15 希望
「おいしい・・・おいしい!」
太陽のように眩しい笑顔のマフィを横目に、料理とも呼べないそれを味見してみる。
「ん!・・・うん、そうだな。食べ終わったら、お兄ちゃんのも食べていいぞ」
「いいの?ありがとう!」
想像に難くなかったが、まあそんなに美味しくはなかった。全体的に硬さがバラバラだ。いちいち苦いものが混じってるのは、なんか理由でもあるのだろうか。
異世界に来て初めての料理として、炒り大豆を作ってみたんだが、想像以上にひどい味で辟易した。だがしかし、ここまで楽に作れた以上俺たちの主食になるであろうことは間違いないのだ。味の改良・・・頑張るか。
とりあえずみんなに配ってみることと、マイザスにも打診しておこう。大豆、絶対有能だから。
「よし、マフィ。今日は何したい?」
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ジュエニ王国、王都カロン、行政統括府、とある一室。
「さて、今回集まってもらったのは他でもない」
平凡な初老の男は、おもむろに口を開いた。
「コンフィデンスについてだ」
その場の空気が緊張する。
「月日としては三年後ですが、前回の開催からはまだ三十年しか経っていない。これは、我が国が大国として認められているようになった証拠ととって、相違ないでしょう。さて、この場に集まった大臣、官僚、または国の重要人物たりえる方々、準備はよろしいですか・・・」
誰かが音を立てて生唾を飲み込む。
「ジュエニ王国乾杯!」
音頭と共に部屋の照明が明るくなり、会場は急に賑やかになった。
今日は月に一度の懇談会の日なのだが、コンフィデンスに関する報告に伴って一大パーティと化していた。自分が正規の軍人になってから三回しか参加していないが、今回の盛り上がり様は今までとは比べ物にならなかった。
「おにーさん!楽しんでる?」
「ああ、料理も美味しいし、雰囲気がこれだからな」
自分の従者であるセリアは、肩書きとしては大佐である。あくまで俺のおまけとして昇進したと自分では言っているが、そこらへんの貴族大佐に比べたらかなりの実力を持っていることはみんなが承知している。
そういう謙虚なところもいいんですけどね!
バシッという音と後ろから平手で叩かれる感覚。
「ようファウス!元気か?」
「いでっ!危ねえじゃねえか!せっかくの料理がこぼれそうだったぞ!」
「ははっ、わりいわりい」
この全然悪びれたそぶりを見せないチャラ男は、この国の准将、コーネリア=マイヤージュ。俺の幼馴染らしく、親友にしてセリアの兄。剣の腕が非常に高く、未来の将軍として活躍する新進気鋭の若手ホープである。一応は貴族の出身なのだが、妹同様快活な性格で主に庶民からの受けが良い。
この国では腕っ節によって地位が確立される傾向にあるのか、特に軍人には若いものもいくらか見受けられる。まだ主要国に比べて歴史がそれなりに浅いと言う点があるのだろうが、俺にとっては都合が良いので嬉しい。
「そういえばコーン、お前のとこの親父さんは元気してるのか?」
コーンとはコーネリアの愛称のことだ。
「あれに元気ないなんてことがあると思うか?きっと死ぬまで俺より元気だぜ」
「おう、あれとはなんだ?」
「げっ・・・親父・・・」
「外では父上と言えと言っとろうが!」
コーンの頭に拳骨が落ちる。
「父上!お久しゅうございます!」
「おお、セリア!元気そうだな!お前が移籍すると言うもんだから心配したが、なるほどファウスのところなら安心だな!」
「こんにちは、閣下。この度の作戦におかれましては・・・」
「堅苦しい挨拶はよせ、ファウス。お前も家族のようなものだからな。セリアの顔が見れたので儂はもう満足だしな!」
そう言って豪快に笑う老将『ザンギバル=マイヤージュ』。こと武力においてはこの国で五本の指に入る実力者であり、将軍、元老院を兼任する豪傑だ。
君主議院両立制を採るこの国の、定員を持たず世襲が基本となっている元老院は上院にあたる。また、姓を持たない平民のみで構成される、上院への助言と請願を主な役割とする国民議会が下院にあたる。大臣は国王の補佐的な存在として、最低でも半数は上院から選出される。元の世界で考えると、立憲君主制に国王の強力な権力が合わさった感じだろうか。
そんなわけで、俺の恋人の実家は国政に大きな発言力を持った豪族、対するナイトホーク家は一介の下院議員の家系なので、本来完全に身分違いなのだ。ちなみにハト派である。
この国が新興国である都合上、法整備や急成長した市場の管理、対外政策から国内の社会問題に至るまで、多忙に多忙を掛け合わせたような政情の中で、こうしてパーティが開かれていることとそれに対する国民の非難の無さから俺は、この国が相当気に入ってしまった。集まりごと大好きだし、俺若いって言う理由でなかなか仕事くれないし。
「お父様!私はこの方に一生ついていくと決めました。つきましては、この場を借りて正式にお伝えしたく・・・」
「よい。この男は信用できる。理由はそれだけで十分だ。好きに生きなさい」
「! ありがとうございます!」
その笑顔は、今まで見てきたどんな女性よりも輝いていた。
「なあ、お父様。俺も早く自立・・・」
「お前はまだだ」
「なんでよ〜!」
「どんまいコーン。もう少し修練を積んで将軍になったらお願いしてみな」
泣きそうになってる幼馴染の背をさすりながら、パーティの夜は更けていった。