師匠、最近俺の影響で「マジか」を使うようになってしまった。すごい便利だもん、この言葉ない異世界不便だよ。
「早速明日から稽古だ。朝は早く起きろよ、楽しみにしとけ!」
…という経緯があってやってきたのがここ、『ニアフック』という場所。ガザのお隣、ナイの貧民街である。ちなみに、ガザの貧民街はガザだ。地区全体が貧しいからね。
連れて行かれた先で出会ったのは、肩まで伸びた髪を紐で結んでいる長身の男。体格がキールと同じであるためか、申し訳ないが強くは見えない。瞳は髪色と同じブラウンで、逆に俺の瞳を覗き返しては勝手に驚いていた。
思えば、俺らの黒髪黒目を見て驚かなかったのは、マイザスとその一味——おそらく、あらかじめマイザスによって教えられていたのだろう——だけだったな。カラコンとかスプレーとかないか、今度聞いてみるか。
安心しろって、忌み子だからって特殊能力があるわけじゃねえから。
「さて、今日からお前を鍛えてくれる『ジゼル』先生だ」
はい、なるほど、教えるの別の人じゃん。
「ちょいキール、そんな話聞いてねえよ」
当たり前だろ昨日の今日だぞ。どこまで極悪師匠だこいつ。先生がかわいそうになる。
「おいおい、先生が狼狽えてんぞ。なんとかしろよ師匠」
「うむ、そうだな。おいジゼル、後は頼んだ」
うーん、秒。
「「あいつはあとでぶっ飛ばす」」
互いの声がハモる。
「…気が合うな、少年」
「まったくだよ」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「さて、アズーといったか、少年よ」
「ああ、ジゼル師匠」
「お前は何故、棒術を…というかまあ、いわゆる体術を学ぼうと思ったんだ?」
「…俺が、学びたいからだ。魔道も好きだが、こういう白兵戦的なものも憧れてるんだ」
「なるほど…なあアズー、先に言っとくが、俺はお前に、お前の知りたいものを教えてやれるかはわからん」
「何故?」
「実戦形式の護身術的な感じだからだ。カッコ悪いとかいうなよ?俺が教えられるのが…」
「…かっこいい」
「…は?」
「あ?かっこいいって言ったの。俺が欲しいのは、何かを守る力だ。一番適してると思わないか?」
「ははっ、お前みたいなことを言った奴はなかなかいないぞ。誇っていい。俺はお前が気に入った」
「俺にそっちの趣味はない」
「面白いガキだ…おい!キール!こいつ、もらってくぞ!」
「ああ、存分にやってくれ。アズー、実はボスには話通してある。一週間、ここで学べ」
師匠たちの間でたらい回しにされる弟子、どうなんでしょう。
ニースもレイも、休憩時間に外で遊べるだけの余裕が出てきてますね。




