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ある諜報員の話

作者: 中尾リョウ

さぁて、旅支度もこれで終いだな。

あとはアイツが来るのを待つだけか。

しかし、オレも年を取ったもんだなァ。

こんな面倒事に首をつっこむなんて、昔じゃ考えられねぇよ。



へい、いらっしゃい。ああ、来たかい。

おぉい、ちっとココ代わってくれや。

あン?長旅の前の世間話さ。奥の部屋使わしてもらうよ。

いらんいらん、こいつに出す茶なんかもったいねぇよ。

うちよりよっぽど儲けてるからなぁ、はっは!

へいへい、じゃあ店番頼むよ。



さて。

これがアンタの求めてた情報だ。確認してくれ。

これ以上は出てこねぇ、悪いな。如何せん10年以上も前の事だ、細けえ事はわからんことも多い。すまんな。


しかし、あの「裏切りの英雄」に首突っ込もうなんて、酔狂なやつだな。事情は聞かんが、今でも恨んでるやつが多いのはわかってんだろ。


約束ゥ?馬鹿か、こんなとこで話すんじゃねぇよ!巻き込むんじゃねぇ!ってめ、わざとか!あー聞こえねえ聞こえねえ!

ああもう、それ持ってとっとと帰ってくれ。

あ?あーハイハイわかってるよ。ったく、そっちが混ぜっ返すからだろうが。

いいか、こっからは話すだけだ。ここで書くなよ。

そもそも――――




思いの外長くなっちまったなぁ。年寄りの話は長くていけないねぇ。

はっはっ、そうさ。頼もしい跡取り息子がいて鼻が高い高い。わしも安心して隠居出来るってもんさ。

今まで必死こいて働いてきたんだ、ちょっとばかり羽をのばしてもバチはあたらんだろ。

ああ、もう時間か。

わかっとる、なにかいい物あったらちゃんと送る。手紙?気が向いたらな。はァ?わしの悪筆を散々貶しといて、よっく言うわ。はいはい、わかったわかった。わかったよ。

じゃあ、行ってくる。しっかりやりな。




さて、とっととずらがるか。

こちとら散々仕込まれて長年やってきたんだ、簡単には追い付かせねェよ。店も息子も、オレ無しで充分やっていけるようになった。これでオレがいなくなりゃ、一安心さ。

二度と帰る気はないが、たまには連絡入れるか。向こうから探されて足がついたんじゃ困るからなァ。




馬鹿だよな、あいつも。

大馬鹿野郎だよ。

いつの間にか、監視対象に惚れ込んじまって。逆だろ、惚れさせる側だろ俺達は。英雄の首根っこ捕まえとくためのよ。大出世だって笑ってたじゃねぇか。なあそういうモンだろ、俺たち諜報員は。

せっかく、何の問題もなく村に馴染んで暮らしてたのに。

英雄の女と恋仲になって。うまくやれてたじゃねえか。

なのに、何でだよ。

どうして惚れちまったんかねぇ。色恋沙汰は身を滅ぼすって、あれほど叩き込まれたろうによ。



命令に逆らって、村に留まって。

仲間に殺されるなんて、殺させるなんてあんまりじゃねぇか。

なぁ、義息子よ。



俺にも人の心があったんだなぁって、妙に安心したもんだ。

あれから逃げ出して、情報屋紛いの事をして日銭稼いで。足洗ってまっとうな仕事について、嫁ももらって店はじめて。しごいた長男は今や立派な若旦那とくりゃあ、オレの人生大したもんじゃねぇか。


心残りなんてモンはいつだってありゃしねぇが、ま、人助けの一つもしてやるさ。色々と話しちまったからな、追っ手がわんさかやって来るだろ。あーあ、善行も楽じゃないねェ。



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