表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
始まりの町ベルルにて  作者: 鼻村鼻太郎
7/20

07 メルの思い出


「お祭り?」


「ここは勇者が魔王討伐のため、最初に訪れる町という伝説があったろ? そのお祭りだ」


「お祭りか……話には聞いたことあったけど、実際に見るのは初めてかも」


 メルは抑えきれない好奇心を表情から漏れさせながら、鼻息を荒くしている。その様子に、複雑な感情を抱きながらコルネはこう言った。


「勇者は、お前たちにとっては言わば同族を殺し、魔王を滅ぼそうとした殺戮者だ。そんな奴を讃える祭りなんて、あまり気持ちのいいものじゃ無いだろ?」


 メルはコルネの言葉に少し戸惑い、何かを考えるように空を見上げた。


 すっかり日が落ちた空には星が煌めいていて、昼間の青空の清々しさから一変、まるで宝石を散りばめた黒い絨毯のような気品のある美しさに、メルは思わずため息をつく。


 心を奪われる様な感覚に身を委ねながら、何かを思い出した様にメルは言った。



「きっとね、勇者もみんながみんな、私たちにとって悪い人じゃなかったんだと思う」



 メルから出た意外な言葉にコルネは思わず聞き返してしまった。



「どうして……そう思うんだ?」



 すると、メルはコルネに向かって笑顔で言った。



「お母さんがね、言ってたの。『私たちのご先祖様は、とても優しい勇者の人に救われたのよ』って。『だから、私はあなたのお父さんと結婚したのよ』って。だから、私勇者の事嫌いじゃ無いんだ。むしろ好きだよ」



 そしてメルは何かを思い出したように、急に暗い表情になって付け加える様に言った。



「でも、やっぱり人間は嫌い」



 メルの落ち込んだ様子を見て、過去に何があったのかを尋ねる事無く、コルネは正面を見続けたまま『そうか』と一言だけ呟いた。


 夜のベルルの町を二人で歩きながら、メルはコルネに対して奇妙な感覚を覚えた。今日会ったばかりの素性も知らないただの人間に、メルはどこか懐かしくて暖かい気持ちを抱いていた。


 コルネの大きな背中に、どことなくお父さんの面影が重なる。


 『会いたい、お父さんとお母さんとまた一緒に暮らしたい』忘れようと、ずっと努力してようやく忘れることの出来たあの気持ちが、不意に間欠泉の如く吹き出してしまう。


 一瞬泣きそうになってメルは我慢した。


 何とか唇を噛み締めて、目から流れ出そうになる涙を押し留める。


 でも、このまま黙って歩いていると我慢できずに泣き出しそうで、メルは思わずコルネに話しかけた。



「コルネは、今までどんな風に生きてきたの?」



 純粋に思ったことをつい、コルネに質問してしまった。


 質問してメルはすぐにはっと気が付く。


 安易に他人の素性を知りたがるのは悪い事だと。自分がやられて一番嫌な事をコルネにしてしまったと、メルは後悔した。


 せっかく知り合えた、お父さん以外の良い人間。その人に嫌な思いをさせたのではないかと、メルは急に怖くなってしまう。


「ごめんなさい」


 メルはコルネが返答する前に謝る。


 いつも、人間の顔色を窺って生きてきたのに、つい気が緩んでしまったとメルは反省した。


「どうして謝る?」


 コルネは不思議そうにメルに尋ねた。


 それに対して、メルは『知り合って間もないのに、急にこんな質問してごめんなさい』と答えた。



「別に、謝るほどの事じゃない」



 コルネはメルに対して優しく諭すようにそう言った。


 しばらく何とも言えない沈黙が続くと、メルは静かにコルネに対して自分の身の上話をし始めた。


「コルネ、言ったでしょ? 『逃げてきたのか?』って。その通りだよ、私逃げてきたんだ。自分が生まれたあの町から……ううん、人間から」






 

 メルが生まれたのは今からおよそ十二年前。


 メルはべルルから二つほど町を経由して離れた、マルクという小さな村に両親と三人で住んでいた。

 デミヒューマンの母と人間の父との間に生まれたハーフだから、メルや両親は村の人たちからいつも避けられていた。


 お母さんもお父さんも元々この村に住んでいた訳では無く、何かから逃げる様に小さな集落を転々としながら暮らしていた。


 だから、この三人の親子の素性を村人は知る由も無く、外から来た変わり者として腫れ物に触る様な扱いを受けていた。


 元々、お母さんは魔女の森と呼ばれる場所に住んでいて、そこで多くの兄弟と暮らしていたのだが、何か理由が有って、この森から出なければならなくなってしまったらしい。



 その理由を、お母さんはメルに頑なに話さなかった。



 そして、村や町を転々としている時にメルのお父さんに出会い、この村でメルが生まれたという経緯だった。


 メルには友達がいなくて、いつも村の子供たちに苛められて一人ぼっちだったけれど、幸せだった。


 大好きな優しいお父さんとお母さんとただ一緒に居るだけで、それだけで十分だった。


 メルは朝早く起きて、お父さんの畑仕事を見るのが好きだった。お母さんの美味しいご飯が楽しみで、お昼からはお母さんから習う魔法の勉強が大変だったけど、大好きなお母さんと一緒なら何だって嬉しかった。



 ずっと、平凡で何よりも幸せな毎日がこの先も続いてゆくと思っていた。けれどそんな幸福な日々は突然、音もなく消え去った。

興味を持ち読んで頂いた皆様へ
































「ちょっと面白いかも」 「続き気になるな」 「応援したくなった」
































そう思って頂けたのなら、広告下↓の【☆☆☆☆☆】から作品への応援をよろしくお願いします♪
































作品を書くためのパワーになりますので、応援して頂けると、とっても嬉しいです!
















どうか、応援のほど、よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ