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2 転生したら探索しよう

 結論から言うと、スラムというのはひどいものだった。よくこんな状況でロケなんかできたよなとか思うくらいには。でも思いの外浮浪者のような人々はいないし、発砲音などもない。


 ここが夢にまでみたファンタジックな異世界ならば、おそらく原因はこの未発達の科学力によるものがあるんだろう。ただ単に住居の問題だけでスラムを形成している点と、そもそもこの世界では逆にこのくらいの文化レベルが一般的なんじゃないだろうか。元の世界、普通に科学進歩してるから魔法とか今更って感じだしな。


 そんなことを考えながら大通りに出ると、人だかりを見つけた。


「ありゃなんだ?マフィさんよ」


「よくわかんないよ、見えないもん。持ち上げてー」


「はいよ」


 …こいつ、やたらと軽いよな。まじでちゃんとしたもん食べさせないと可哀想だ。


「ぃしょ。どうだ?見えるか?」


「きゃはは!なにこれ!たかいよ!」


「お、おま、暴れんなって!肩車だよ!落ちる前に落ち着け!」


「むー、面白いんだもん…!えーっとね…」


「お?なんか見えたか!」


「なにも見えない!」


「見えないんかい」


 愕然とする横で頭をかく幼女…マフィ。


 思えば見えないのも当然である。二人足したところでせいぜい160cm届くか届かないくらいだろう。


 肩が痛くなってきたところで降ろすとマフィは肩車をねだってきたが、流石に肩が痛いっす。この肉体、貧弱も貧弱なんだもん。


「じゃあ…また今度?」


 泣きそうな顔で懇願してくるマフィに不覚にも胸がキュンとなってしまった。妹が可愛いっていうのはこういう感情なんだね。小学生だった頃のクラスメイトなんかより全然可愛い。俺も年か?


「わ、わかった、また今度な」


「やったあ!」


「はぐあっ」


 そして恒例妹ミサイル


 痛い、が、喜んでるマフィも可愛い。俺は転生してシスコンに目覚めたのかもしれん。


 少なくともこいつの存在が、俺に生きる気力を与えていることは明白だった。そう言った意味では、この少なからず恵まれた唯一の条件に感謝すらしている。多分俺一人だったなら、途端に生きる気力を無くして、餓死するか犯罪に巻き込まれて終わりだっただろう。


 まあまだ2日しか経ってないんですけどね。


 とかなんとか路上——ちゃんと端っこでやってる——で妹と戯れいると、スッと大きく影が差した。


「なあ、そこの少年」


「…あ?俺?」


 振り返ると、赤と白で彩られた軽鎧が良く似合う金髪の青年が、俺らの様子を覗き込んでいた。


 俺…いや、俺たちにそう言う能力が備わっているかはわからないが、同時に、直感的に気づいてしまった。


 俺たちは、異世界人だ。


 暗黙のうちにお互いの存在について分かってしまった二人は、その直後に前世の名前をも思い出した…片方だけが。


「三年二組十五番」


 次の瞬間そのイケメンは俺に耳打ちした。


 俺の学年とクラス、出席番号だった。


「お前、もしかして…」


「内密にな、ここじゃそんなこと言うとなんかなりかねんからな」


 そう言って困ったような笑みを浮かべ、人差し指を口の前で立てるイケメン。クソが、なんでそんなに似合うんだよ。


「タカジュンとでも言えばわかるか?今はファウスト=ナイトホークで通ってるから、そこんとこよろしくな」


「お、おう、こちらこそ」


 そう言って互いに差し出された手をと…


「はいはい、こんなとこで道草食ってないで、行くよ!おにーさん!」


「おいおいちょっと待ってくれよセリアちゃん」


 同郷の者同士の握手は叶うことなく、いかにもしっかり者、といった感じの少女に連れていかれるイケメン。


「しっかりしてよ!おにーさんは勇者なんだから!この先だよ、ダンジョンが出現したっていう森は」


 …へぇ、あのイケメン、勇者なのか。しかも前世は、その誰にでも分け隔てなく接する態度で男女から人気のあった陽キャときたもんだ。転生担当の女神様とかは、そこんとこもう少し上手くやれなかったんかね。


「…お兄ちゃん、あの男のひと、誰?」


 少し怯えたように見上げるマフィ。ごめんな、女神とこの世界の全ての人々よ。俺、この子の兄貴である時点で転生先優勝したかもしれん。世界中見渡してもこの子ほどの天使は見つからんだろう。


「ああ、よくわからんけど、俺のことを知ってるみたいなんだ」


 嘘じゃない。だって俺、あいつのニックネームは知ってるけど、フルネーム知らないもん。


 とかなんとか言ってると、突然抱きついてくるマフィ。俯いてる様子からして、不安だったんだろう。おんぶを促すと背中にくっついてきた。


 そうして俺は、久々に静かなマフィを背負って家に戻った。


 きっとあいつは今頃、女の子と一緒にダンジョンデートにでも行ってるんだろう。


 ふと横を見ると、俺にくっつくように眠っているマフィがいた。静かだったのは、不安とか怯えからじゃなく、ただ単に動き回って疲れたからかもしれないな。俺も今日は疲れたし。


 そして二人は倒れるように寝込み、起きた頃には幼い体がひたすらに睡眠を求めることを理解した。そして、前世におけるシャワーというものがいかに活気的で革新的な発明だったかを思い知った。


 俺たちは気づかなかった。自分たちの家路が尾行されていたことに。


アズーは十歳くらいの男の子、マフィは六歳くらいの女の子、ファウストは十九歳の青年となっております。

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