16 パワーレベリンクの時間
朝早く、俺たちはマイザス宅の前に立っていた。
「前回は襲撃のために集まったんだっけか」
「あっさり止められたけどな」
「さすが親父たちだぜ…」
「あの人たちはすごい。俺にはわかる」
いつになく謙虚なジミーに驚きながら、俺たちは家の中に入っていった。今日からは修行の日々だ。
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俺の師匠になる人、名前は『キール』といったはずだ。マフラーを巻いた彼は、一双の椅子が用意されているというのにも関わらず部屋の隅に寄りかかるように立っていた。
「俺は座るのが得意じゃない。背中に空間があるのが嫌なんだ」
「へえ、まあ座ってくれよ。俺は座りたいんだ」
「行儀がいいな。とてもガザの民とは思えない育ちの良さだ。その汚い見た目とは大違いだな」
「はいはい。そっちこそ、見た目に相反して饒舌だな」
「当然だ。このマフラー、かっこいいだろ?年中つけてるだけでクールな印象になるぜ」
なんやねん。
「…見掛け倒しかよ」
「見た目は重要だからな」
そうして、まずは魔術について学ぶこととなった。
「まず基本。何もない場所から水を出すような、これ」
そう言って、立てた指先から水を飛ばす…師匠(?)。
「原初魔術」
俺も倣って、水鉄砲を想像しながら放水した。
「名前まで知ってるのか、話が早い。ならばとっとと説明に入らせてもらおう。原初魔術とは、この世に存在する物質を作る魔術の総称だ。自分の想像に魔力を掛け合わせて発動することができる。…なあ、なんで何もないところから何かが生まれるんだろうな」
「こんなガキに聞くなよ。知るわけがねえ」
「そんなこと言う奴をただのガキとは誰も思わねえよ。話を戻すぞ。もしも何もないところから得体の知れない力が湧いて、その力だけで物体を生み出すことができるとしよう。…いずれ、世界中に物が満ち足りて、パンパンになっちゃわないか?」
なるほど、この世界に生きてきた人たちだからこその疑問だな。とても面白い。
「…考えたことないな。なんか、こう、異次元の力的な感じでどっかにいってるんじゃないか?」
「実にガキらしい不思議な回答だ。俺は安心したぞ」
俺は傷ついたぞ。
「俺はな、アズー…こういうことを研究するのが『魔道』だと思ってるんだ。人を傷つけるための研究がしたいんじゃない、俺は『魔』の道を究めたいんだ」
「それじゃあ、今は人を傷つけるための研究をしているように聞こえるな」
「ははは、俺だって人を傷つけたことくらいあるさ。つくづく、魔道というのは個人にしか使えない物で良かったと思うぜ」
「…ああ、そうだな」
「あ、てなわけで、俺は体罰に魔術使うからよろしく!」
「反撃してぶっ飛ばしてやりてえ…」
「その意気だ!」
調子狂うなこのクソマフラー。
「そういえば質問だ」
「どうぞ」
「『魔法』ってなんだ?」
「…お前は、『法』ってどういう意味だか知ってるか?」
「当たり前だ。法則の法、決まりごとのことだろ」
何故異世界で漢字の勉強をしなきゃいけないのか。
「そう、世界の法則を魔を以って変える力。それが魔法だ。今現在発見されている限りで、大きく三つの分類に分けられる。『力』『象』『音』『生』だ。無から生み出し、無に還す。不変を変える・・・まさに世界の法則を変える学問だ」
『力』、こいつはおそらく力学についての話だろう。『生』もおそらく生物についてだ。『音』は音だろう、そのまま。『象』…エレファント的なやつじゃないとすると、現象の象か。実在する、物に関するものか…ん?
「…なあ、『原初魔術』って」
「察しがいいな。『象』の部類にそれをぶち込むっていう説もある。というかそう決めつけた方が早い。『魔』を究め『魔法』の研究に至った魔道士は、『魔法師』と呼ばれる。世界的に見てもなかなかいない、天才たちだ」
「『魔法師』か…」
「…お前もいずれ、大学に入れてやりてえな。こんなところで俺なんかの話を聞くよりもよっぽどいい」
「そうかい…あと2年はあんたの話で我慢してやる。いろんなこと、教えてくれよ」
「ククク…さあガキんちょ!まずは世界の広さから教えてやろう!」
俺は、かつてないほど意欲的に何かを学ぼうとしていた。