07 メルの思い出
「お祭り?」
「ここは勇者が魔王討伐のため、最初に訪れる町という伝説があったろ? そのお祭りだ」
「お祭りか……話には聞いたことあったけど、実際に見るのは初めてかも」
メルは抑えきれない好奇心を表情から漏れさせながら、鼻息を荒くしている。その様子に、複雑な感情を抱きながらコルネはこう言った。
「勇者は、お前たちにとっては言わば同族を殺し、魔王を滅ぼそうとした殺戮者だ。そんな奴を讃える祭りなんて、あまり気持ちのいいものじゃ無いだろ?」
メルはコルネの言葉に少し戸惑い、何かを考えるように空を見上げた。
すっかり日が落ちた空には星が煌めいていて、昼間の青空の清々しさから一変、まるで宝石を散りばめた黒い絨毯のような気品のある美しさに、メルは思わずため息をつく。
心を奪われる様な感覚に身を委ねながら、何かを思い出した様にメルは言った。
「きっとね、勇者もみんながみんな、私たちにとって悪い人じゃなかったんだと思う」
メルから出た意外な言葉にコルネは思わず聞き返してしまった。
「どうして……そう思うんだ?」
すると、メルはコルネに向かって笑顔で言った。
「お母さんがね、言ってたの。『私たちのご先祖様は、とても優しい勇者の人に救われたのよ』って。『だから、私はあなたのお父さんと結婚したのよ』って。だから、私勇者の事嫌いじゃ無いんだ。むしろ好きだよ」
そしてメルは何かを思い出したように、急に暗い表情になって付け加える様に言った。
「でも、やっぱり人間は嫌い」
メルの落ち込んだ様子を見て、過去に何があったのかを尋ねる事無く、コルネは正面を見続けたまま『そうか』と一言だけ呟いた。
夜のベルルの町を二人で歩きながら、メルはコルネに対して奇妙な感覚を覚えた。今日会ったばかりの素性も知らないただの人間に、メルはどこか懐かしくて暖かい気持ちを抱いていた。
コルネの大きな背中に、どことなくお父さんの面影が重なる。
『会いたい、お父さんとお母さんとまた一緒に暮らしたい』忘れようと、ずっと努力してようやく忘れることの出来たあの気持ちが、不意に間欠泉の如く吹き出してしまう。
一瞬泣きそうになってメルは我慢した。
何とか唇を噛み締めて、目から流れ出そうになる涙を押し留める。
でも、このまま黙って歩いていると我慢できずに泣き出しそうで、メルは思わずコルネに話しかけた。
「コルネは、今までどんな風に生きてきたの?」
純粋に思ったことをつい、コルネに質問してしまった。
質問してメルはすぐにはっと気が付く。
安易に他人の素性を知りたがるのは悪い事だと。自分がやられて一番嫌な事をコルネにしてしまったと、メルは後悔した。
せっかく知り合えた、お父さん以外の良い人間。その人に嫌な思いをさせたのではないかと、メルは急に怖くなってしまう。
「ごめんなさい」
メルはコルネが返答する前に謝る。
いつも、人間の顔色を窺って生きてきたのに、つい気が緩んでしまったとメルは反省した。
「どうして謝る?」
コルネは不思議そうにメルに尋ねた。
それに対して、メルは『知り合って間もないのに、急にこんな質問してごめんなさい』と答えた。
「別に、謝るほどの事じゃない」
コルネはメルに対して優しく諭すようにそう言った。
しばらく何とも言えない沈黙が続くと、メルは静かにコルネに対して自分の身の上話をし始めた。
「コルネ、言ったでしょ? 『逃げてきたのか?』って。その通りだよ、私逃げてきたんだ。自分が生まれたあの町から……ううん、人間から」
メルが生まれたのは今からおよそ十二年前。
メルはべルルから二つほど町を経由して離れた、マルクという小さな村に両親と三人で住んでいた。
デミヒューマンの母と人間の父との間に生まれたハーフだから、メルや両親は村の人たちからいつも避けられていた。
お母さんもお父さんも元々この村に住んでいた訳では無く、何かから逃げる様に小さな集落を転々としながら暮らしていた。
だから、この三人の親子の素性を村人は知る由も無く、外から来た変わり者として腫れ物に触る様な扱いを受けていた。
元々、お母さんは魔女の森と呼ばれる場所に住んでいて、そこで多くの兄弟と暮らしていたのだが、何か理由が有って、この森から出なければならなくなってしまったらしい。
その理由を、お母さんはメルに頑なに話さなかった。
そして、村や町を転々としている時にメルのお父さんに出会い、この村でメルが生まれたという経緯だった。
メルには友達がいなくて、いつも村の子供たちに苛められて一人ぼっちだったけれど、幸せだった。
大好きな優しいお父さんとお母さんとただ一緒に居るだけで、それだけで十分だった。
メルは朝早く起きて、お父さんの畑仕事を見るのが好きだった。お母さんの美味しいご飯が楽しみで、お昼からはお母さんから習う魔法の勉強が大変だったけど、大好きなお母さんと一緒なら何だって嬉しかった。
ずっと、平凡で何よりも幸せな毎日がこの先も続いてゆくと思っていた。けれどそんな幸福な日々は突然、音もなく消え去った。
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