13 異文化理解
俺に勇者と会う予定があることなど知らず、みんなは休日として俺の家に来ていた。
あいつら、俺が日課の水溜めしてるときに来たもんだから、相当朝が早いんじゃなかろうか。朝はできるだけ寝るに限るんだよなあ。学校だったって、無駄に早く行く必要もホームルームをやる必要も、全く感じなかったし。子供は元気いっぱいで羨ましいよ。
そんな折にやはり早起き勇者くんが来ちゃったんで、俺の家が軽くパーティになってしまった。マフィが嬉しそうなら、それに越したことはないのさ。
「おはよう勇者。早いな、いつにも増して」
「ああ、時空転移を使ってきたからな」
え、何その厨二病全開ワード。かっこよすぎだろ教えてくんねえかな。
「勇者さん!じくーてんいってなんですか?」
「きっと、とってもすごい魔法だよマフィ!」
「てことは・・・やっぱり勇者ってすごい人!?」
「ああ、そうさ!なんてったって、勇者だからな!・・・おいアズー、こいつら、お前のお友達か?」
「そうだよ。仲良くしてやってくんな」
「投げるねえ。まあ、小さい子の相手はセリアにしてもらおうかな」
「・・・人のこと言えないよ、おにーさん」
バケツリレーの如く役割を回された、セリスと呼ばれた巨乳従者は、それでもきちんと子供たちとじゃれていた。
「さあ君たち、このお兄さんはちょっと大事な話があるから、向こうで遊ぼうか」
「おねえさんもすごいひと?」
「俺たちよりたくさん水出せるでしょ!」
「えー!すごい!見せてよ!」
「わわっ、ちょっと待ってってば!」
子供たちの無限のエネルギーを前に、さすがの子供好き従者も圧倒されているようだった。
にしても、やはりこいつら・・・ニースたちは、大人っぽく見える時もあるけど、根はちゃんと子供なんだな。ちょっと安心したぜ。
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「まず、この世界の月についてなんだが、一年は全部で四ヶ月だ」
第三回勇者くん講座、はじまりはじまり。
「サイデュアリ、クルデュアリ、アリミュアリ、マスミュアリの四ヶ月で、それぞれ秋月、冬月、春月、夏月を表している」
「それはもう四季で良かったんじゃないのか?」
「いや、それが、月の周期そのものが一年を通じて四回なんだよ。補足しておくと、この世界の一年は320日だ。何故か、全くと言っていいほど誤差のない太陰暦が完成できる」
「興味深いな。ちなみに一週間は?」
「八日だ」
「・・・そんなこったろうと思ったよ。まるで、暦作りがめんどくさくなった神様が世界のあり方を少しずつずらしたような世界線だな」
「他人事なら笑えたのにな!はははは!」
「笑ってんじゃねえか・・・」
「豆知識程度に入れておくと、クルデュアリとアリミュアリの間が年越しだ。そんで、東西南北はそれぞれアリク、サイズ、メスク、クルズとなっている。北半球目線の暑い寒いを基準にしてもらえば、わかりやすいかな」
「なんていうか、異世界ってめんどくさいんだな。一般常識ですら日本と全然違うからややこしいぜ」
「まあまあ。異世界の大気が地球と変わらず、なぜか言語が通じるってだけいいんじゃないか?」
「それも・・・そうだな。諦めるか」
そう言って後ろに倒れると、勇者も隣に寝っ転がってきた。
「服、汚れんぞ」
「ん?気にしないよ。・・・なんて言うかお前、丸くなったよな。こっち来てからなんかあったのか?」
「陰キャの変わり様なんか誰も気にやしねえよ」
「そこらへんまだお前らしいのな」
そうして俺らは、学生のように談笑していた。
異世界に来なければ、こいつと笑い合うようなことなんてなかっただろうな。